6-2

「ジェレミー、そういえば、最近告解には行ったかい?」

 夕飯のときにクリスが声をかけると、ジェレミーは一瞬びくっとした。

うちの教会ここに来てから行っていないだろうと思って。私じゃあれだろうから……このあたりだと、カーク司教のところがいいかな」

「神父もザンゲすんの?」

「するよ」とクリス。

「どんな?!」

「それは秘密」

「ちぇ、つまんねーの」

 ジェレミーにはぜひとも、マズい料理を同居人に食わせていることについてザンゲしてもらいたい。

 言っとくと、ジェレミーの飯はひどかった。チキンソテーは焦がしたと思ったら中まで火が通ってないし、クラムチャウダーの貝に砂吐かせるのを忘れるし(口の中が砂浜みたいになった)、ライスペーパーはつまめないで全部破くし、マカロニの茹で時間をまちがえてどろどろの塊にするし……。グーグルマップの指示に従えないやつがレシピに従えると思った俺がまちがいだったぜ。

 そもそも、不器用なくせになんでパスタみたいな繊細な料理にチャレンジすんだよ。俺とクリスは使用済核燃料処理施設じゃないんだぜ。

 だけど、クリスが告解しなきゃいけないような悪いことなんかするんだろうか。

 このあいだ他人ひとんちに不法侵入したことか? ユダヤ教徒を助けたことか? よくケーサツにウソついてることか? ああ、それから助祭とケンカしたことも。あと……吸血鬼に「キリストの血」を売って金もらってることか。それはたしかにザンゲすべきだと思うけど。

 てゆうかマジであいつとつきあうのはやめてほしいんだが。

 クリスの血を吸わないからいいってもんじゃない。

 吸血鬼の知り合いはあいつひとりだけだけど、なにが嫌って、あいつの目だ。俺や、ジェレミーみたいなふつうの人間を見るときとぜんぜんちがう。

 俺を見るときはバカにしてんのがよくわかるし、ジェレミーなんかを見る目つきはまるきり獲物を狙う感じだ。だけどクリスを見てるときは……なんかやらしいんだよな。あいつがおとなしいのは聖別されたワインキリストの血を飲んでるときだけだ。

 生きてるあいだはストレートだったみたいだし、あいつに子供はいないから、たぶんなんだろうけど、用心しとくにこしたことはない。

 けどなんで、ジェレミーの野郎の様子がおかしいからちょっと聞いてみてくれって言ったら、告解するって話になるんだ?

「ここからだとちょっと離れているからバスになるけど。私が一緒に行ってもいいし、ひとりでも大丈夫そうならディーンに路線を聞くといいよ」

 俺は一緒に行く気はねーからな。

「ええ……あとで聞いておきます」

 ジェレミーはなんだか歯切れが悪かった。たしかにあとで俺に都心への行きかたを聞いてきたけど、ちゃんと聞いてんのかめちゃくちゃあやしかった。迷子になっても知らねえからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る