女神、時空竜との戦いに赴く(後)
「あやかちゃん、ちょっとこっちに」
「やだよ、その流れで呼ばれるの⋯⋯」
シュライティアの巨体に隠れるあやかが唇を尖らせる。化け物相手に遠慮は不要と弁えた風刃竜は、無慈悲な突風であやかを遥加の前に吹き飛ばす。
「シューちゃん!?」
「えい、たっち」
つかまっちゃったあやかはぶーぶー文句を言っている。
が、その直後。
「
「おんぎゃああああああああああ!!!!」
奇妙な叫び声を上げたあやかに、周囲の声が止まる。そして、眩い光に包まれた遥加がマルシャンスに抱き着く。見ると、彼女の傷は全快していた。
「えいっ」
純白の光がマルシャンスを包む。これまでの戦いの傷が癒えていくのを感じた。彼女に使える魔法は『浄化』、そしてその魔法に回復効果もあるのを彼は知っている。
「これは⋯⋯?」
「傷を癒す効果に特化した最大出力! 魔力切れの心配が無くなったから使いたい放題なんだから!」
「⋯⋯ありがとう」
心底嬉しそうにはしゃぐ遥加と、その後ろで芋虫のように這いずり回っているあやか。マルシャンスは若干引きながらも、まあなんかいい感じに収まっているのでとやかく言わない。
「あやかちゃん。想いは私たちの魔法の源泉でしょう? それくらいでへばっちゃうくらい貴女の想いは貧弱なの⋯⋯⋯⋯?」
「この阿婆擦れが⋯⋯⋯⋯!」
「えい、
想いが現実を歪める情念の怪物。その範疇に収まる存在であれば、遥加は触れるだけでその魔力を根こそぎ奪うことが出来る。そして、ありとあらゆる情念の機微を魔力として変換できるあやかが揃えばどうなるか。
「アルさん、アルさん! こっちこっち!」
「いや、俺はこんくらい平気だぞ?」
「アル、だめ⋯⋯おねがい」
地に沈み悶えるあやかを複雑な表情で見下ろすアルが、白埜にぐいぐい背中を押される。
「はい、いらっしゃい!」
純白の光がアルを包む。魔の性質を持つ彼にとってはじりじりと肌が焼けるような痛みが伴う光だったが、その性格ゆえに表には出さない。
「あれ、やっぱり⋯⋯無理かな⋯⋯⋯⋯?」
そして、ようやく傷が塞がり始めようとした頃に遥加がぺたんと座り込む。魔力切れだ。気にせずその場を離れようとするアル。白埜は転がっている
「シューちゃん、助けて!?」
「それぐらいで音を上げる弱い身ではないこと、承知している⋯⋯⋯⋯励め」
「
「うきゃああああああああああああああああ――――!!!!!!」
心底楽しそうに魔力を吸い上げる遥加。徐々に傷が癒えていくアル。その傷は深く、果たして何度あやかは魔力を奪われていくのか。
「よしッ! みぃんな私の近くに集まって!」
「おいばかやめろ」
「リロードリロードりりょ――あ、噛んじった」
「うみゃあああああああああああああああああ――――!!!!!!」
癒しの魔法が振りまかれる。楽しそうに笑う遥加が癒しの魔法を振り撒く。派手にばら撒かれた癒しの光はその多くが地に撒かれてしまう。けど、謎の万能感に支配された遥加はお構いなし。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――――!!!!!!」
「おぎゃああああああああああああああああああ――――!!!!!!」
「どりゃああああああああああああああああああ――――!!!!!!」
「みょわああああああああああああああああああ――――!!!!!!」
「どっこいしょおおおおおおおおおおおおおおお――――!!!!!!」
「うぼぁああああああああああああああああああ――――!!!!!!」
「まだまだあああああああああああああああああ――――!!!!!!」
「ぬわあああああああああああああああああああ――――!!!!!!」
「じゅうべえだあああああああああああああああ――――!!!!!!」
「やっだばあああああああああああああああああ――――!!!!!!」
