3-4

 その夜俺は寝つけなかった。

 閉め忘れたカーテンのすきまから月の光が漏れて顔に当たってうっとうしくて目が覚めたっていうのもあるが――なにしろ満月だった――ジェレミーのやつがなんかごそごそしていたからだ。

(……うるせえなあ、やるならトイレでやれよ)

 俺はわざとらしく寝返りをうって、やつに伝えてみることにした。

 するとやつは俺のもくろみどおりに、起き上がってこっそり部屋を出て行った。

 やっぱりな。俺はほくそ笑んだ。

 ふーん、あんたも案外の男だったんだな。

 クリスには黙っといてやろう。たとえ俺がバラしたところで、クリスは「それがどうした」と言うだろうが、聖書のどこだったかな、とにかくそれを十一番目のいましめみたいに思ってるやつにはダメージになるだろう。今度なにかうるさく言ってきたら、俺はんだぞと言ってやればいい。

 やつに起こされたせいか、腹が減った。

 どうせ眠れないんだし、たしか冷蔵庫にチョコレートムースが入っていたはずだ。

 俺は起き出してキッチンへ向かった。

 バスルームのドアからは明かりが見えなかった。おっかしいなあ、たしかにドアが開く音がしたんだけど。

 ボウルに山盛りにしたココナッツミルク入りチョコレートムースを食っていると、しばらくして玄関ドアの開く音が聞こえた。

「……なんだ、君か」

 ジェレミーは俺を見て、てっきり幽霊だと思った、とばかりに胸を撫でおろした。

「……こんな夜中になにをしているんだい?」

「見りゃわかんだろ。そっちこそこんな夜中になにしてたんだよ」

「僕はその……ちょっと眠れなくて……散歩してたんだ」

 散歩ねえ。言われてみれば、たしかにやつはパジャマじゃなく、ジョガーパンツにTシャツ姿だった。

 ジェレミーはシンクへ行って水を一杯飲んだ。

「いくら住宅街だからって、満月の夜に出歩くなんて危ないぜ。吸血鬼ヴァンパイアじゃあるまいし。アタマのおかしいやつがうろついてるかもしれないだろ」

「え……ああ、もちろん。教会の外には出ていないよ」

 俺の疑問のまなざしに気づいたのか、やつはちょっとうろたえて、

「ええと、だから……墓地をひとまわりしてきたんだ」

 はあ? 墓地? よりにもよってこんな夜に?

 おかしいやつだとは思ってたけど、ここまでとは。

「ジェレミー、あんたは知らないだろうけど、あの墓地は……」

「……?」

「……いや、なんでもない。とにかく気をつけろよ。墓泥棒と鉢合わせする可能性だってあるんだからさ」

 わかったよ、ありがとうディーン、と言って、やつは夢遊病者みたいなふわふわした足取りで部屋に戻っていった。

 念のため、朝起きたら、今夜俺と話したことを覚えてるか聞いてみたほうがいいのかな?

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