3-3
俺はジェレミーの弱みを探ることにした。
やつは酒もタバコもやらないし――飲めないわけじゃない。大学の新歓コンパで無理やり飲まされてひどい目に遭ったから節制しているんだと言っていた。タバコもだ! 身体活動にさしさわりがあるからやらない、なんて! 人生になんの楽しみがあるんだ!
俺が走っているのを知ると、五時起きで一緒にランニングしないかと言ってきた。行ってもいいけど時速二十五マイル〔約40㎞〕出せるのかよと聞いたら、断る口実に馬鹿にされたと思ったらしい。
もちろんドラッグやギャンブルなんて悪魔の所業だ(クリスでさえたまにパブに行って、隣のやつとサッカーの試合に賭けるくらいはするのに!)。
「ほかに罪になることってなに」と俺が聞いたら、ジェレミーのやつは〈アクアフレッシュ〉のCMにそのまま使えそうな歯を見せてものすごく嬉しそうに笑って、それから聖書を持ち出して講義を始めたので、俺は
「……ねえ、たとえジェレミーが、『レビ記』の第十八章二十二節みたいなことをしてたとしても、クリスはあいつを追い出さないよね?」
クリスは変な顔をして俺を見た。
「もちろんだよ」
「もし第十八章二十節だったら?」
「……彼はお前に告解でもしたのかい?」
……いや、説教しただけだよ。
「あいつ、『レビ記』第十九章十五節が座右の銘だったんだってさ」
クリスはため息をついた。
「それは立派な心がけだと思うけど……。彼の前世はミスター・ノーランと同時代だったんじゃないだろうね? 今度教えるなら、『マタイによる福音書』にでもしてもらうよう言っておこうか?」
「勘弁してよ!」
俺はクリスの前からも逃げ出して、気分転換に走りに行くことにした。
走る理由は、たまにはひとりになりたいってのもあるけど(あいつがきてからは特に!)……精力の発散ってのもある(あいつがきてからは特に!!)。
そういや、『箴言』を引き合いに出して酒と女の話をするときになんだか顔が赤かったから、酒だけじゃなくて女でもなにかマズったのか聞いてみたら、そっち方面は説教できるほどの経験がないんだってさ――あの年で童貞かよ! いや、人のこといえないけど。
ひょっとして、俺の
考えたら無性にイライラしてきた。まったく、どいつもこいつも。
だけど、公平を期すために言っておくと、ジェレミーがきてからいいこともあった。英語の成績があがったんだ。ほんのちょっぴりだけど。
俺にテスト用紙を返すとき、シルヴェストルのやつは、名前がまちがってないかたしかめるみたいに、答案と俺の顔を何度も見比べた。
「たぶんC
「よかったね」
俺の成績を聞いてジェレミーはぎょっとしていたが、クリスはすなおに喜んでくれた。
「きっとミス・エーデルスタインのおかげだね。それからミスター・ノーランとジェレミーも……」
そりゃあれだけ古典だの聖書からの引用を聞かされてりゃ……って、
「違う! これは九十九パーセント、メルのおかげだよ! あとクリスの!」
どっちにしてもメルに手紙を書くいいネタができた。
メルはギリシャに着いてから、約束どおり絵ハガキを送ってくれた。パルテノン神殿のやつで、そのうちちゃんとした手紙を書くこと、ここにまつられているギリシャ神話の女神アテナは知恵の女神だから、ディーンの勉強の助けになってくれればいいと思ってこれを送ります、と書かれていた。単に有名な観光地だからってわけじゃないんだな。すごくメルらしい。
ハガキでいいから返事を書きなさいとクリスに言われて、俺は〈セーフウェイ〉で、できるだけ気の利いた格言が片面に
これでいいよねとクリスに見せたら、なんでだか知らないけど笑いをこらえるのに苦労していた。ヘンな意味なのかと聞くと、「いや、ヴェルレーヌのすごく美しい詩だよ、私は好きだな」と答えた。じゃあ笑うことないのに。
ハガキをありがとう、新しい生活はどう? と俺は書いた。そっちは大変だと思うけど、こっちも大変なんだ、新しい居候が……。
「ねえ、
ちょうど部屋に入ってきたジェレミーに俺は聞いた。
「生物のレポート?」
「いや、あんたのこと。手紙書いてるんだ」
「それはちょっと侮蔑的だな……寄宿させてもらってるっていったほうがいいかな」
やつは机の横にきて、俺の手元をのぞきこんだ。
「女の子?」
「そう。ギリシャにいる」
ジェレミーのでかい手がポストカードをひっくりかえす。
真面目な顔で格言に目を走らせて、
「……ああ、きれいだな。これを読んだら、その子はきっと君のことを思い出すよ。離れているっていうのも悪くないものだよね。恋人?」
「友達」
メルについてこの単語を口にするとき、俺の胸はまだちょっと痛む。でもメルのことを忘れたいとは思わないし、向こうが俺を思い出してくれるとき、それがいい思い出なのを願うよ。
「友達にそんなハガキを送るのかい?」
「居候を居候って書いてなにが悪いんだよ。もういいからあっち行けよ」俺はやつの手からハガキを奪い返した。
ジェレミーはしばらく
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