「はああああああああああああああああああああ――――!!!!!!」
「ぬわあああああああああああああああああああ――――!!!!!!」
「こ れ で
と ど め だああああああああああ――――!!!!!!」
「ひぃでぇぶぅぅうううううう――――――ッッ!!!!!!」
♪
「アルさん、調子はどう? シュライティアさんも大丈夫?」
「⋯⋯ああ、問題ない」
「⋯⋯うむ、支障なし」
「マルシャンスさんも問題ない? エレミアさんも元気になった?」
「⋯⋯ええ、アタシは、うん」
「リア様のご加護故に! 私はいつまでも元気です!」
「バッドデイさんは? 白埜ちゃんやウィッシュちゃんも元気になった?」
「⋯⋯いや、俺は全然大丈夫だったぜ?」
「⋯⋯アルが、げんきなら」
「ありがとう、おともだち!」
豪快に笑う遥加の足の下では、全身から漆黒の煙を噴き出すあやかが震えている。散々酷使した結果、足でぐりぐり踏みつけている少女に周囲は引き気味だった。
「で⋯⋯アルさんだったかしら? 時空竜はもはや神話の存在と言っても差し支えないわ。その逸話はアタシにも聞き及んでる。挑むっていっても、なにか作戦でもあるの?」
「作戦ってほど大層なもんはねえよ。だが、結構な軍団が組織されて向かってるみてえだからそこに合流する。俺の知り合いもそこにいるし、セントラルの連中も一枚噛んでるって話だ」
聞いて、遥加はあやかと目を合わせた。セントラルの中枢に近い位置に食客という扱いで送り込んだ少女のことを思い浮かべる。もしかしたら彼女も合流しているかもしれない。
「よし! じゃあその人たちに合流だね!」
「おう、俺様はアンタに大事な話があんだっ!?」
蹴り飛ばされた。
なんかあまり仲が良くなさそうだった。
「おう! 行くなら俺の愛車に乗りな!」
「我の背にも乗るといい。時は一刻を争う」
真っ先に白埜とウィッシュが風刃竜の背に飛び乗った。
「俺様もっ!」
「ああ、ずるいずるい! 私も!」
「おい白埜、慌てんな!」
「遥加ちゃん、慌てたら危ないわよ」
「え、あのバッドデイの改造車両にですか? 絶対に嫌です」
(うわっ⋯俺の人望、低すぎ⋯?)
バッドデイが露骨に眉尻を下げた。
竜形態のシュライティアは全長100mの巨体だ。これくらいの人数は訳なかった。一人寂しく発進しようとするバッドデイに何かを感じたか、勢い良く遥加とマルシャンスが座席に飛び乗った。
「やっぱりこっちが落ち着くね!」
「ほら、急がないと風刃竜に置いていかれるわよ」
「お、お前らぁ⋯⋯⋯⋯!」
感激に涙ちょちょ切れるバッドデイに優しい笑顔を向け、遥加は一瞬だけ土の膨らみに目を向けた。全員を全快させた後、ジェバダイアの死体を埋めた場所だった。
(この人の意志は、本物だった――――私たちも、一歩間違えれば……)
強過ぎる想いが現実を歪める。
そんな魔法を少女たちは手にしていた。
世界の全てを障害として、その全てを跳ね除けても掴みたい夢があった。感情戦争はそんな戦いだった。彼の亡骸にしてあげられること、今の遥加には静かに両手を合わせることしかできない。
(それでも、私は戦い続けるよ――――⋯⋯)
竜と改造車両、異色の組み合わせが大戦乱に向かう。
彼女らは、誰一人として予想だにしていないだろう。
時空竜との過酷な戦いの果てに、待ち受ける結末を。
_________________
ソルト様
これにてこちらサイドは全員全快で『廃都時空戦役』に参加可能です!
真由美ちゃんはセントラル軍と一緒に適当に合流していただければと思いますので、よろしくお願いします!
次の話から久しぶりの真由美ちゃんサイドですが、『廃都時空戦役』参加前の時系列で進める予定なので整合性は問題なし(単純に考えてない)です。
何かご質問あればコメントいただければと思います。
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