第二章 会話

『チャット失礼します!よろしくお願いします!』


 名前は、『ふらわぁ』というらしい。

 しかし、プロフィールに行っても、名前しか公開されておらず、年齢も性別もわからない。

 少し緊張する。


『よろしくお願いします。』


 少しすると、返信が来た。

 話したことはいいけど、なんて返そう。

 とりあえず、自己紹介でもしとこうかな。


『17歳、高校二年生男子です!』

『同い年ですね!私も高校二年生です。』

『そうなんですか!奇遇ですね』


 一人称が私。女子高生か。

 恋愛には興味がないと言ったが、なぜか緊張する。


『どこら辺に住んでるんですか?』

『えーっと、関東です』

『おー。同じですね』


 本当に同じなのか。

 この後、なんて返せばいいんだろう。


『あの、趣味とかってあるんですか?』

『趣味はゲームをしたり、友達と会話することですね』

『そうなんですね。私、友達とかいないので羨ましいです』

『だったら、俺が友達になりますよ』

『いいんですか!?』


 思ったより喜んでるようだ。少しだけ、良い事をした気分になった。


『いいですよ』

『わーいわーい笑笑』


 なんだか、面白い人そうだ。

 これなら、仲良くなれるような気がする。


『ちなみに、ふらわぁさんの趣味はなんですか?』

『本を読んだり、チャット形式ですが会話をすることですね』

『そうなんですね!俺もチャット形式の会話好きですよ』

『ならよかったです!

 あ、私そろそろ夜ご飯なので、落ちますね。また、お話しましょ!』

『いいですよ!』


 俺もそろそろ風呂に入る時間だな。

 ベッドから体を起こす。

 横なっていた体を急に起こしたせいか、少しだけ頭痛がする。


「ふぁぁあ」


 思い切りあくびをして、部屋を出た。


 *


 異常な暑さで目が覚める。

 部屋を閉め切っているせいか、余計に部屋の中が熱でこもっている気がする。

 体も暑さのせいで鉛のように重い気がする。

 昨晩は、終業式の日にインストールした『暇人掲示板』でネットの人と通話していた。

 そのため、寝る時間も遅くなってしまった。


「おはようございます。今日、7月19日の平均気温は38度を超える猛暑日となります」


 リビングからテレビの音声が聞こえる。

 夏休みが始まって約一週間経った。

 もう一週間経ったのか。

 暇人掲示板で初めて話したふらわぁさんとは、絡んでいる。

 そして、一昨日、初めて通話をした。

 ふらわぁさんは、可愛いというよりクール感のある低音寄りの声質だった。

 個人的には好きな声だ。

 暑すぎて、二度寝もできそうにない。

 そう思い、起きようとするとスマホの通知がなった。


『おはよう』


 ふらわぁさんから『おはよう』と来たという通知だった。

 通知を押して、暇人掲示板を開く。


『おはよう!』


 返信すると、すぐに既読がついた。


『今日、暑くない?私、暑すぎて目覚めちゃったんだよね笑』

『そうなんだ。同じだ』

『草』


 何が草なのか。

 とりあえず、スマホの電源を切って部屋を出る。


「お、陽翔起きたんだ」

「お姉ちゃん、おはよう」

「おはよー。朝ごはんできてるから顔洗って来な」

「へいへい」


 適当に返事をして、洗面所に向かう。

 鏡を見て、思い切りあくびをする。

 自分のあくびしてる姿がブスすぎて、鼻で『フッ』と笑う。

 水を出して、顔を洗う。

 気持ちいい。

 タオルやティッシュで拭いても永遠に出てきそうな汗が水に流される。

 顔を洗い終わったら、洗面所を出てキッチンに向かう。


「顔洗い終わったんだね。朝ごはんはそこにおいてあるよ」

「わかった」


 机の上に置いてある朝ごはんを手に取り、リビングに行く。

 リビングに行くと、テレビがつけっぱなしだ。

 電気代が無駄ではないかと思いながら、机に朝ごはんを置く。

 テレビの電源を切って、自分の部屋にスマホを取りに行く。

 スマホを見ると、ふらわぁさんと陸からの通知が来ていた。

 歩きながら、ラインを開く。


「おーい、陽翔。家の中だからって歩きスマホすんなー」

「ぶつからないから大丈夫」

「そう言って、外でも歩きスマホしてるわけじゃないよね」

「流石にしてないよ」


 スマホを見ながら、返事をする。

 そして、陸とのラインを開く。


『そういえば、終業式の日に言った暇人掲示板は結局入れたの?』

『うん。絶賛、使わせてもらってます笑』

『そうなんだ笑どう?意外と暇つぶしになるでしょ?』

『うん。教えてくれてありがとう』

『いいよ笑。陽翔も暇人掲示板で彼女でも作ってみたらー』


 彼女という文字を見て、なぜかふらわぁさんの事を思ってしまった。

 多少はふらわぁさんに対して好意を抱いているかもしれない。

 でも、ふらわぁさんに彼氏がいるかわからないしそもそも恋愛自体面倒くさいと思っている。


『まあ、気が向いたら作ってみるよ』

『お?少しやる気があるようだね笑。俺はこれから、彼女とデートなんで。バーイ』


 なんか、ムカつく。

 俺って本当は彼女が欲しいのかもしれないな、なんて思いながらリビングに着く。

 朝食は、ご飯とみそ汁と目玉焼きにベーコンが入ってるベーコンエッグだ。

 後、野菜が少し。

 どれから食べようか考えていたら、お姉ちゃんが自身の朝食を持ってきた。


「あれ?もしかして、どれから食べようか考えてる?」


 え?なんで、わかったんだ。


「やっぱり?優柔不断さんね」と笑いながら言われる。

『優柔不断で何が悪い』と思いながら、野菜を食べる。

 ふらわぁさんからも通知が来てた事を思い出し、右手で朝食を食べながら、左手でスマホを触る。


『ねね、後で電話しない?(めちゃくちゃ暇です)』

『俺も暇だから、いいよ笑』

『やったあ。いつからできる?』

『朝ごはん食べてるから、食べ終わったら言うよ』

『うん!』


 チャットし終わって、インスタグラムを開く。


「こら、陽翔。食事中にスマホを使うな」

「いて」


 頭を軽く叩かれた。

 早く食べ終わって、ふらわぁさんと通話するか。

 ご飯を口に入れて、みそ汁で流す。

 そして、残ってる野菜とベーコンエッグを一緒に食べる。


「ごちそうさまでした」

「あら、そんなに早く食べてどうしたの?」

「んー。食べてるときにスマホ触ると叩いてくるから早く食べてるだけ」

「へぇ。好きな人と電話でもすんの?」

「な、なんでそうなるんだよ」

「んー。なんとなく」


 これが女の感ってやつか。怖すぎる。


「あ、食べ終わった皿は私があとで片付けとくよ」

「わかった」


 そう言って、リビングを出る。

 部屋に戻ったら、暇人掲示板を開く。


『ふらわぁさん、朝ご飯食べ終わった』

『おかえりー。電話しよ』

『わかった』


 少し待っていると、通話がかかってきた。

 部屋のドアをしっかりしめて、通話に出る。


「あーあー。ふらわぁさんもしもしー」

「もしもし~」


 やっぱり、ふらわぁさんの声は好きだな。


「ハルくん、課題どのくらい進んだ?」

「あー。全く手を付けてないんだよね」

「そうなんだ。私と同じだね」

「夏休みはまだまだあるから、大丈夫かなーって」

「あーね。夏休みいつまでー?」

「9月1日から学校だから、8月31日までかなー」

「同じくらいだね。私はもうちょっと早く終わるんだよね」

「そうなんだ」

「あれ?そういえば、前に電話した時きいたか忘れたけどなんで暇人掲示板入れたんだっけ?」

「リア友に勧められたんだよね。俺の昔からの幼馴染なんだけど、彼女ができちゃったからハルも作ればーみたいな感じで教えてもらった」

「あーそういうことね」

「ふらわぁさんはなんで暇人掲示板始めたの?」

「えーっと、リアルが充実してないっていうか友達がいないからさ。居場所作りにアプリを探してたら暇人掲示板がでてきたんだよね」

「じゃあ、俺がふらわぁさんのリアルを充実させてあげるよ」

「え?」


 何を俺は言ってるんだ。

 自分の発言がきもくて、鳥肌が立つ。


「待って!今のなし!!ふらわぁさんなんでもないからね!」と苦笑いしながら、多少大声気味に言う。


「大丈夫だよ。ハルくんかっこいいね。あははははは――。」

「笑うなよ。馬鹿にしてんのか」

「馬鹿にしてないって」


 二人で笑いながら、電話をする。


「ハルくんー。夏休み暇ならさ、今度少しだけ会ってみない?」

「え?全然、いいよー」

「やった!楽しみに待っとくね」

「うん」

「あ、親に呼ばれたからちょっと待ってて」

「わかったよ」


 ふらわぁさんが離れた音がする。

 そんなことはどうでもいい。

 会う?ふらわぁさんと俺が?

 全然いいよって言った自分が少しだけ嫌になる。


「ただいまー」

「おかえり」

「ハルくんって、関東のどこら辺に住んでるんだっけ?」

「東京だよ」

「あ、東京なんだ!近いね!」

「ふらわぁさんはどこ?」

「埼玉の南の方」

「じゃあ、意外と会える距離なんだね」

「それな」


 ふらわぁさんと会えるのか。

 ワクワクしているが、ドキドキもしている。

 恋愛対象って言ったら大袈裟かもしれない。

 でも、ふらわぁさんのことは好きだ。

 声も好みだし、性格も穏やかで優しそうだ。


「ハルくんって絶対かっこいいよね」

「そ、そんなわけないよ。あ、あははは」

「会ってみないとわからないよ?」

「それを言ったら、ふらわぁさんも絶対可愛いでしょ」

「だったらいいよね」


 なんだその返し方。

 時間を見たら、いつの間にか11時になろうとしている。

 ふらわぁさんと一緒に喋る時間は楽しいなって心の底から思う。


「ふらわぁさん」「ハルくん」

「あ、」「あ」


 名前を呼ぶタイミングがかぶってしまった。

 少しの沈黙の時間が流れる。


「ハルくんからお先にどうぞー」と笑いながら言ってくる。

 しかし、タイミングがかぶった拍子に忘れてしまった。


「ごめん。なんて言おうとしたか忘れちゃった」

「頑張って思い出してよー」

「もう思い出せないわ。ごめんごめん」

「ふふっ」

「鼻で笑ったな?」

「気のせいでーす」

「まあ、いいけどさ。あ、ふらわぁさんどうぞ」

「いいんかい。えーっと、夏休みのいつくらいに会う?」

「どうする?俺はバイトとかしてないからいつでもいいよ」

「私もいつでもいいんだよね。あ、できれば早めが良いかな」

「わかった。じゃあ、来週にしよう」

「いいよー」

「じゃあ、来週の土曜日とかにする?」

「うん」

「土曜日で決定ね」

「うん!あ、私そろそろ用事があるから電話切るね」

「了解」

「ごめんねー。またね」

「またねー」


 少しすると、通話の切断音がなる。

 陸には『恋愛興味ない』みたいなこと言ったけど、少し興味が湧いてきた。

 ふらわぁさんってどんな人かな。

 想像するだけでワクワクしてくる。

 しかし、それと同時に緊張もしてくる。

 一応、カレンダーに印をつけておこう。


「今日は7月19日だから、7月28日か」


 赤色のペンを机の引き出しから取り出す。

 そして、7月28日の部分に丸をつけた。






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