ミブ、謎の少女たちと古火竜に挑む

「で、なんなんだこの状況は⋯⋯⋯⋯」


 着替えを終えた少女と、その間に治療を終えた二人。形勢不利を見てこのエリアから離脱しようとするビルだったが、古火竜の追撃から自身を修復するのがやっとで、転移にまで回せる余力がない。ここに永住するのであれば問題はなさそうなのだが、そういうわけにもいかないだろう。


『ジリ貧だね( ´Д`)y━・~~、少しマズイかもよ(-.-;)y-~~~』

「俺様が思うに、結構余裕ないか?」

さすがはビルさんさすビルといったところだけど、問題はそうじゃないんだよ⋯⋯」

「これ以上、ビルさんに⋯⋯辛い目に、遭って欲しくない」


 仮面少女から隠れるようにシンイチロウに身を寄せるジョーカー。


「おい、俺様のこと覚えてねえんだろう?」

「⋯⋯なんか、怖い⋯⋯⋯⋯すごく」

「やめてあげなさい」

「ちぇー!」


 仮面少女が追い回そうとするも、シンイチロウが止める。彼を挟んだ睨み合い。結果として、シンイチロウの両腕に少女が抱きついているような構図になった。


『リョウテニ\(*≧∀≦*)/ハナ!』

「ビルさん!!?」


 同時、爆音。

 どこかの外壁が溶解したものの、すぐに修復される。だが、ジョーカーがシンイチロウの腕を掴む力が強まった。そして、シンイチロウの表情に怒りが混じる。


「⋯⋯へえ、良い顔すんじゃん」


 一人だけ何の感情も変化も無さそうな仮面少女だったが、彼女は最初から古火竜をその手で打ち倒すことを目的にしている。

 だから、この三人の目的は一致していた。


『無茶しなくていいよー♪( ´θ`)ノ 力使い果たしたらどっか行くでしょʅ(◞‿◟)ʃ』

「ごめん、ビルさん。僕の気が収まらない」

『気持ちは嬉しいけど、無理しないで(ㆀ˘・з・˘)』


 また、爆音。だが、ここにいる限りその火力は及ばない。


「⋯⋯あの、ビルさん。私、やっぱり、このまま見ているだけなんて⋯⋯」

「俺様はやるぞ」

『いや、そうじゃなくて( ̄^ ̄)』



、アレは⋯⋯( ̄▽ ̄;)』



 煽るような紙切れは、二人の怒りと一人の出鼻を挫く。天井に向かう非難がましい目線は、届いているのかどうかいまいち分からない。


「⋯⋯⋯⋯さて、策を練るか。君は何が出来るんだい?」


 仕切り直すように、シンイチロウは切り出した。確かにこのまま感情に任せて飛び出しても、さっきの二の舞にしかならない。冷静さを取り戻すための荒治療、と思っておくのがよいだろう。


「⋯⋯⋯⋯ごめんなさい。私⋯⋯自分が、何を出来るのか⋯⋯」

「コイツの固有魔法フェルラーゲンは『時空』だ。時間と空間を歪める、まさにチートだね」

「そんな『マサにガスだね』みたいなニュアンスで言われても⋯⋯」


「「え~今回の犯人は実に手ごわいです」」


『なんでピッタリなのさ( ̄▽ ̄;)』

「?」


 見たところ同じ日本人ではあるが、もしかしたら出身世界は同じなのかも知れなかった。一人分かっていないジョーカーが小首を傾げる。

 閑話休題。本人すら自覚していない『時空』の魔法は、仮面少女の言葉通りであればとんでもない能力であった。もちろん、古火竜攻略の鍵になるに違いない。だが、問題は。


「使えそう?」


 ジョーカーは首を傾げた。


『いや、君は何度も使っていたよ⋯⋯(¬_¬)ナニヲイマサラ』

「⋯⋯使える、のかも?」


 あやふやだ。命を預けるには心許なさ過ぎる。


「大丈夫じゃねーか? 魔法の使い方なんて、本人の情念に紐づいたモンだ。記憶の有無で使えねえもんじゃねえよ。使


 自称・魔法使えなくなった奴がのたまった。なおさら信用出来ない。


「いや、使えるかどうかも不確かな能力で戦うのは本人にも酷だろうよ⋯⋯」

「いえ」


 それでも、と。

 ジョーカーが控えめに片手を上げる。


「ビルさんの、助けになるのなら⋯⋯私、やります」


 オドオドとした口調とは裏腹の、強い目だった。仄暗い執念の炎がその双眸に灯る。シンイチロウは、何も言わずに小さく頷いた。


「⋯⋯と、なると現状役立たずの「俺様の方を見て言わないでくれますぅう!!?」⋯⋯いや君、実際に古火竜相手に何も出来なかったじゃん」

「くそぅ、俺様も魔法さえ使えれば⋯⋯!」

「言ってろ」


 散々振り回されたせいか、すっかり扱いが雑になってしまった。そして、雑に扱っても特に問題ないこともよく分かっていた。彼女の心は傷つかない。


「ビルさん、申し訳ない。十分ほど時間をいただけるかい?」

『十時間でもいいよ (゚Д゚)⁇』

「頼むから、そんな台無しなことを言わないでください⋯⋯」


 あんまり期待されていなくて肩を落とすシンイチロウは、それでもその双眸には確かな光が灯っている。


「シンイチロウ様、ひょっとして何か考えついた?」

「ああ。だけど君たちにはかなり負担を強いる」

「いいぜ。俺様が考えるよかマシだろうしな。って触れ込みだからな」

「モンセーさんに、かい?」


 仮面少女は曖昧に笑った。


「⋯⋯まあ、いい。打ち合わせと、お互いの能力を見せ合ってイメージを深めようか。ジョーカー⋯⋯いや、君は」


 シンイチロウは、わざわざ言い直した。『トランプ』に属するかのジョーカーと彼女は無関係だ。ビルの態度からそれを理解する。


「魔法の使い方を少しだけ練習しよう。ビルさんの話なら、そんなに根を詰める必要もなさそうだ」


 シンイチロウの腕に抱きつきながら、ジョーカーはぺこりと頭を下げた。懐かれているのか、そもそもこういう子なのか。判断が難しい。仮面少女のにやついた口元が癇に障った。


「⋯⋯いいさ。ビルさんに攻撃を続けるということは、即ち『トランプ』という組織そのものへの敵対行為」


 大型二丁拳銃『エボニー&アイボリー』。

 手入れが行き届いた銃身が暴威的な光を示す。



「その意味――――あのクソトカゲに思い知らしめてやる」

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