従者、前世の良縁を聞く
『というわけで――――お話をしよう』
「「待て待て待て待て!」」
怒涛の「待った」がその声を止める。
「勝手に話を進めんじゃねえ!」
「そもそもお前さんは誰なんだ!」
当然の疑問をぶつけられる。タブレット画面上のデフォルメ女は「やれやれ」といった仕草を見せた。
『聞いて驚くなかれ。私はなんと――――この世界とは別の世界の人間だ』
「「ほうほう、それでそれで?」」
異世界人二人は雑に相槌を打つ。
『は、反応薄いなぁ⋯⋯残念。私の本体はこことは違う世界にいるんだけど、この星の恒星にコピペした自分の構成情報を少しずつ送信して、紫外線に寄生する形でここに降りて構成し直したの。ま、ここのスパコンを根城にしているオリヴィエって奴に悟られないための小細工なんだけど』
「「さらっととんでもないこと言ってないッ!!?」」
異世界人二人も驚愕する内容だった。
『あ、今のは驚いてもらえたんだ♪ 大変だったんだよ、恒星が発するジュール量から細かい電子的情報を守らないといけない微妙な調整がさぁ⋯⋯あ、こんなのどうでもいいんだった』
「「本当にどうでもいいのか⋯⋯?」」
とはいえ、確かに本筋とは全く関係のないことだ。『D』と名乗る女の声はタブレット端末から響き続ける。
『この世界から、私が今いる世界を脅かす存在を感知してね。黒竜王エッツェル、その脅威を排除するために私はこうして手を打ってるの』
「クロちゃん、知ってる?」
「ああ。最近その名はちらほら聞く。まだセントラルが正式に公開していない噂上の存在だが」
『奴はね、私がいる世界でもかなり大規模に暴れ回ったんだ。それこそコロニー全域を巻き込んだ大惨事だった。辛うじて現地に集った勢力で撃退出来たみたいだけど⋯⋯それでも討ち滅ぼしきれなかった』
「ん? アンタは一緒に戦ったってことか? なんか伝聞っぽいニュアンスだけど」
『⋯⋯情けないことに、私は戦場には辿り着けられなかったよ。ウルクススフォルムのオリヴィエ⋯⋯さっきも言ったあの女の情報操作に封じ込められて、私は全くといっていいほど何も出来なかった』
「で、今回は対策してきたわけか」
『そう。事実、あの女に悟られないようにここのシステムを乗っ取ることに成功している。まさか⋯⋯ここまでのものを構築していたなんてね。でも、この世界全土のシステムに影響を与えられるようになるのも時間の問題だ』
「いや、問題はそこじゃあねえだろ。その、黒竜王って奴にはどう対抗するんだ?」
『そこはまっったく心配ご無用。あんの女狐、とんでもない兵器を用意してやがった。でも、その制御も私が手中に収めている』
「⋯⋯なんか、嫌な予感がするが詳細を聞かせてもらってもいいか?」
「俺様知ってるぜ! ドラゴンバスターだ! ドラゴンをバスターするやつ!」
『そう、そのとおり!』
「ほうらな!!」
「んなバカな!?」
『いや、全然違うんだけどね』
「「どっちだよ!?」」
『『
「おお、必殺兵器って奴だな!!」
『ふふふ、しかも私がカンパニーから学んだ技術をさらに進歩させたコードで補強している。さらに進歩した科学技術の産物! オリヴィエ・ソミェットもよくこんなものを構築したよね! これで完全勝利間違いないさ!』
「⋯⋯それ、本当に黒竜王に効くのか?」
『む。疑っているの?』
「そうだぜクロちゃん! なんたって最新鋭の衛星必殺兵器なんだからなッ!!」
『ふふふ、やっぱりロマンが分かってるね。オリヴィエも技術の進歩不足が黒竜王打倒に至らない原因と分析結果を示している。私もそこは同意見だよ。ダモクレスで黒竜王を打ち破ったら、私は愛しいの彼と結婚するんだ!!』
「うおおおおおおお!!!!」
「⋯⋯なんでお前さんはそんなに盛り上がってるんだ。ああもう、この話はいい! どうせ黒竜王なんてあるかどうかも分からん遠くの脅威は目的じゃないだろうに!」
「あ、そうだった」
『ええ⋯⋯黒竜王はマジでヤバいのに。でも、確かにここに来た目的は違うみたいだしね。ダモクレスのスペックも⋯⋯⋯⋯あれ、なんかパラメーターが書き変わって⋯⋯ま、それは後でいいか。ヨシ!』
「そうだ! 俺様がここに来た目的は二つ! まずはここの情報封鎖を解いてくれ!」
