開かれた幕、揃いし演者。
「さて今から新入生実力テストを開始します。まず初めに新入生代表からの宣言です。ツバイさん、お願いします」
その言葉を皮切りに、試験は開始の合図を放った。
「長ったらしいことは語らない。己の力を存分に引き出しこの試験に立ち向かえ!」
その一文で会場に集まっている人の大半が血気盛んになり出した。
そしてグループ分けされることとなったのだが……。
『……予想通りといえば予想通りなんだけど』
「私たち、ことごとく縁があるよね」
第一試験は一対一の決闘スタイルの試験だった。勝ち残った各グループ4名が第二試合へと進めるという流れなのだが、初っ端からゼロとアレシアがぶつかることとなったのだ。
「しかも次が私たちの出番だから辞退の手続きしてる間にどちらかの不戦勝が決まっちゃうし……」
『もう、いいんじゃない?手加減しようだとかそういうの考えなくても』
「え、でも……。いいの?」
『うん。そもそも今回の試験、僕のためなんでしょ?不戦勝で勝ってもアウトになるだけだろうし』
「でも……」
ゼロは自分が大丈夫だと言っているのにそれでも戦うことを躊躇うアレシアの肩を叩いた。
『僕の身を案じてかもしれないけれどさ』
今戦っている人の決着がついたのを見届け、ちょっとずつ歩を進める。それを引き止めようとするアレシアに向かって、
『僕、心配されるほど弱いわけじゃないよ。困難なんて、振り切らせてもらおうか』
何故かふと頭に浮かんだそんな言葉をゼロは口に出していた。
ゼロが試験に挑もうとする姿。それが他人にとっては滑稽に見えるのかゼロを見る目は憐れみと嘲笑のみだった。
どうやら僕に対しての応援は一欠片も存在しないようだ。
『さっさと始めようか。僕は長々したことは嫌いなんだ。だからこの試合は1分で終わらせる』
「ふふっ、私をそこまで見誤りしないでほしいな」
そう言い合うと二人の間で静寂がひしめいた。かすかな風の音。ゼロとアレシアの周りに現れた覇気に息を呑む観客。そしてその静寂を切り裂く旗の揺れる音が響く。そして
「試合開始!」
その発言を聞き逃すことなくゼロは即座に無詠唱で[想像具現]で魔力障壁を全面に置いておく。そして[俊閃ノ刹雷]を使う。
もはやソニックブームが小規模ながら起き、その衝撃波に顔を隠すアレシア。それが決定打だった。
『チェックメイト、だよね?アレシア』
「え……、なんで……」
『人を劣ってみるのは命取りだよ?そもそもみんながある種馬鹿なだけなんだけど。主に大人』
時間にして9.08秒。刹那の如く速さで勝負を決したことから相手が弱かったのか?とも言われるようになったが成績を見る限りに弱くないことからゼロが本当は強かったことが判明したのは次の試合のことだった。
次の試合の順番が来るまで控え室のような場所で待っている時のことだった。
暇すぎて若干眠気が襲ってきてあくびをしていると数人の男子に囲まれていた。
「何か用?」
「黙れ。お前みたいな不正者に人権なんてものはないんだよ」
ゼロは絶句していた。まさかこんなことを言われることなんて予想だにしてなかったからちょっと応答がしどろもどろになっていた。
「どういうこと?僕はきっちり戦ったよ?」
「あくまでもしらばっくれるってわけだな……」
それだけいうと去っていった、と思ったがその去り際に
「安心しな、次の試合でお前の化けの皮を剥がし切ってやるから」
そう強く出てきたことからなんか腹が立ってとある固有能力を作ることにした。
そしてゼロの2回目の試合。先ほどの男はよく見てみると挨拶をしてた男だった。名前はツバイだっただろうか。
「さっさとお前の本性をあぶり出してやる」
『できるものならやってほしいね』
そう言ってるとオスタヴィルが叫んでいた。あいつ、何やってんだ!?
この騒音が流れているなか、彼女の声だけは何故か届いていた。
『「全部振り切れっ!z……ファーシル!」』
その声を聞き取って、ついゼロは苦笑してしまった。
「試合、開始!」
ゼロは先ほど作り上げた固有能力を構築する。その間に無詠唱[俊閃ノ刹雷]を使いツバイからの魔術を避ける。
身体に宿る魔力を媒介に現実改変をする魔術。それを見極めることなんてできないと言われているから、ゼロが全て避ける様子を見て観客の1人を除き絶句、どよめいていた。
しかしそんなことをお構いなしに絶句していないただ1人の観客、オスタヴィルは手をメガホン型にし、大声で叫んだ。
「制限をするな!手加減なんて戦いでよぎらせるな!」
その言葉を聞いてゼロは試合開始直後から構築していたとある技をツバイに向ける。
『ちょっとした怪我じゃ済まないよ?ちゃんと守ってね、自分の体』
そう忠告するが聞く耳を持たず突撃するツバイに呆れつつ、
『〈雷神の名を冠し告ぐ 承認せよ我が身へ〉』
詠唱をする。絶対に避けられない域に入るまで、あと3秒。
『さぁ、振り切ろうか。[
そう口に出すと時計の針のような雷の槍がツバイを捉え、貫く。
とてつもない痛みと雷撃の麻痺で声にならない叫びを漏らしていた。そしてツバイが運び出されてから
「し、試合終了……」
「やったな、汝ぃぃぃいいい」
「あ、うん。オスタヴィル——ってなんか落ちてきて、ぐあぁっ!?」
背中にとてつもない衝撃が走る。まさかここで最初に持ってきてた魔力障壁が役に立つとは……。
「たく、ちゃんと出てきてからにしろって……」
「別にいいじゃろうが!」
——このやりとりから一部では婚約者がいるという噂が広まったとか。不幸か幸いか、その噂は本人に伝わらなかった模様だった——。
黎明に灯る月 神坂蒼逐 @Kamisaka-Aoi1201_0317
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。黎明に灯る月の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます