ポルタサンタ・スカイゲート攻略戦1
――――いや、こんなに数はいらない
冷静に突きつけられた言葉は、今も胸に響いている。だから、せめてもの慈悲として彼は訴えかけたのだ。
――――せめて、せめて突入時だけでもいいから!!?
そんな謎の意地を汲まれて、さっきの雑に派手な宣戦布告が叶ったのだ。現在、彼が操る量子コンピュータ内臓のリモコンには、十四台の合法改造車両が支配下にある。
シンイチロウには早々に見限られ、アリス組は一台(運転手:マルシャンス)の改造車両で敵陣に向かっている。バドワイズ・フレッチャー・デイモンのプライドは程よく傷ついていた。
「……俺は登山家の嗜みとして全世界運転免許証を取得しているが、流石に戦闘で操るのは経験がないぞ」
やんわりとキーを返却される。バッドデイが操る調整特化型車両兵器の数が十五に増えた。泣かないもん。その全ては彼の武器であり、装備でもあるのだから。
「……お互い、頑丈さには自信あるだろう?」
「そういう物言いは卑怯だ。ま、あるがな」
殊更、戦闘に特化した話ではない。何かしら身体を動かす趣味に特化した男としての肉体強度を問うている。男の意地から、クロキンスキーは肯定した。
「ええい、もうよい! 俺はやるから心配するな!」
「マジかよ、クレイジーだぜオッサン……!」
「お互い様だ。そして誰がオッサンだ」
「あの、貴方がたは戦闘要員としてカウントしてよろしいんですよね?」
サイブレックスの言葉に、二人は力強く頷いた。その間にも大量の天使兵を蒸発させていくサイブレックスに、説得力は皆無だろう。蒸発していく天使兵に彼らを加えるのは、それこそ指一つの動きすら必要ないのだから。
(マギア・ヒーロー。流石に彼女以上の戦闘力は、あの中には感知できませんでした。その事実は、即ち私以上の戦闘能力を有している者がいないことを意味しています)
前回の死闘では、あやかはサイブレックスに勝ったとは言い難い。実力としては完全に高性能アンドロイドに遅れを取っていただろう。
だが、彼女は獰猛に成長する。あの場にいた面子でサイブレックスを下せる者がいるのであれば、彼女しかいないという確信があった。
(ですが、事実彼らは自身のタスクをこなしていきました)
既に聖域に突入していった面々を思い返す。バッドデイの合法改造車両軍団が盤面を掻き乱し、その間に、レダとシンイチロウは空から、ソレ以外の面子は地下から突入を果たしていた。
「私にも、ここの武装で同じことは出来ました」
悪趣味なハイビームとクラクションで滅茶苦茶やっているバッドデイは、汗臭いツナギの上からドンと胸を叩いた。
「遊びが足んねえよ! 速さだけじゃ奴らには見抜かれる。悔しいが天使の戦略眼は馬鹿にできねえ。想定の裏を行く手が必要なのさ」
仮面の天使兵が、バッドデイに大量の天使兵を殺到させる。彼は車のアクセルすら踏まなかった。予定調和的にイオン放射砲がまとめて蒸発させる。
「ここは聖域の外側。手を出せないのはお互い様というわけですか」
「そゆことー」
軽く言ってのけるバッドデイだが、聖域の縁を行ったり来たりと的確におちょくるような動きは、サイブレックスには出来ないだろう。
もちろん、技術的には可能だ。彼女には陽電子頭脳AIによる異次元の演算機構が内蔵されている。これは、発想の問題だ。
「俺の愛車が、俺の速さが、いかに活かしてやれるか」
上級天使兵が放つディバインライトを僅かなバックで避ける。同時、天使兵が複数グループに分かれて、聖域内の車両に自身の武装を突き刺していく。
「そう考えたら、こういう花道も悪くねえなって思った」
自爆。だが、聖域内ではその効果は薄い。指揮する上級天使兵もそれは理解していての一手だ。
「私、突っ込みますか?」
「いや、ここにいてくれ」
ただの自爆ではない。無茶苦茶なスパークが辺りの視界を封じる。バッドデイは自身が乗る車両以外を、残る全て聖域に突撃させる。
予定調和の迎撃。複数の爆風が聖域内に吹き荒れる。ここまで沈黙を保っていたクロキンスキーが背中のライフルを構えた。
「あれ、アンタがやるのかい?」
「やらせてくれ。ここまで来て見てるだけってのは、生き様に反する」
「どういう……?」
「山は登るものだ」
リソースが減って膠着状態に戻る。そう警戒したサイブレックスが首を捻る。突入した車両は全て撃墜され、
(――ていないッ!?)
反応があった。聖域から無事に帰還する一台。爆風に揉まれながらも聖域外に飛び出していく車両には。
「やりぃ!!」
無数のシートベルトに雁字搦めにボンネットに縛り付けられた上級天使兵。侵入経路は地中だ。サイブレックスは理解した。女神アリスの侵入経路。意表を突けることは証明済み。
「これだけの悪条件。私の光学兵器の方が確実です」
あれだけ頑なに聖域内に陣取っていた上級天使兵を聖域外に連れ出せた。だが、爆風・スパーク・スモークとライフル銃による狙撃には向かない悪条件が揃い踏み。
「嬢ちゃん。男の意地は、黙って通してやるのが良い女だ」
バッドデイが手で制する。苦し紛れのディバインレーザーが何故かハイビームライトに相殺される。
その直後。
クロキンスキーの極圧縮真空ライフル銃から音もなく弾丸が放たれる。
追撃のレーザーは来なかった。天使兵どもの動きが止まった。眉間を撃ち抜かれた上級天使兵の肉体が、光となって消えていく。
ミランの魔弾。場の天候や風向き、仕掛けなどの不確定要素をすべて無視して狙った場所に命中させる弾丸。この大戦果があれば、20分のクールタイムなど大したことはない。
「……本当に、やり遂げましたね」
指揮系統を失った天使兵どもが、バッドデイの一団に襲いかかる。上級天使兵を連れ出したものと、自身が今乗っているもの。二台の合法改造車両だけでは防ぎきれない。
「認めるさ。この俺が今までの手腕の全てを発揮させた車両軍団より、あんたが高性能なんだってな」
「はい。私、高性能」
ハイマットフルバースト。
雪崩込む天使兵どもが光学兵器の奔流に次々と蒸発していく。彼らに聖域の加護を利用する姑息さは無かった。恐らくは与えられた命令のまま、聖域に近付く不届き者を攻撃していくだけだ。
「これで、恐れるものはありません」
不可思議な神の加護がなければ、この最前線は最も堅牢な要塞となろう。何故ならば、あの『機神』サイブレックスが守護するのだから。
「私の高性能に、圧し潰れなさい」
「微力ながら手助けするぜ」
「……本当に微力極まりないがなぁ」
聖域最前線の上級天使兵は倒した。この戦線は、『機神』の演算上では向こう数百年は維持することが可能だろう。
彼らは、聖域に突入していった仲間のことを想う。
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