女神、はしゃぐ
【エリア7-2:先端工業地帯】
「うおわわわわわ――――!!!!」
「ぬおおおおおお――――!!!!」
「「ドラゴンだあああああ!!!!」」
安眠できる場所(手配:バッドデイ)として先端工業地帯で合流した彼ら彼女らは、少女二人の異様な興奮にドン引きしていた。
ちなみに。
上の叫びがあやかで、下の叫びが遥加である。
「む⋯⋯⋯⋯そろそろよいのではないか?」
何だかんだファンタジー好きな二人の少女に好き勝手されているのは――竜。明るい緑色の体表と、同色の瞳。全高40m、全長100mの巨体が無遠慮にぺたぺた触られている。
風刃竜シュライティア。
その武力に名高い風の竜だ。
むしろ戦々恐々としているのは、その武勇の伝え聞いているマルシャンスだった。彼が実力として警戒していた竜種に、風刃竜の名前はあった。同じくその脅威を知るはずの、この世界出身であるバッドデイは腹抱えて転がってる。
性格の差が如実に表れている。
(前々から思っていたけど⋯⋯彼、心強過ぎない?)
一方、慣れない接し方をさせたシュライティアが助けを求めるような視線を同行者に送る。あの褐色肌の青年は腹抱えて転がっていた。反対側のシスターは何やらお祈りを捧げ、一緒にいる謎の少女は感情を感じさせない表情でただ見ているだけだ。
見かねた銀髪少女が前に出る。
「貴女たちは?」
「あ、ごめんごめん! 私、叶遥加! セントラルのハンターだよ、よろしくね!」
「俺様は高月あやか! セントラルのハンター登録してないだぜ、よろしくな!」
銀髪少女が後ろの二人に目を向ける。
「おうおう、俺はバドワイズ・フレッチャー・デイモン! セントラルに名を響かせるクレイジー・バッドデイとは俺のことだ!」
お祈りを済ましたらしいシスター(セントラル出身)が露骨に嫌そうな顔をした。利口な銀髪少女は、響かしているのが悪名であることを看破する。
「⋯⋯『悲哀』のマルシャンス」
「ほう、貴公が⋯⋯!」
シュライティアが翼を大きく広げた。その勢いで少女二人は投げ出されるが、そんなこんなも楽しいらしい。きゃーきゃーはしゃいで転がっている。
シュライティアは努めて視界に入れないようにしながら声を振るわせた。
「その勇名、我が耳にも届いている! 軍団を指揮させれば一糸乱れぬ統率力、その身も一騎当千、大弓の名手と聞く!」
「⋯⋯光栄です」
タキシードの仮面は優雅に一礼する。交戦的な竜種の目に留まるのは、彼のようなタイプにとっては避けたいことなのかもしれない。どこか一線を置いた態度だった。
だが、その警戒心も風刃竜は気に入ったらしい。もう一声吹っかけようとして、首元に受けたタックルに遮られる。
(む、この立ち振る舞い⋯⋯)
組みつかれる直前まで気付かなかった。流石にこの質量差でよろけるほど不覚は取らなかったが。
逆に、反対方向から突っ込んでくるも気配を殺しきれなかった遥加は、軽い羽ばたきに吹き飛ばされる。
「風神竜シュライティア! はっはっは! すげえすげえ――――強えな」
シュライティアは、請われるまま戻った竜形態から人形態に姿を変える。そして、まさに首っ丈と抱きつく少女を適当に投げ飛ばす。割と容赦抜きだったが、猫のようにしなやかに着地された。
そのギラついた双眸に想起するのは、独壇場で彼を下した雷竜や妖魔の姿。
「ほう――――もう一度、名を聞こうか」
「高月あやか」
「――ん、あれ? 高月あやか? 聞いたことあんぞ!?」
割って入ったのは、あの褐色肌の青年。自己紹介を軽く流していたせいで一回目には気付かなかった。
「おい、てめえ『社長戦争』にいなかったか!? あとクソ神どものサイコロゲームのときもだ!?」
「なんだその札束で殴り合いそうなゲームは!? 俺様は桃○じゃなくて大○闘派だぜ!!」
「⋯⋯⋯⋯あー、悪い。人違いだったかもな」
「なぁに、よくあるこった! 兄ちゃんも中々修羅場を潜ってそうだしな! 俺様みたいなヒーローと戦ったりもしたんだろ」
「あー、確かにヒーローとやらとは戦ったが⋯⋯」
何かが気になるらしい。魚の小骨が喉に刺さったかのような態度の青年に、あやかはにっかりと笑った。
「やだねー、らんぼーさんたちは! ねー!」
「ねー!」
一方の遥加は、謎の少女を抱きしめて一緒に揺れていた。彼女の瞳から溢れる光の粒を、遥加は興味深そうに目で追っている。
「ふふ、そろそろお名前知りたいなー?」
「わたし、ウィッシュ! ウィッシュ・シューティングスター! お友達になりましょ!」
「うん、お友達ー!」
ぎゅうっと抱きしめると、天真爛漫な少女は楽しそうに微笑んだ。
あやかが褐色肌の青年に目線を投げる。
「妖魔アルだ。「ヨーマアルダさん、どんな字を書くんだ!」うるせえ!! 妖魔の! アルだ!」
茶々を入れるあやかをぶっ飛ばす。派手にぶっ飛んだ彼女は元気そうだった。
「で、こっちは
「ひゅーひゅー! らぶらぶー?」
ぺこりと頭を下げる白埜の後ろ、囃し立てるあやかの炎の剣が投げつけられる。派手に爆発炎上して、遥加が「たーまやー!」と叫んだ。
そんな馬鹿騒ぎを見て見ぬふりして、シスターが前に出る。
「私はシスター・エレミア。見ての通り、この世界を興せし偉大なる女神様に仕える信徒。その末席を汚す者です」
「リアさんの?」
「はい、リア様の」
「リア様すごいよね!」
がしっと二人が手を掴み合う。
ちょっと空気に混ざれそうにないマルシャンスは、さっきから静かなバッドデイに助けを求めるような目線を送った。彼は愛車弄りに夢中だった。そして目をキラキラと輝かせるウィッシュともう『お友達』になっている。
「えへへ、みんなよろしくお願いします!」
エレミアとペアで『リア様の舞』を披露しながら遥加は締め括った。一堂を見渡す。その身に纏う雰囲気。その色が変わる。
「ジェバダイアさん」
言って、静かに首を振った。
「宇宙大将軍が率いる『完全者』、私たちでお縄にしちゃおう!」
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