従者、腕試しをする

【エリア0-2:セントラル地下】



――――U-17セントラル一最大絶命暗黒魔法少女武闘会とはッ!?


「魔法少女たちが最強の名声を手にするための大会。様々な異世界の魔法少女が、鍛えた魔法と肉体で凌ぎを削る――まさに全魔法少女の夢の祭典」

「ホノカさん、ふざけてません?」

「私はふざけてない。この大会がふざけてるだけ。あと一応変装中だから名前で呼ばないで」

「よかった、正気だったんですね⋯⋯⋯⋯」


 黒い眼帯に付け出っ歯の変装姿。そこにセントラル最強戦力の面影は無かった。まさかあの剣鬼であると見破れるやつはいないと豪語する彼女に、真由美も太鼓判を押した。


「魔法少女って、最強決めたりバトルしたりって言葉に一番遠いんじゃありません⋯⋯?」

「私は詳しく知らないけど、多分君の世界も同じようなものだよ⋯⋯」


 そして、問題はこの胡散臭さマックスの大会を取り仕切る運営側。その中心人物の名はエルト・シェイド。裏社会では『人事の悪魔』と呼ばれる大物だった。


「セントラルだけじゃない。色んな異世界をまたにかける犯罪組織の人事担当。彼が横流しにした犯罪者には対処に困っているし、逆に優秀な人材を奪われることもある。珍しく表立って行動している今、またとない捕らえるチャンスだよ。私は潜伏しているから、盛り上げて誘い出してね」

「⋯⋯そこまで重要人物なら、師匠せんせいが出場すべきでは? 魔法少女ソードオーガみたいな名前で⋯⋯」

「ば か に し て る ?」


 真由美は全力で首を横に振った。

 そして、ホノカが指差すのは『U-17』の部分。つまりは、17歳以下しか出場できないということ。真由美は彼女の年齢は知らなかったが、セントラルの重鎮を任せられる人間がまさか17歳以下ということはないだろう。


「一応聞くけど、真由美ちゃん何歳?」

「14歳です」


 14歳の魔法少女。出場条件に文句はないはずだ。


「あの面倒臭い大会荒らしのクソガキは今、20だったっけ⋯⋯うん、大丈夫。鍛えた成果を存分に活かしてね。優勝しないと折檻もとい特訓だから」

「ひぃ!?」


 小さい悲鳴を上げた真由美が縮こまった。


「えーーなになに? 参加数に制限はなく、16名より多かったら予選で各ブロックから選抜⋯⋯決勝トーナメントまで1日でやるんだ? これは体力管理が重要かな」

「さりげなくとんでもないクソ大会になってません!?」

「セントラル地下は場所代高いからね、経費削減のために突っ切ったんでしょ」


 14歳魔法少女に後悔の念が押し寄せる。

 だが、彼女は知らない。この先待ち受ける予想外の展開を――――







「レディースエンジェントルメンッ!! 魔法少女マニアの皆々様!! 大変ご機嫌日和で何よりでございますう――――!!!!」


 テンション高めの実況者は、人語を解する黒猫の小悪魔ちゃんだった。魔法少女の使い魔のモチーフとして野生の魔物を捕らえたらしい。万が一会場が盛り下がると殺処分と言い渡されているのでとにかく必死だ。


「さあさあお待ちかねッ!! 東西魔法少女のお出ましでございます!!」


 幸いにも、会場は大入り満員だった。脂ギッシュなお兄様方と、ひょろっとしたお姉様方が大半である。彼ら彼女らは金払いが良いことで有名だった。広報は大成功間違いなしだった。


「ひぃがあああしーー!! 闇魔法で殴打のスーパーヒール!! 魔法少女ニュクスたあああああん――――!!!!」


 嵐のような大歓声。魔法少女ニュクスの名前は、今やセントラル魔法少女界では最も有名な名前の一つとなっていた。そのネームバリュに死ぬほど感謝する黒猫実況者。


「にぃしいいいいーー!! 無垢で可憐な姫お嬢様!! 魔法少女メルヒェンたあああああん――――!!!!」


 大観衆の前でおどおどしている水色のゴスロリ装束の少女。円形の闘技場は客席から透明なバリアドームで保護されているため、その粘っこい声援は届かない。届かない方が良い内容ではあった。


(というか、どうして一騎打ちみたいな流れなの⋯⋯? ひょっとして、参加人数が足りなくてもう決勝トーナメントが始まってるの?)


 その答え合わせは実況から。


「さあさ! さあさ! 始めからクライマックスだ!! U-17セントラル一最大絶命暗黒魔法少女武闘会決勝戦ッッ!!!!」

(決勝戦!? 嘘でしょう!!?)


 U-17セントラル一最大絶命暗黒魔法少女武闘会。

 参加人数――――二人。


「いざ尋常にぃぃいいい開始ッッ!!!!」


 大入り満員の大会に、参加者二人。

 採用担当が派手に事故りやがった現場で、黒猫実況者が血の涙を流しながら生死を賭けた戦いに挑んでいた。







「やべ、やっちまった⋯⋯⋯⋯」


 隠し部屋で中継映像を見ながら、男は頭を覆った。濃灰色の髪に深紅の瞳の陰気そうな青年。その左目は前髪で隠れており、右目には深いクマ。着古したスウェットとジーンズの上に、カラスの紋章が描かれた立派なマントを装備している。

 『人事の悪魔』エルト・シェイド。

 頭の小さな角と腰から伸びる細い尻尾が、彼が正真正銘の悪魔だと示している。


「最近調子良いからしくったなぁ⋯⋯」


 エルトの目の前にはモニターが二つ。映る画面には対照的な映像が描かれていた。片や大入り満員でありながら出場者二人の大会、片やすっかすかの観客席に予選が白熱する大会。


「まさかこの世界、魔法少女の高齢化が社会問題になってたなんてな⋯⋯ネタで作った『セントラル一最大絶命暗黒魔法少女武闘会・成人18歳以上の部』にここまで人が集まるとは」


 陰気な青年は濃灰色の髪をがしがし掻きながらソファーにふんぞり返った。


「ニュクスはいい駒拾ったと思うが、魔法少女事業は失敗かなこれは⋯⋯⋯⋯。はあ、部長にどう報告しようか。掛かった経費もバカになんねえぞ⋯⋯? か? いやあでも給料いいしなぁ」


 ボヤボヤ呟く間に決勝が始まる。


「いやあでも迂闊に残るのも危険か。逮捕さパクられる気はさらさらないが――――ん?」


 トンズラこく準備を進めていたエルトがモニターに目を移す。ちなみに成人の部の方はとっくに電源を切っていた。



「ほう――――これは掘り出したかな」



―――― 次回、U-17セントラル一最大絶命暗黒魔法少女武闘会編クライマックス突入ッ!!

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