『え、なんで⋯⋯まあいいけど。女神リアとやらに常時観測されちゃうけど⋯⋯大丈夫?』
「それが目的らしいぜ。それともう一つ、セントラル地下最奥の封印を解いてくれ」
『⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯理由を聞いても?』
「秘密だ」
『うーーん、取り敢えず了解したよ』
「待て。やけにあっさりじゃないか?」
『うん。これも時間がないから先に言うね。私は貴女を待っていたの、お姉ちゃん』
「⋯⋯俺様は妹だぜ?」
『前世――ていう表現でいいのかな。血は繋がっていないけれど、貴女は私のお姉ちゃんだったんだよ、魂の形はほとんど受け継いでいるから気付けたの。社長戦争で、パラレルな存在とはいえ⋯⋯⋯⋯いや、そんな瑣末は重要じゃない』
『今度こそ私が貴女の力になるの』
『あははは、何も言わないんだね⋯⋯⋯⋯でもいいや。何かを受け取ってくれたのは、見たら分かるもの』
「そうか。じゃあ言葉はいらねえな。地下の封印を解く方法は?」
『方法は二つ。一つ目はさっき言ったダモクレスでセントラルごと撃ち抜くこと。首都丸ごと犠牲にすれば封印を貫ける試算は出てる』
「却下」
『だよね。もう一つは、封印そのものを情報化してパラメーターを置き換える方法。ちょっと解析と置き換えに時間がかかるけど⋯⋯』
「よし、それで頼む! クロちゃんは時間掛かっても平気か?」
「ん? 俺は後は下山するだけだからな、あやちゃんがそうしたいなら俺は付き合うだけだ」
「さんきゅ!」
『⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯仲、良いんだね。
まあ、いいや。じゃあその方針で行くとして最大の問題点が一つ。私はここを掌握したって言ったけれど、それは正確じゃない。たった一つだけ乗っ取りきれていないものがあるの。
『機神』サイブレックス――オリヴィエの息がかかった最終防衛ライン。
やたら高性能なアンドロイドは、オリヴィエが妥協なく本気で組んだプログラム。悔しいけれど、解析に苦戦「高性能と聞いて、やって来ました」している。奴に私の存在がバレればこれまでの隠密行「うお、なんだお前さん」動も無意味。オリヴィエ自身の手で私の構成情報は
ああ、でも今は「しっ! 今取り込み中」大丈夫。時間稼ぎとして、すぐ後にやってきた戦艦に対し「大変失礼いたしました。待機モードに移行します」て防衛プログラムを手薄にしておいたから。件のアンドロイドはそちらにかかりっきりですぐには来られないはず。
でも、想定より時間が「おう、お利口さんだなこのメガネさん!」掛かっているのは事実。せめてあの一時間の「ふぅむ、高性能なんだな」誤差さえなけ「はい、高性能です」れば⋯⋯ちょっと、ちゃんと聞いてる?』
「「「聞いてる聞いてる」」」
あやかとクロキンスキー。
そして、もう一人。腰まである長さの淡い水色の髪に、陶器を思わせるような美しい白い肌。身長はあやかと大差なく、黒縁眼鏡がアクセントの女性――――の形をしたアンドロイド。
「あ。コイツなんか途中からやってきたんだけど、高性能だから大人しく聞いてくれてたぜ」
「はい。私、高性能ですから」
「そういえば、お前さんの名前は?」
「はい。高性能な私は――――」
「認証番号HFO-700-52-13、サイブレックス」
『きんきゅうぅぅぅううだっっしゅつううぅうぅぅ――――ッ
ッ!!!!!!』
あやかと、サイブレックスと名乗ったアンドロイドが、バネみたいに飛び跳ねた床でまとめて跳ばされる。瞬時に開く天井。二人は外に放り出された。
「うお!? 随分とアナログな方法で逆にびっくりした!!?」
反応が遅れたクロキンスキー。
瞳孔で敵対対象を捕捉するサイブレックスと、闘志でその捕捉を感じ取るあやか。空中で視線がぶつかり合う。
いつの間にかあやかの耳元に取り付けられていたイヤーカフスから声が響いた。
『お姉ちゃんッ、ソイツぶっ壊しちゃって――――ッッ!!!!』
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