vs宇宙大将軍ジェバダイア(中)

「ぬぅぅうん!!!!」


 スーパーノヴァ。

 暴力的な白光が全てを覆い、エレミアの光の剣すらも完全に塗り潰す。そして、遥加の前にマルシャンスが立ちはだかった。そして、遥加の右耳を手で塞ぐ。


『右に走って』


 遥加はマルシャンスの声に導かれるままに足を動かす。右耳からしか音声は聞こえない。そして、連携のために小型トランシーバーを起動するも、反応がない。原因として思い当たるのは、ジェバダイアが放った白い光。


『電磁波の爆発よ。アタシの機器は導電テープで補強済み♪ あらー電磁波シールドをご存知ない?』


 茶目っ気たっぷりの言葉を、遥加は半分以上理解出来てはいない。実は義務教育を受けていないのだ。

 しかし、その導電テープとやらがジェバダイアの電磁波爆発から小型トランシーバーを保護したことは理解出来た。状況としては、マルシャンスは一方的に遥加に声を届けられる。


「邪神の徒ごときがリア様の光を防ぐなんて⋯⋯私の信仰心もまだまだですね」


 

 その言葉に、遥加は口元が綻ぶのを抑えられない。シスター・エレミア。彼女はその信仰心故か、事の本質を見抜いてしまっている。『完全者』は、女神リアとは別の神性から干渉を受けている。


(神さまって時点で、私よりかは上なのは間違いない⋯⋯)

「リア様バスターーーー!!!!」


 新米女神であるアリスより神性が下ということは、まずあり得ない。その神性を介入するにはどれほどの『浄化』が必要か。そして、『浄化』の矢は何度も虹の光に塗り潰されている。恐らくは、神性の介入がなくともジェバダイアは遥加よりも強い。こうなると、圧倒的に物理に強いあやかが戦線を外れていることがいかに致命的なのか、思い知らされる。


―――― この戦い、俺様を頼るな!

(言ってくれるね⋯⋯)

「リア様ブレイカーーーー!!!!」


 『悲哀』の矢が乱れ飛ぶ。虹の光にその大部分が弾き落とされるも、何本かはジェバダイアの肉体まで届いていた。しかし、その矢は宇宙大将軍の皮膚に僅かな擦り傷をつけるのみ。


『シスターちゃんを中心に、固まらないように走って。擦り傷でも、傷は傷よ――――付け入る隙は必ずあるわ』

(私待ちってことね⋯⋯期待されちゃってるなぁ)

「リア様ハリケーーーーン!!!!」


 信仰の光は、そのことごとくが虹の光に飲まれる。だが、決して無駄では無い。彼女がジェバダイアと撃ち合えているからこそ、遥加とマルシャンスが動けている。そして、曲がりなりにも人間ではある三人に対して、ジェバダイアが持つ『天罰』の攻撃は致命的だった。


「鬱陶しい⋯⋯愚図め」


 眼中に無かった相手に翻弄され、ジェバダイアの声に苛立ちが込もる。背中から広がる虹の翼がうねり、エレミア目掛けて殺到する。


「つ! ら! ぬ! け!」


 大技と同時、遥加が『浄化』の矢を連発する。ジェバダイアが大きく飛び退いた。軌道上から逃げ、そして虹天剣の大振りで『浄化』の矢を叩き潰す。

 代わりに、殺到する虹の翼はエレミアから少し逸れた。圧倒的な破壊力の余波に吹き飛ばされるも、後ろに控えていたマルシャンスが受け止める。


「ほら、大丈夫? 


 煽るような口調だけではない。プロパガンダ・ブレス。言葉に宿る魔力が狂信者の光を爆増させる。ちゃっかりと裏返しの感情で回復させたマルシャンスは、エレミアを雑に投げ飛ばす。


「リア様スペシャルボンバーーーー!!!!」

『貴女の『浄化』を、避けたわね。アタシの矢は何度かくらっている⋯⋯⋯⋯やっぱり、脅威になるんじゃない?』


 遥加の顔色は厳しい。ジェバダイアは生身の人間だ。『完全者』としての神性加護がなければ、マルシャンスとエレミアの二人でも渡り合える。だが、『浄化』が神性を打ち消せるかどうかはほとんど賭けだ。


『⋯⋯ひょっとして、正解が見えない? いいのよ、それで。だからこそ、どうやって問題を打開するかってお話だもん――――貴女に分からないとは、思えないわ』

「フェアヴァイレドッホ!!」


 上げる言葉に、視線が集中するのを感じる。好奇、期待、警戒。視線の色は違うも、自分が争点の中心であることを否応なく思い知らされる。


「くだれ――光臨流星」


 天上から降る光の柱は、虹の光で相殺される。それは想定の内。だから遥加は前に走り出した。


「リア様バニッシュリング!!!!」


 ダメ押しの属性魔法。右手の中指につけられている、深紅の宝石の指輪が光る。爆発的に膨れ上がる炎と雷が虹天剣と拮抗する。

 そして、振り払った先に見た景色。


「ここが私の間合い⋯⋯!」

「お供するわ」


 大弓使い二人が懐に飛び込んでくる。虹天剣の分身が狙いを逸らすが、マルシャンスの涙の雨が蹴散らしていく。側面に回った遥加が大弓の弦を持ち、持ち手をそのまま叩きつける。

 『完全者』の耐久力であれば取るに足らない。だが、警戒のあまりジェバダイアは全力で防御してしまった。


「さあ――」


 苦痛に膝を付くエレミアは、見た。その手を爛れさせながらも、遥加から受け取った光の矢を番える『悲哀』の姿を。


「浄気星」


 ほぼゼロ距離。ジェバダイアから苦悶の声が漏れた。だが、それも一瞬。すぐに立て直したところを見ると、神性を完全に排除出来たとは思えない。だが、そこで止まる理由は、ない。


「とじて――――聖星浄気陣」


 周囲を取り囲む光の矢。ジェバダイアの背中に虹の翼が煌めいた。だが、彼の頭上に瞬く雷雲。


「リア様アルティメットジャッチメントーーーー!!!!」

「ぬぅ、うううううう!!!!??」


 あまりの威力に飛翔が抑えられる。マルシャンスのプロパガンタ・ブレスを上乗せした全力全開の一撃。


「これが女神リアさまの神威だ!!!! 滅せよ邪教徒!!!!」


 防ぎきれない。遥加がジェバダイアの強靭な肉体を蹴り飛ばし、軽い自分の身体を攻撃範囲から飛ばさせる。

 ジェバダイアの全身に、無数の光の矢が刺さった。その肉体を、その精神を、そして賜った加護を。その何もかもをズタズタに引き裂いていく。


(届いた――――ッ)


 追撃。

 遥加の『浄化』が乱れ飛ぶ。

 だが、ジェバダイアは倒れない。


「下がって⋯⋯!」


 マルシャンスが遥加の襟を掴んだ後ろに追いやる。虹天剣の切先が、マルシャンスの大弓を貫き、その先で彼自身の肉体で受け止めていた。


「マルシャンスさん⋯⋯!」

「だい、じょうぶ⋯⋯⋯⋯それより、わよ」


 仮面の下で不敵に笑う『悲哀』が指さす先。

 マルシャンスが放った一射がジェバダイアの右腕を撃ち抜き、その手がだらりと垂れ下がっていた。貫通している。それが意味することとは。


「リア様の、敵に、天罰を⋯⋯⋯⋯!」


 荒い息でエレミアが地に伏す。彼女の信仰心は無限なれど、その魔力には限りがある。


「⋯⋯君は、やはりそうなのか」

「何が言いたいの?」

「私に力を授けた方と同じ「違うよ」


 遥加は毅然と言い放った。


「私は人の想いを守るために戦っている。だから、無理矢理力でその想いを歪めたりなんてしない。」


 『終焉世界ハッピーエンドストーリー』に、破滅的な光が灯る。


?」

「愚問」


 ジェバダイアは立ちはだかる。光の矢が塵と溶けた。

 魔力が底を尽いたエレミアが意識を手放す。遥加を庇ったマルシャンスはもう動けない。遥加ただ一人、未だ戦意が衰えない大男と向き合う。

 守られてきたからこそ、彼女は立っている。

 だからこそ、やるべきことは、決まっている。


「このままではセントラルは滅ぶ。愚民が滅ぼす。弱き者は去ね、存在すべき場所が無いのだ。この地上に、居るべき場所が無いのだ」

「だから、貴方は戦っているの?」

「然り。至高の秩序のためには、相応しい人物だけいればよい」

「そこにいる人の、想いを、踏み躙ってでも?」

「然り。全てはセントラル発展ために」


 ジェバダイアは虹天剣を構え直した。片腕でも止まる気配はない。遥加は大きく深呼吸して、大弓の照準を正す。


「分かった。それが貴方の想い、なんだね」

「然り」

「じゃあ――――私は貴方の敵だよ」


 ここに犠牲者はいなかった。得体の知れない神性に想いを歪ませられたものとばかり考えていた遥加は、過ちを正す。言葉を反芻する。想いを見定める。

 譲れない想いがあれば、衝突は必至。そんなままならない現実に、彼女は何度も直面していた。



「ごめんね⋯⋯⋯⋯その想い、終わらせるよ」

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