vs魔法少女ニュクス(前)
「そこのあなた! 今目が合ったわね! 私と勝負なさい!」
「え、今さらなにを⋯⋯?」
『おおっと出たあああああ!!!! 俺たちのニュクスたん、その殺し文句だああああ!!!! これは荒れるぞおおおお!!??』
耳障りな実況に顔を顰めながら、真由美は『創造』の
「おおっ!? あなた、それ何の魔法!? ふ、決勝まで上がってくる子はやっぱり骨があるね!」
「いや、決勝も何も⋯⋯というか貴女、さっきと言ってること違⋯⋯んん?」
何度も角度を変えながら決めポーズを見せるニュクスの姿を見て、真由美は小さく溜息を吐いた。腕試しも何もない。これは観客を楽しませるためのショーでしかないのを理解してしまったのだ。
「けどね! 私がこぉんなお嬢ちゃんに負けるわけがないんだから! けっちょんけっちょんにしちゃうんだゾ!」
観客からの声はドーム型のバリアに阻まれて届かないが、大盛り上がりなのは雰囲気で伝わってくる。
(私の力は、こんな見せ物にさせるためのものじゃない⋯⋯あの人の手腕は確かに見事だけど、
地を蹴る。試合開始のコングは既に鳴らされているのだ。狙うは足。突き出しに見せかけた袈裟斬りで動けなくする。負わせた傷は試合後に『治癒』の魔法で癒やせばいい。
「⋯⋯⋯⋯そろそろいいかな」
「っ!?」
狙われた右足を、ニュクスは真由美の太刀筋を見るまでもなく上げて回避した。そして、次撃に繋げようとする真由美の鼻先に、彼女が握る漆黒の杖の装飾が突き付ける。
「不意打ちを決めてくるなんて小賢しいわね! でもね! 悪いけど、私にもスーパーヒールの誇りがあるの。あなたの思い通りになんて、なってやらないんだから!」
(ここで退けるかっ)
回り込もうとする真由美の足捌きに、杖の先端に装着されたカンテラが追いつく。どの角度から回り込もうとしても、懐には入れない。
「あ、ごめんごめん。パフォーマンスしっかりしないとギャラを弾んでもらえないから。決してあなたを舐めているわけじゃないよ」
ゾクリとする目線に、真由美は斜めに下がった。耳元を黒い弾丸が通り抜ける。わざと外したことを真由美は理解して、そう理解されたことを理解したニュクスの口元が邪悪に綻ぶ。
「いいね。あとは実況猫ちゃんが勝手に盛り上げてくれるだろうし――――ガチでいくか」
「⋯⋯こちらこそ。無粋な真似をしてすみませんでした」
真由美が指を鳴らすと、彼女の周囲に無数の白球が浮かんだ。『創造』の魔法の根幹となす万能素材。そして、右手に刀を、左手に魔法のフィールドスコープ『ワールドヘッジ』を握る。
「――――バン! ノワールバレット!」
ニュクスが漆黒の杖『黒光杖ダークサクレクール』を振った。漆黒の弾丸を乱れ撃つ。その攻撃を『ワールドヘッジ』で覗き込んだ真由美は、周囲の白球から水色の弾丸を生み出して相殺する。
(何、この魔法⋯⋯? 組成はともかく、不安定な、まるで『闇』としか言いようもない漠然とした概念ね。これじゃあ私の魔法で再現は無理か⋯⋯)
それでも、威力とリーチは覗き込める。情報のアドバンテージはかなり大きい。
「りり、りりり――――」
刀の切っ先を向けながらも、距離は少しずつ離していく。ニュクスの身長の半分はあるあの黒光杖は、『闇』という漠然とした概念を担う魔法を出力することしか分かってはいない。
(迂闊に近付くのは危険。まずは何があっても対応できる距離を維持して、手を出させる)
そして、『創造』の魔法が生み出す中で最優の封じ手。透明化させた水色のリボンが四方八方からニュクスを狙う。
「ノワールハリケーン!」
闇の刃がニュクスを中心にばら撒かれる。真由美のリボンが全て切り裂かれ、同時に放った別の攻撃が真由美に伸びる。
「お返し! ノワールリボン!」
真似事。真由美の周囲にも同じく水色の刃が舞った。まとめて斬り伏せられる闇のリボン。
「ふふっ、あなた強いわね。私が見込んだ通りってとこかな?」
「それはどうも⋯⋯貴女の魔法も、見事な対応力です」
お互いに概念めいた魔法であるが故に、その対応力は本人の技量に依存する。魔法の応酬を何度か行うが、どれもお互いに観察に徹しているのがよく分かった。そして、先に動き出したのは――魔法少女ニュクス。
「アームド・ノワール!」
胸元のブローチから溢れ出す闇の力が鎧のように彼女に纏わりついた。呼応するように、真由美も水色の鎧に覆われる。手は揃えてほうが、相手の動きは読みやすい。
(けど、それは相手も同じ)
「さあ!! ぶっ放す!!」
来た。
思考と行動の差異。様子見が終わったのであれば、必然的に自分の戦闘スタイルに移行する。振り下ろされる黒光杖をスコープで弾くが、追撃の闇の弾丸をまともに食らう。
(打撃の追撃に、魔法を⋯⋯⋯⋯!?)
吹っ飛ばされる真由美だったが、追撃を防ぐために水色の泡がばら撒かれる。
「無駄無駄無駄ぁ!!」
ノワールハリケーン。刃の嵐が邪魔な泡をまとめて薙ぎ払った。同時、投擲された刀を闇の鎧で弾く。しかし、その大振りの懐に、既に真由美の姿はあった。
「
「ぐぅふっっ!!?」
拳。鎧で覆い隠した腹部に叩きつけられた一撃は、その衝撃をニュクスの肉体にまで通していた。まるで何発も同時に殴られたかのような、そんな衝撃。
「セット」
「ノワール」
「捕縛!」
「ハリケーンバレット!」
怯んだ隙に『束縛』での魔法封じを図る真由美だったが、リボンごと刃に切り裂かれ、無数の弾丸が鎧を砕いた。だが、そこに血飛沫はない。水色の幻影は景色を揺らしながら消えていった。
「うっは、いいね!」
振り返りながら振るう黒光杖が放つ闇エネルギー。右後ろと左後ろ。二人の真由美がまとめて薙ぎ倒された。どちらも『幻影』の魔法で生み出した分身。
「じゃ、本物は警戒解いた真正面か」
「正解、です」
『泡沫』のシャボン玉で光の屈折率を操作して、ニュクスの真正面、分身の奥に潜んでいた。攻撃が通った後の心理的な死角に。
構える刃の間合いはニュクスを捉えている。そして、ニュクスの身体は大振りの直後で重心を崩している。悪足掻きに突き出された黒光杖に、手応えはない。
「三歩必殺」
「アームド・ノワール!」
首筋に集まった闇エネルギーに、真由美の刃は砕け散った。完全に死角に潜り込んでの一撃を、しかしニュクスはほぼピンポイントで防いだのだ。
「な、んで⋯⋯⋯⋯?」
「んーーーー? 勘、かな」
ニュクスが邪悪な笑みを浮かべる。目線と足運び、そこから彼女はトドメの一撃がどこに来るのかを割り出していた。今までの戦いの経験値。その違いが勝負を分けた。
「ダークネス・バズーカ!!」
そして。
策を弄した真由美とは対照的に、ニュクスの『必殺』は単純明快。
「フェアヴァイレドッホ――――」
魔法の呪文を口にする前に、真由美の身体が闇の奔流に飲まれた。
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