女神、運命の再会を果たす
マギア・アリスとマギア・ジョーカー。
叶遥加と暁えんま。
彼女たちの関係性を語るのは非常に困難であり、その物語性は一つの世界に匹敵する。そして、終わりのあやかという現象が余計にすべてを掻き回して、その全容を把握しきれる者などいないだろう。
だから、心に留めておくべきことは。
彼女たちはお互いに運命の象徴であり、代替不能な特別な存在であることであろう。
♪
「――ジョーカー!!?」
三歩必殺。水色の斬撃が、古火竜レダの爪に受け止められる。渦中にいる黒の少女は全く無頓着のまま首を傾げていた。
「はる、はる⋯⋯はるか?」
「⋯⋯うん。そうだよ」
「どうして、私は、貴女の名を⋯⋯⋯⋯?」
その名前を何度も口ずさみ、ぼろぼろと大粒の涙を流す。その異様な光景に真由美は刃を引いた。
「あやかちゃん。説明」
「終わりのあやかの統括個体。『悪竜王』との死闘で死に物狂いで召喚した奴だ。俺様のネガもやられちまったから、記憶やら人格やらが不安定っぽい」
珍しく気まずそうに視線を逸らすあやか。遥加とは目を合わせられない。こうなるから、モンセーの元に転がり込んだあやかは情報の共有を行わず、正体を隠れて行動していた。『悪竜王』に生存をバラさないためという表向きの理由ももちろん大きかったが、その実では前述の理由の方が大きかった。
お互い、その異様な風貌から魔法を失っていることは察せられる。
それでも、どんな目に遭わされることか、消えかけた情念が恐怖を感じていた。
「どうして」
「コイツのネガが、失った魔法を取り戻す鍵になるからだ」
「えんまちゃんの⋯⋯⋯⋯?」
マギア・ジョーカー、暁えんまのネガ。遥加は、ジョーカーの涙を拭って、優しく手を差し伸べる。警戒を強めていたレダとシンイチロウが、その様子を見て警戒体制を解いた。
「私が、鍵、みたい。でも⋯⋯思い出せない、の。私の、力は⋯⋯?」
「⋯⋯ごめんね。私も実は知らないの。貴女はネガに堕ちずに、ずっと自分を保ったまま闘い続けたから」
そう言って、遥加はあやかを睨みつけた。
「αから聞いたよ。俺様も実物は見ていない」
「ある、ふぁ⋯⋯てことは輪廻のネガ結界で? 確かにあの世界での出来事はアリスには認識出来なかったけど、私は見聞きした全てを報告したはずよ!」
「⋯⋯大道寺。お前、そもそも途中退場じゃなかったか?」
「あ」
冷たい視線を感じて真由美は口をつぐんだ。
「コイツのネガの心臓は、その振動で情念暴動を引き起こす。無理矢理に情念を膨れあがらせ、人格を粉々に破壊するんだ」
遥加とあやか。彼女らに残されたなけなしの情念が、無理矢理膨れ上がらせる。そして、あやかの言い方では、その効力はジョーカー自身にも及ぶもの。あやかのネガと同じだ。
そして、悪意を喚起することで似たようなことを行える『悪竜王』の存在を意識する。魔法という奇跡に匹敵する悪意喚起はかの王にしかなし得ないだろう。
だから、方法は、二つに一つだ。
「事情は、大体分かった」
口を挟んだのはシンイチロウだった。人見知りが激しく、陰気で、そんな少女がこの世界で懐いている数少ない存在。
「君たちには、悪いけれど。手を引いてくれ。女の子一人を犠牲にする方法でこの世界を救えるとは思っていないし、そんな方法で力を取り戻した君たち程度に『脅威』を払えるとは思えない」
遥加も、あやかも、元の世界であればその選択肢しか無かっただろう。しかし、この世界には彼女らを凌駕する猛者が集結している。
「ミブ、さん⋯⋯」
「うん。そうですね。この子のこと、大事に考えてくれてありがとうございます」
遥加はにこりと笑った。
「⋯⋯いや、そうも言ってらんねえぜ。ソイツの魔力源は俺様だからな。魔法を失った今、せいぜい今日か明日には消えちまうぞ」
「「それでも」」
被った声に、あやかは肩をすくめた。あやか自身には、ジョーカーに対しては自身の使い魔の一つとしての認識しかない。だから使うのは決定事項だった。並々ならぬ因縁があるらしい真由美だけが、対処を迷って困惑している。
「ジョーカー⋯⋯」
「⋯⋯貴女。なんだか、ムカつく顔⋯⋯ね」
「なっ!!?」
あんまりなことを言われた真由美の顔が真っ赤に茹で上がった。彼女たちは終わりの世界で鎬を削った宿敵同士だった。ジョーカーにその記憶はないものの、感じるものは微かに残っていたみたいだ。
「でも」
ジョーカーは、遥加のことを抱き返した。
「負けたく、ない……かな」
「――なにに?」
嫌な予感がして、遥加の声が震えた。
ジョーカーは、まず真由美の顔を見た。彼女はぷいっと顔を背ける。そして、シンイチロウの顔を見た。何より優しげな表情を浮かべる彼の、本当の強さを知っている。
ジョーカーは、高月あやかを見た。
彼女は、しっかり向き合ってくれていた。
「貴女は、嘲笑うかしら? 私は戦いたい。私に込められた使命を、この情念の煌めきを以て成し遂げるの」
遥加の手から離れたジョーカーが、挑発的な笑みを浮かべる。遥加が見慣れず、真由美が見せつけられ、あやかが興味を抱かなかった表情。
「いや、笑わねえ」
『偽物』風情が、と。
かつてであれば嘲笑ったかもしれない。だが、彼女は紅蓮の煌めきを知ってしまった。『偽物』が『本物』になる奇跡を、自らが承認していた。
「覚悟があるな。良い目だ……俺が、かつて失っていたものだ」
だが、もう、二度と。あやかはジョーカーに拳を突き出した。黒の少女は恐る恐る突き合わせた。
「……不思議。いつか、こんな風に、拳を合わせた気がする」
「えんまちゃん」
「遥加。私を止める?」
「止めないよ。貴女の想いを、私は、尊重する」
止めたい。本当は。それでも。
「……ありがとう。だいすき」
想いを想うがままに。そんな願いを秘めて神の座に至った彼女だからこそ。その選択は決して止められない。
マルシャンス、バッドデイ、真由美は元より遥加の決心に従うつもりだ。クロキンスキーとレダはあやかの決定を違わない。一人残ったシンイチロウが特大のため息を吐いた。
「………………………………………………………………………………………………………………………………恨むぞ」
拗ねたようにそっぽを向く彼に、当のジョーカーが素朴な笑みを浮かべた。
「ミブさん、かわいい」
「茶化すなよ。別れが前提の戦いなんて……僕は嫌だぞ」
それでも彼が最善を尽くすことは、この場の誰もが承知していた。総意が固まった彼女らは歩みを進める。
決戦の地、エリア7の神竜神殿跡地に。
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