従者、高性能と再会する
【エリア5-4:アークアーカイブス】
「ここが、最前線。腰が抜けちゃいそうですね」
遥加が真面目な顔で言うのも無理はない。大量の天使兵が無数の光学兵器で蒸発していく光景は、とてもではないが筆舌に尽くしがたい。
「うむぅ、ここを登ってくるのは確かに自殺行為以外の何物でもないな……」
クロキンスキーの顔が青ざめる。彼らはスミトが1日で用意した転送装置で、頂上までの防衛装置を素通りで抜けてきたのだ。だが、これから先はそうは行かない。
「聞いてはいたけど、氷壁の頂上なのに本当に暖かいね……むしろ暑いくらいだ」
「俺様が前に来たときもそうだったな。大規模なサーバーやらなんやらの排熱が凄いんだとさ」
シンイチロウとあやかが生身でクレバスを駆け下りる。残りは竜化したレダの背に乗ったまま待機だ。先遣隊としては申し分ない二人だろう。
「山脈丸ごと使った陽電子スーパコンピュータと、無数のサーバー群。いくら何でもスケールが狂ってる。末端のシステムまで鑑みれば惑星規模じゃないか」
彼の言葉はもっともだったが、何もかもが専門外のあやかは気にしていない。普段はこれらの排熱を冷やす装置が、最低限の物を除いて迎撃に当てられているせいか、地上と気温の差はない。
「高性能反応を二体確認。識別コード、グリーン。マスターからの使いと認識」
そんな二人の前に降り立ったのは、一体のアンドロイド。腰まである長さの淡い水色の髪に、陶器を思わせるような白い肌。黒縁メガネをかけた女性型だ。
「私は認証番号HFO‐700‐52‐13、通称サイブレックス。貴方がたをサポートするようマスターから仰せつかっております。お見知りおきを」
「よっす、お久!」
「貴女は、マギア・ヒーロー。割りと高性能な貴女が戦線に加わってくれるのであれば、純粋に高性能な私としても心強いです」
「本当に知り合いだったんだね。それにしても随分高性能に拘るな……」
両手を横に広げるサイブレックスの掌から、ビームライフルが飛び出す。発射された光線は曲線を描きながらクレバスに迫っていた天使兵を蒸発させた。
「排熱完了。再度掃射します。二人とも、お耳を塞いで口を開けてください」
同時、天空から降り注ぐ軌道イオン砲照射が遠くの天使兵どもを薙ぎ払った。ダメ押しとばかりにサイブレックスに内蔵されている高性能兵器群が一斉に放たれる。
ハイマットフルバースト。
その標的にされたこともあるあやかが、呑気に口笛で称賛していた。
「やっぱりすごいな。さっすが高性能ちゃん」
「はい、私は高性能ですから」
「凄まじいな…………これでエネルギー切れや弾切れの心配がないのは異常だよ」
マイクロブラックホール発電や内蔵インベントリなど、耳を疑うような技術を説明されたが、ここに来てようやく信じられた。まさしく、この一機だけで文明を壊滅させられることも可能だろう。
「それでも、ダメなのか」
「はい。非常に残念なことに、マスターの技術力をもってしてもあのエリアは突破出来かねます」
クレバスに降りる前に、目視してきた。クオルト氷壁の反対側に広がる聖域、ポルタサンタ・スカイゲート。
「あのエリアに留まるスィーリエ陣営の天使兵は、私のビームライフルをも生身で耐えるほどの耐久力を有しています。そして、そこに突入した私は自身のスペックの1%も発揮できませんでした」
マノアエルの脳内から抽出された情報通りの結果だった。
あの聖域こそが世界各地に散らばる天使兵どものエネルギーの供給源。聖域内の天使は耐久力を始めとした様々な能力が飛躍的に向上し、逆に神族以外の生命体のスペックは1%以下にまで減衰する。それは、もはや機械生命体と呼べるアンドロイドの彼女にも変わらず適用されるものだった。
「無人兵器の運用は一定の効果を果たしたみたいだが、敵本陣を攻め落とすには流石に不足か。一方、こちらで神族としてカウントされるのは女神アリスのみ。彼女の力であれば制圧も可能とは思えるけど……」
「そうはいかない、ようですね」
聖域の中央に鎮座する敵性反応。その能力の大きさは、現在セントラルに脅威を振りまいている二体の竜王に匹敵する。女神スィーリエ以外にも、まだ、そんな桁違いの敵が存在するのだ。
「権天使アーリアル」
あやかが、脅威の名を呟いた。
「親玉のスィーリエはウチのアリスとぶつかるとして、俺様とメルヒェンが相手取る強敵だ」
そういう作戦だった。他の者は、彼女らを権天使の下に行かせるための道を作る。
大天使級の戦力は全滅したとしても、まだ上級天使の何体かは残されているはずだ。
「サイブレックス、前線をサンタポルタの直前まで進められるか?」
「かなり厳しいです。聖域の加護を得ながら指揮を取る上級天使の突破が困難です」
「じゃ、まずはそこからだな!」
あやかはにっかりと笑った。勝算が見えてこない戦いに暗い顔のシンイチロウと、戦線維持だけを考えていたサイブレックスの表情が変わる。
「スミトさんは何でも知っているようで、現場を知ってはいない。最前線の空気を肌で感じているのは俺様たちだ」
「頼もしいことを言うもんだ。僕は前線奪取の作戦を考える。みなの意見が必要だ。呼んできてくれるかい?」
「おうよ!」
あやかが身体を軽くほぐす。そして、走り出す前に振り返った。
「サイブレックス。お前の力も必要だ。よろしくな!」
「――――はい」
僅かに口角を上げたアンドロイドは、再び戦線維持のために飛び回る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます