7-3

 ニックの野郎は全部が終わったあとに現れた。

「なんだ、もう少し遅かったら私が女子学生を使って同じことをしようと思っていたのに、手間がはぶけたな」

「ノーランさん!」

「わかっているよ。だからこうして告解に来たんじゃないか。これが心の中で姦淫を犯したことと同列扱いになるというのならね」

「あんたがクリスをものほしそうな目つきで見るのはいつものことだろ」

「それをいうならお前だ――っ」

 俺はテーブルの下でやつの足を蹴っ飛ばした。

「ディーン!」鋭い声が飛んだ。

「今なにをしたんだ。ミスター・ノーランに謝りなさい」クリスがこわい顔でこっちをにらんでいる。

「でもクリス、こいつが――」

「でももだってもない。人狼のお前に蹴られたら、骨折したっておかしくないだろう」

「こいつは吸血鬼だよ。胸に杭を打たれても死なないんだからさ、俺に蹴られたって蚊に刺されたくらいにしか感じないよ」

「そういう問題じゃない。人によってやっていいことと悪いことを変えるのはおかしいと言っているんだ」

「……」

 俺は黙ってニックの野郎を横目で見た。やつはいかにも満足そうににやにやしている。もし俺がひと言でもそれらしい謝罪の言葉を口にしようもんなら、いつものあのもののわかったような年寄りの余裕ぶりを見せつけて、クリスに対して点を稼ごうとするに決まってる。

 ……嫌だ。吸血鬼に頭を下げるなんて、絶っっっっっ対にごめんだ。あとで怒られてデザートぬきにされようと構うもんか。

 俺がいつまでも黙ったままでいるので、クリスがため息をついた。

「……すみません、ノーランさん。彼にはあとで言って聞かせますから」

「どういたしまして。飼い犬の不始末は飼い主の責任というわけだ」

ノーランさんミスター・ノーラン?」

 今度はクリスの声の温度が一下がった。

「あまり言いたくはないのですが、あなたのその態度が救いを遠ざけているという可能性はありませんか? 少なくとも私の見たところ、あなたは七つの大罪のうち三つは確実にお持ちのようだ」

 ニックは文字どおり絶句した。ホントだよ。いつもだったらひねくれた切り返しでひとをけむに巻こうとするやつが、悪魔に舌を抜かれたみたいにひと言も反論しなかったんだ!

「……ねえ、なんかクリス性格悪くなってない? あいつに影響されたの?」

「なにを言っているんだ。私はもともとこういう性格だよ。だからそう言ったじゃないか」

「聖職者を道連れにするのは考えなおしたほうがいいぜ」

 俺はにんまりして、クリスの変貌ぶりがまだ信じられないで唖然としている様子のニックに言った。

「俺は神の猟犬だからいいけどさ、あんたは絶対耐えられないよ!」



Fin…?

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