第16話

 まるで限界まで引き絞られた弓から放たれる矢のような鋭さだった。気が付いた時にはシェダルや船は眼下に遠ざかり、高い位置に見えていたティアマトの頭が足元にあった。ぎょっとする間もなく、今度は体が落下する。あまりの勢いに目を閉じそうになるが、なんとか堪えて手を伸ばした。

 イブの手がつかみ取ったのは、元に戻ったティアマトの髪だった。露出していた肌はすっかり覆い隠され、体も常に前後左右に振られているために、目的の場所に到達するまでかなり時間がかかってしまった。

 信じられない量の髪に揉まれながら、ぐっと限界まで腕を伸ばす。このあたりにあるはず、と奥歯を噛みしめた時、指先をかたい感触が掠めた。

 ――これだ!

 感触を逃すまいと無我夢中でつかみ、己を鼓舞する声を上げながら、うなじに刺さっていたスティレットを引き抜いた。初めこそどぽりと血液とも海水ともつかない、やや塩辛い半透明の液体が噴き出したが、それも数秒だった。傷口はみるみるうちに修復され、痕跡さえ残さず消えた。

「ティアマト!」

 大声で呼びかけると、ティアマトはゆったりと止まった。痛みが消えたのかと安心したのもつかの間、今度は糸が切れた人形のように力なく前に向かって倒れ始める。

「きゃあっ!」

「オリフィニア!」

 手に乗っていたオリフィニアが、ティアマトの腕が垂らされるにしたがって海に落とされた。このままでは海面に叩きつけられるどころか、倒れたティアマトの下敷きになる可能性がある。しかし助けるためにここから飛び降りたところで、イブが巻き添えを食らうのは明白だった。

 どうすれば、と唇を噛んだ時、少女の小さな体が薄い光の膜に包まれるのが見えた。膜は球体のように丸まり、そのままオリフィニアを運んでいく。シェダルが助けてくれたのだ。

 ティアマトの巨体が濤声とうせい を上げて倒れ込んだ。衝撃で大地も揺れ、突然の嵐がおさまって落ち着いていたであろう町の人々の悲鳴が聞こえる。

 イブは慎重にうなじから降りた。ティアマトの顔はちょうど砂浜に打ち上げられたようになっている。すぐにシェダルとオリフィニアが追い付き、二人は船からおりると一目散にこちらに駆け寄ってきた。

「お母さん? お母さん、どうしちゃったの? イブさん!」

「私にも分からない。首に刺さってたスティレットは抜いたし、体が壊れてるわけでもないから〈核〉も破壊されてはいないと思うけど……」

「かなり苦しんでたから、もしかして」

 シェダルはイブを手招きしながら、髪を頼りにうなじによじのぼっていく。せっかく降りたのにと思いながらイブももう一度昇ると、彼はスティレットが突き刺さっていた辺りを撫でていた。

「このへん、かな。神力イラ が伝わってくる。ってことは壊れてないってことだ」

「じゃあどうしてティアマトは倒れたんだろう」

「開けてみないと分からないな」

「開ける?」

「急がないと手遅れになるかも知れない。イブ、僕が触ってる辺りを切り開いてくれないかな」

「は?」

「早く!」

 いつになく急かした様子のシェダルに言われるがまま、イブはダガーをうなじに突き立てた。この奥に〈核〉があるのだ。適当に切るわけにはいかない。慎重に一筋の切れ込みをいれると、今度は「傷口を手で広げておいて」と頼まれた。

「そんなことして大丈夫なの?」

「やるしかないんだよ。お願い」

「なにやってるの?」

 ひょいとオリフィニアがイブの後ろから顔を覗かせた。彼女もここまで昇ってきたのだ。左右で色の違う瞳がとらえたのは、ぱっくりとうなじを切り開かれた母の姿だ。

「シェダルさん、なにをしているの! お母さん、絶対に痛いわ! やめて!」

「ごめん、オリフィニア。でも必要な処置なんだ。僕の読みが正しければ……」

 ぽかぽかとオリフィニアに殴られたまま、シェダルは傷口に手を突っ込んだ。幻獣で、血の色が普通の人間とは違うが、体の中の構造は似たようなものらしい。皮膚の奥に筋肉が見えた。

 傷を修復しようとする皮膚を押し広げたまま、シェダルはやがて「見つけた」とほっとしたように言う。

「これがティアマトの〈核〉だよ」

 脊髄の一番下だと言いながら、彼はそこを指さしている。イブも覗き込み、想像していた以上の美しさに言葉を失った。

 海のきらめきをそのまま閉じ込めたかのような、紺碧色の〈核〉だった。大きさは拳ほどで、表面には数えきれないほどの切子面ファセット を持ち、まるで内側に光を孕んでいるかのような輝きを帯びている。

「ん? ここ、ひびが入ってない?」

 イブが指摘した通り、〈核〉の右に稲妻に似たひびが奔っていた。

「突き刺された時に、先端が少しかすったんだと思う。ここから神力が漏れちゃってるんだ。幻獣にとって神力は動くすべそのものだから、失えば当然、活動は停止する。ティアマトは今その状態なんだ」

「じゃあ〈核〉を直さない限りティアマトは……」

「このままだね」

「うそっ、お母さんはもう目を覚まさないの? なんで、なんでっ」

「オリフィニア……」

「大丈夫だよ」

 殴られたり、髪を引っ張られたりとされるがままだったが、シェダルは穏やかに笑いかけながらオリフィニアの頬を優しく撫でた。

「僕なら直せる。〈核〉が元通りになったら、お母さんも起きるから」

「……本当に?」

「ああ。信じて」

 真摯に見つめられ、オリフィニアは涙を堪えたようなしわくちゃの顔でうなずいた。

「じゃあイブ。僕が〈核〉を直す間、傷口をしっかり開けてて。神力を注ぐのに集中したい」

「分かった」

「……正直、〈核〉の修復なんてやったことないからイチかバチかなんだけど」

「えっ、ちょっと。不安になるようなこと言わないでよ」

 だいぶ声は潜めていたが、オリフィニアが聞いていたらどうするんだとイブは焦った。だが彼女は母の〈核〉を見つめたまま、シェダルの腕にもたれて鼻をすすっている。幸い聞かれていなかったようだ。

「大丈夫だよ。やると言った以上、やり遂げる」

「信じるからね、その言葉」

 任せてと力強くうなずき、シェダルが深呼吸を繰り返す。最後に一際大きく息を吸ったかと思うと、〈核〉に両手を重ね、全体重を乗せるかのように力を込める。

 かすかに小枝が折れるような音がした。心配になってシェダルの手元を覗き込むと、ひびがほんの数ミリ程度だけ短くなっている。

 修復が始まったのを悟り、イブは息をのんだ。

 切り開かれた部分から絶え間なく液体がこぼれ、イブたちの手を濡らしては、なめくじに似た動きと震えでティアマトの体内に戻り、傷口を修復しようとする。〈核〉にひびが入って神力が漏れているからか、想像していた以上に回復力は強くない。だからと言って気を抜いていいわけではなく、シェダルが集中しているように、イブもまた皮膚を押し広げる指に力を込めた。

 ひびは短いものだし、修復なんてすぐに終わるだろうと思っていた。ほんの一、二分程度だろうと。神力を注いですぐに少し直ったこともあって、簡単な作業かと思っていたのだが。

 ――最初にちょっと直ってから、全く進んでない。

 シェダルが神力を使う時、どれだけ使っているか分かるように着色していると言っていいた。だが今はなにも見えない。余分に消費しないよう、〈核〉一点に注いでいるのだと分かる。

 その顔色を見て、イブはぎょっとした。

「シェダル、あなた顔が真っ青だよ!」

「…………」

 集中すると言っただけあって、イブが至近距離で指摘しても無反応だ。

 歯を食いしばっているのか、シェダルの唇は固く引き結ばれている。血の気が失せた頬を次々と汗が伝い、〈核〉に落ちては一瞬で蒸発していく。それだけ熱を持っているのだろう。火傷していないかと心配になる。

「……う……ん……」

「! お母さんだわ!」

 羽虫が飛んだのかと思うほど小さな声に、オリフィニアが素早く顔を上げた。目を覚ましたのかと思ったが、〈核〉はまだ直っていない。

 かたかたとシェダルの指先が震えている。指だけではない。眉間にはしわが深く刻まれ、今にも気を失うのではないかと思うほどに目を細めていた。

 ――まさか!

「シェダル自身の神力が無くなりかけてるんじゃ……!」

「……ごめん、ちょっと静かにしてて」

 心配しているというのに、彼の返答は素っ気ないものだった。集中しているのだから当然と言えば当然なのだが、イブは妙にいらだたしく感じた。あんたが倒れたら元も子もないと胸倉をつかんで〈核〉から引き離してやりたかったが、そんなことをすれば修復が進まない。急がないと手遅れになると言っていたから、放っておけばひびが進行し、崩壊する可能性だってあるに違いない。

 なんとかしてシェダルを手伝いたい。ただ見ているだけはもどかしくて苦しい。でもイブには神力なんてない。この場でシェダルの手助けを出来るのは――

「オリフィニア!」

 イブに呼びかけられ、オリフィニアが目を丸くしてこちらを見る。

「シェダルと一緒に神力を注げる?」

「えっ、えっ?」

「あなたしかシェダルを手伝えない。ティアマトの話通りなら、あなたにはティアマトと同じ神力が流れてる。だからひょっとしたら、だけど、〈核〉の直りも早いんじゃないかって思って」

「で、でも、あたし神力なんて使ったことないわ!」

「無意識だけど何回か使ってるよ。川で襲ってきたナックラヴィーを覚えてる? あれを倒したのはオリフィニアだよ。さっき町で発生してた竜巻だってそう」

「あたし、が……本当に?」

 信じられない、とオリフィニアは驚愕の眼差しでイブを見つめている。イブはゆっくりうなずき、自分の隣に来るよう指示した。

「ちょっと抵抗あるかも知れないけど、私と同じようにここに手を入れて。光ってる石みたいなのが見えるよね? あれが〈核〉。ティアマト――お母さんにとっての心臓だよ。今はあれがちょっと傷ついちゃって、シェダルが一生懸命直そうとしてる」

「あたしはそれを手伝うの? そうしたらお母さんは目を覚ます?」

「必ずね」

 オリフィニアは戸惑いながら手を伸ばし、やがて決心したのか傷口に手を入れた。初めこそ液体のぬめりに怯えていたが、すぐに慣れたようだ。〈核〉に触れ、「どうすればいいのかしら?」と首を傾げる。

「自分の手に体中の血液を集めてると思えばいい」と答えたのはシェダルだ。よほど疲れているらしく、声に張りが全くない。

「手に血が集まったと思ったら、そこから一気に〈核〉に浴びせると思って」

「……分かったわ」

 オリフィニアは小さくうなずいて目を閉じた。シェダルに言われた通り、神力を注ごうとしているのだろう。

 イブはそっと傷口から手を退けた。傷は元通りになろうとしているが、二人分の手が邪魔になってふさがらない。これなら離れても大丈夫だろうと感じた。

「あとは……」

 うなじから飛び降り、イブは砂浜に着地した。

 町はすっかり静けさを取り戻している。だが別の場所が騒がしくなっていた。

 ティアマトの周りだ。

 シェダルは神力を注ぐのに集中していて、オリフィニアは母が心配でそれぞれ気付いていなかったが、先ほどから砂浜に町の人々が集まりだしていたのだ。

 彼らは皆、各々の手に石やこん棒、刃物などを持っている。

「俺たちを苦しめやがって!」「幻獣め!」「さっさと死ね!」「壊れてしまえ!」

 強大な存在を前にいくらか怖がりながら、人々は恨みつらみを叫んでいた。イブが現れたのに気付いたのか、人の群れから歩み出てくる姿があった。

 依頼を出した漁師たちの代表だという、壮年の男だ。ティアマトについて話を聞いた時に顔を合わせている。

「狩人さん、こいつは死んだんですか?」

「いいえ。〈核〉が傷ついたので活動を停止していますが、死んだわけじゃない。今は魔術師たちが〈核〉の修復をしているところです」

「修復だって? どうして! なぜ早く壊さないんだ! 依頼と違うじゃないか!」

「そ、そうだ! 俺たちは幻獣を討伐してくれって頼んだんだ!」

「救えなんて一言も言ってない!」

 彼らの訴えはもっともだ。返す言葉もない。イブはぎゅっと拳を握りしめ、壮年の男を見上げた。

「申し訳ない。でも必要な処置なんです」

「必要な処置だろうがなんだろうが、俺たちには関係ない。そいつは俺たちの海を荒らし、生活を苦しめたんだ。頼んだ通りさっさと討伐してくれ」

「私はまず、ティアマトから話を聞きたいんです。今後も荒れるというのなら、その時は討伐しましょう。まだ判断は出来ない」

「ふざけるな!」

 怒りとともになにかが頭部に当たった。ごつりと鈍い音がして、視界が強く揺さぶられる。立ちくらみを堪えるように踏ん張りながら足元に目をやると、荒く削れた石が転がっていた。

 群衆の誰かに投げつけられたのだ。初めの投石を皮切りに、彼らは次々に手にしていたものをこちらに投げつけてくる。聞くに堪えない罵声も聞こえてきた。

「狩人ってのはずいぶんいい加減なんだな。依頼もまともに出来やしないで、あげく幻獣に加担かよ」

「我々の依頼を反故にするつもりだろう。信用できない」

「魔術師たちがどうとかって言ったよな。魔術師と手を組んでたのか?」

「もしかして初めからあたしたちを貶めるつもりだったんじゃないでしょうね」

 人々の怒りと恨み、苦しみと我慢が限界に達したのがひしひし伝わってくる。イブはその全てを真っ向から受け止め、力強い眼差しで彼らを順に見回した。

「私とともにポルトレガメまで来た魔術師が言っていました。選択肢は狩るか、狩らないかだけじゃない。話し合いという手段だってあるんです。私はそれを選んだ。だから……」

「それが信用できないって言ってんだよ!」

 血気盛んな若者が飛び出してくる。彼は手に包丁を持っていた。

「てめえがやらねえんなら、俺たちでこいつをぶっ殺しちまえばいいんだ!」

「そうだ! 幻獣は気絶してるんだろ。絶好の好機じゃないか!」

 やれ、やってしまえ。住人たちの声に押され、若者は真っ直ぐにこちらへ駆けてくる。

 通すわけにはいかない。若者は「どけ!」と威嚇するように声を荒らげると、包丁を振り下ろしてきた。

「させません」

 イブは眼前に右の前腕を掲げ、包丁を受け止めた。ぎりっと金属の擦れあう音がして、若者はぎょっと動きを止める。長袖のシャツの下に防具が装着してあるなど、思ってもみなかったに違いない。

 初めこそ彼は怯んだが、すぐに威勢を取り戻し、激憤を叩きつけるように包丁をめちゃくちゃに振り回しはじめた。

「なんで邪魔するんだ! どうしてお前なんかが依頼を受けたんだ。『アポストロ』はなんでお前みたいな奴を来させたんだ!」

「今ここに立っている私は『アポストロ』のイブ・ジェメッリじゃない。魔術師シェダルの用心棒のイブ・ジェメッリだよ。団は関係ない」

「知るか、そんなこと!」

 恐らく若者がティアマトに傷をつけた瞬間、人々は雪崩のように襲いかかってくるだろう。ティアマトがいつ目覚めるとも知れない今、彼らはまだ恐ろしくてここまで近づけないのだ。

 なんとしてもここで食い止めなければいけない。その気になれば戦闘に不慣れな若者などすぐに制圧できるが、イブに武器を手にする気はなかった。彼を傷つけようものなら、住人たちの怒りはイブにも向けられるし、あれだけの人数に襲い掛かられてはさすがに歯が立たない。イブが倒れれば、彼らはティアマトを破壊するに違いないし、シェダルとオリフィニアがどんな仕打ちを受けるかも想像がついた。

「さっさと退けよ!」

 ぐっと腹に重い衝撃を感じた。蹴り飛ばされたのだ。よろめいた瞬間、頬に鋭い痛みがはしる。斬りつけられたと思う間もなく、今度は右の二の腕に激しい熱を感じた。防具に覆われていなかったそこに、包丁が貫通しそうなほど深々と突き刺さっている。

「……あ、いや、俺……」

 実際に人体に刃物を突き刺し、初めての感触に慄いたらしい。若者は柄から手を放し、ずりずりと後じさっていく。抜くと出血が増えるのは自明の理で、イブは包丁や頬の傷をそのままに、若者をはじめポルトレガメの人々に目を向け、深呼吸をしてから口を開いた。

「話し合いが信用できないという気持ちも分かります。私がそうだったから。だけど今は信じてほしい。さっき言ったように、話した結果によって討伐の有無を決めます。そのためにはまず、ティアマトに目覚めてもらわなければいけない」

 だから、とイブは頭を下げた。

「少し時間をください。ティアマトを傷つけるというなら、私は全力で阻止します。たとえ死んでもどかない」

 もう人々から罵声は聞こえてこず、石なども投げつけられない。

 誰もがイブの決意と眼差しに圧倒され、口をつぐんでいた。

 膠着状態がどれだけ続いただろう。「イブさん!」とオリフィニアに呼ばれて振り返ると、髪の隙間から小さな顔がひょこりと飛び出した。

「シェダルさんが倒れちゃったわ!」

「!」

 神力が尽きたのだ。〈核〉の修復はどうなったのだろう。オリフィニアが顔を出したということは、二人とも〈核〉から手を放した状態のはずだ。

 ひとまずシェダルを助けに行かなければ、と足を踏み出そうとして、イブははっと息をのんだ。

 ティアマトのまぶたが開いていく。黄金色に輝いていた瞳はオリフィニアの左目と同じすみれ色に落ち着いており、猛々しさは感じられない。目もあやな鮮麗な瞳に、イブは言葉を忘れて思わず見入ってしまった。

 わっ、とオリフィニアの細やかな悲鳴が聞こえ、どぼんと二つの影が海に落下した。ティアマトがゆっくりと体を起こし始めたのだ。人々の間から聞こえてくるどよめきなど気にした様子もない。

 イブは影が落ちた場所に近寄った。シェダルとオリフィニアだ。オリフィニアはイブの二の腕に刺さっている包丁や頬から流れっぱなしの血を見てぎょっとしていたが、彼女自身に怪我は見当たらない。シェダルも外傷は無さそうだが、どれだけ大声で呼びかけても一切反応を示さない。

「ナックラヴィーの時と同じ状態か……」

 オリフィニアの手を借りて、シェダルを海から引き揚げる。砂浜に彼を寝かせ、イブも隣に腰を下ろしてティアマトを見上げた。ティアマトは自分がどうなったのか、周りがどんな状況なのか確認するように緩慢な動作で辺りを見回している。

「〈核〉の修復、上手くいったんだね」

「とっても不思議だったのよ。最初に見た時も、お母さんの心臓はすごくキレイだったけれど、ひびが消えていくとね、その分もっと心臓がキレイになっていったのよ。まるで星空みたいに輝いて……イブさん、どうしたの?」

「ごめん、ちょっと、疲れて……」

 オリフィニアが楽しそうに話すのを聞いてやりたかったが、安心した途端に全身から力が抜けた。腕がかなり激しく痛む上に、めまいもどんどんひどくなっていく。

 イブさんっとオリフィニアの声を最後に、イブは気を失って倒れ込んだ。

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