女神と従者、魔法を取り戻す
【エリア5-1:ウインタードリームカントリー】
「「「「「「かんぱーい」」」」」」
町一番のおしゃれな喫茶店『ウィンター・ウェルト・ウェスタント』。遥加一派がこの世界での冒険を始めた場所。要するに、振り出しに戻ってきたのだ。
「遥加ちゃん、身体は大丈夫そう?」
「うん、ありがと。みんな、何だかんだピンピンしていてすごいよね」
「HAHAHA! 走り屋はタフなんだよ!」
「さっすが! ウチの真由美ちゃんが一番グロッキーなんだもの」
「面目ないわ……」
肩を組んでバッドデイが笑った。彼女らは思い思いのフェイバリットドリンクのグラスを傾ける。
マルシャンスのスパーリングワインとクロキンスキーの渋い地酒が一番様になっていた。ちなみに、ハンドルキーパー気取りかと思えば実は下戸と白状したバッドデイは笑いを勝ち取った。
「何一つ笑える状況じゃないけど、本当にお疲れ様。私に着いてきてくれてありがとうございます。もう逃げられません」
遥加の苦笑いが場に染みる。最初の頃と比べて、随分と頼れる仲間が増えた。それに、遥加や真由美も凄まじい成長を遂げている。ここにいないあやかも、きっと。
「結局置いてきてしまったけど、いいのかい?」
「気にせん。心配より期待しとくほうが得だ」
シンイチロウの言葉に、クロキンスキーはとんでもない答えを返した。結局、バッドデイの保険(合法)改造車両の定員を鑑みてあやかの帰還は待たなかった。レダがただ一人残ると言い張るので、行先の伝言は残している。
「なんなら俺がひとっ走りしてくるぜ?」
「だーめ。バッドデイさんは、わ、た、し、の、専属ドライバーでしょうー?」
上目遣いでしだれかかる遥加に、バッドデイは上機嫌に笑った。どちらもノンアルのはずだったが。
「じゃ、このまま行くってことでいいね?」
「はーい! お願いします、ハンズアップさん」
ニッコリと笑うハンズアップの耳元で小さなイアリングが揺れる。ダークレッド基調のタイトなカクテルドレスがよく似合っている。相変わらずのお洒落さんのようだ。
「遥加さん、本当に?」
「うん。魔法は完全に戻ってる。ほとんど事情を話していないハンズアップさんが全く疑問に思わなかったでしょう? あの人の感覚は、あやかちゃんに匹敵すると思うよ」
完全復活。その頼もしすぎる言葉に響きに真由美は震えた。自分でもそれなりに修練を重ねたつもりではあったが、元々の才能と伸び率は決して無視できるものではない。
「じゃ、行こうか」
マギア・ハンズアップ。彼女はボディーガード兼、案内人だった。この世界で最も物を知っている占い師への。
♪
向かう途中、事故のような再会があった。
「俺様、無事帰還!!」
どこで仕入れた無骨な鎖でマノアエルを縛り付けているあやか。無茶苦茶に振り回しながら走ってきたのだろうか、完全の天使は青痣だらけだった。
「ゼー――戻った……ハァーーーー――――ぞっ」
数秒遅れて追いついたレダが慌てて人化し始める。彼女はシンイチロウから極力人化するよう厳しく言われていた。
「竜種より速いのか……」
「俺様、足の速さには自信あるんだぜ? 元陸上部だったからな。あと、いろいろ試してみたけど『増幅』の
「そうか。もう僕なんかが及びもつかない程遠くの存在になったようだね」
「いんや、そうでもねえ」
シンイチロウの表情が暗いのも無理はないだろう。先の戦いで想いの限り戦い抜いたジョーカー。黒の少女は彼によく懐いていた。
「本当に、礼を言うぜ。アンタのおかげでここまで来られた。奴も、満ち足りてたさ」
「……殊勝なことを言うんだな」
あやかは小さくベロを出して逃げた。鈍感な彼は照れ隠しだったことに気付かない。
そして、その逃げ先を封じるのは、完全に目が据わっている遥加だった。
「……悪いとは、思ってる。けど、あれ以外の方法が見つからなかった」
「悪いと思ってるのは、私にだけ、でしょ?」
「ああ」
ビンタ一発。
あやかは甘んじて受けた。
「これ以上えんまちゃんの想いを穢すことは、許さない。これ以上、あの子を弄ばないで」
今度は、あやかが遥加を殴った。
遥加は全く動じない。
「そんな、軟弱な女じゃねえ。戦える、強ええ想いだ。駄々こねてんじゃねえぞ」
「駄々くらいこねるよ。私のえんまちゃんなんだから」
ドン引きした表情であやかは一歩引いた。
「俺様、そんなことで叩かれたの?」
「お互い様でしょ。我儘放題は」
『偽物』であっても、暁えんまの執念は色褪せない。そんな共通認識が出来上がっていた。だから、これは少女たち個人の執着の話だった。
「……なんか、生身の方も強くなったな」
「修行パート挟んだからね」
「えーー、まじで? いいなー?」
そんな間抜けな言葉に、張り詰めた空気が一気に氷解する。こうして、遥加とあやかはなし崩し的な和解を果たした。果たせていなくとも、折り合いはつけたのだった。
「……あの二人が揃うと妙に面倒くさくて、少し面白いのよね」
「さよか」
頑として視線を合わせようとしない遥加とあやかに、一時行動をともにしていた真由美とクロキンスキーがこっそりと耳打ちする。
「…………」
全く反応しないあやかと対称的に、こちらを見てニコリと笑う遥加。真由美の表情は青ざめて、クロキンスキーの大きな身体に身を隠した。
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