愛と実験、そして魔改造。

「やっと終わったね、学長の話」

『うん……。ちょっと散歩してきていい?軽く30分』

「それは軽くって言わないよっ!?」

 チャイムが聞こえたとき時計は10時前を指していた。しかし今は何時だろうか、と思って見てみるともう13時をとっくに過ぎていた。

「でも、確かに太ももとかの感覚が全然ないよ……。かよわく美しい少女をあんな程度の椅子に括り付けるなんて」

『……そういうのは自分でいうものなの?』

 そう談笑しつつ適当に歩いていると、嫉妬の視線の中に異質な視線を感じた。

 その方向に目を向けると人影の中で逃げる人が1人見えた。しかしここを離れて追いかけるわけにもいかなかった。

 今向けられた視線、その視線はゼロよりもアレシアを捉えていた。つまり僕は副産物であり目標はアレシアなのだろう。

『何者なんだ……』

「急にどうしたの?なんか険しい顔になってるけど」

『……あ、気にしないで』

「すっごい気になるんだけど……。まあ、今回は見逃してあげましょう。それで今からどうする?」

『もうお腹減ったよ。どこかでご飯食べに行く?』

「っ、絶対に行く!」

『ん、めちゃくちゃ食い気味だな……。まあいいけど』

 とりあえずもう用はないので外に出ようとした時、

「ファーシルくん。あなたは今すぐ学長室にきなさい」

『……はい。待っててくれるなら待ってて』

「うんっ!」

 そしてゼロは学長に呼ばれるがまま学長室に放り込まれた。

「それで、これはどう弁明するつもりか教えてくれますか?」

『これ?何ですか?』

「はぁ……白々しい態度は悪評になり得ますよ。正直に話しなさい」

『だから、何について結局話すのかがわからないんですけれど』

 困惑するゼロ、怒りの念を少しづつ募らせている学長。双方噛み合わなさにもどかしく感じていた。そして学長は即座に切り出した。

「あなた、不正をしましたね?」

『……はい?』

「この調査書です。例外的に2回目を受けてこれ。おかしいですよね?」

『まぁそうですね。

「……は?あなた自分が何をしたかわかってないんですか?大罪を犯していることを白状しなさい!」

『それをいうならお前がな。学長だろうと実力を見誤られるのは気に食わない』

「そ、それほどいうのなら……」

 ゼロに指を刺して学長は嘲笑うかのようにこう告げてきた。

「急遽ですけれど新入生実力把握テストを行いましょうか。それであなたの実力を見ましょう。この落ちこぼれ」

『……えぇ』

 この時学長は一つ過ちを犯していた。絶対に開いてはいけないパンドラの箱を思いっきり開いて、その末に災いが己の前に現れることを、全く知らない。


 学園の寮に帰ると部屋の裏口へ向かった。簡素ながらの裏口はなぜか遮音性が高かった。だからゼロはそこで能力開発を試みていた。

『詠唱破棄、ポテンシャル発動……』

 黙想しつつそういうとまた謎の場所へと飛ばされていた。

『汝、きたのか?我に会いたかったのか?』

『うん。固有能力を開発できないかなって』

『ふむ……。できないぞ』

『もう少し考えてくれないですか……?』

 即決されてしまいしどろもどろな受け答えになってしまうゼロ。正直打つ手があるか、と聞かれたらないとしか言いようがない。

『ただ能力を複製することはできるぞ。今した。だからこれで頑張れ。能力の使用する権利は汝に預けているからな』

 ある意味重大なことを最後に言われて謎の場所をゼロは去った。

『うーん……正直どうしようもないんだよな……』

 そう思っていた時だった。寮の中にある本棚を漁ってみると、数字で文を表すことができると書かれている本があった。

『これは利用できるんじゃないか!?』

 [理改ノ守護]はe7,90,86,e6,94,b9,e3,83,8e,e5,ae,88,e8,ad,b7。これをe7,9e,ac,e9,96,83,e3,83,8e,e5,88,b9,e9,9b,b7に変える事ができたら…….。

『汝、1202351929239599049055163935558774199を1202638894574843587799117093042494391に変える、でいいか?』

『ん、それでお願い。そしたら多分……』

 複製された[理改ノ守護]、そしてそれは形を変えて、新しい固有能力となった。

 [瞬閃ノ刹雷メテオリック]。それがゼロの2個目の能力だった。能力は『移動速度と反射速度が18倍となる』という能力だった。

『これでとりあえずはマシになったかな……』

 そして新たに複製して同様の工程を繰り返し、ポテンシャルを増やすことにした。

 まず[想像具現ワールド・チェンジ]。己が想像した事象を30%の確率で具現化させる固有能力。これに[理改ノ守護]を重ねがけて30%を100%に改竄する。

 そして[摩天楼ノ影インビジブル]。相手の視覚に干渉し、術者の認識位置を鈍らせる固有能力。

 あとは精神体の助言で[治癒付与ヒーリング]も作っておいた。術者が選んだ対象を最大2人同時に最大治癒する固有能力だが勿論これも[理改ノ守護]を使って最大10人までにかえることにした。そしてわざとこの能力にはデメリットを作った。どうせこれを後悔する日なんてない、と思いながら。

「ふぅ……。これで問題ないかな。あとはまぁ相手とかの実力によりけりだよな……」

 ——できるだけ強い人には当たりませんように。

 そう考えながら今日のところは眠りにつくゼロだった。

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