第1章 愚策

無謀、叶わぬ羨望

「でも、能力は関係ないって話ではないんですか?」

 調査書を突き出されたゼロは困惑した様子で問いかけた。

 この学園の方針を思い出しても、落第点を取るか3回指導を受けない限りは入学できるという話だったはずなのだが。

 僕が何かしら勘違いをしているのか?そう考え始めたゼロが首を傾げると監督官は激昂して告げた。

「お前には一つの能力が宿っている!だがあまりがもうないんだよ!この学園は能力を身につけるための場所なんだ。だから言ったんだ。お前みたいなやつはいらない、とな」

 後ろで順番を待っていた他生徒達が話を聞いてしまったのか、嘲笑するものが相次いだ。

 そこまで納得行っていないゼロの顔を見て呆れたように監督官は説明を始めた。

 この学園では〈組内技力テスト〉というものがあるらしくそれは担当する教官によって内容は違うがテストの根幹は変わっていない。

 それは魔法技力と固有能力の上達率だ。固有能力が徐々にレベルが上がるような、そんなポテンシャルであれば学園側も固有能力のキャパシティがもう残っていなかったとしても入学を快く受け入れていただろう。しかしゼロのポテンシャルは無成長型。

 概念系はレベルなどが上がってその力が上がることはない。

「別に入学を絶対に拒むことはできやしない。だが結局一度めのテストで落第することが目に見えている。そしてここでの落第はこの国での笑いものにされるのと同じだ。だから俺はお前を案じて——」

「——ありがとうございます。だけれど、僕はまだやりますよ。いや、

そう力強くいうと深くため息をつきながら試すような乾いた笑みでゼロを見た。監督官の目には前進の2文字しかないはっきりとして曇りのないその瞳が映っていた。

「はぁ……。まぁせいぜい頑張りな」

 そう言われて手続きを済ませると今日のところは宿に戻ることにした。


「僕のポテンシャルはそんなに使えないのか?」

 渡された紙を見てそう思っていた。

 だからゼロは内なる好奇心に突き動かされてポテンシャルを発動した。

「『全知の理はここに集いて 我に示せ 承認せよ』[三度ノ指揮]」

 そう唱えると視界は一度シャットアウトし、次の瞬間にエレクトリックな場所に飛んできた。そこで戸惑っていると程なく。

『汝が我を承認した者か』

「えっと、多分、はい」

『ならば汝は我に何を望む』

 多分この精神体のようなものがゼロの固有能力である[三度ノ指揮]の実体なのだろう。そしてゼロは自分の疑問を、その願いにして口に出して。

「じゃあ望みをいう……んだけど、その前に確認をしていいかな?」

『いいだろう。何を問う』

「……僕のポテンシャルは『なんでも数値を生涯3回まで改竄することができる』。あってるよね?」

『あぁ。その認識で間違いない』

「なら、僕の望みはただまずは2つだけだよ。僕の願いは、『能力の使用回数を100億回までにする』と、『固有能力の許容数を300にする』。これだけ」

 そういうと精神体は絶句していた。そして笑い出した。

『ふはははっ、汝はやはり気づいたか。この能力の真髄に』

「やっぱり、できるんだよね?」

 ゼロは自分の能力が卑下されてしまう理由を不思議に感じていた。

 能力自体の数値を改竄してしたらいい。そう考えてしまっていた。だからここでそう言ってみると案の定問題なかった。

『汝が久しぶりだ。我が宿った人間の中で汝と同じことを言ったのは生涯で汝を差し引いて1人しかいない』

「そんなに頭悪いんだ」

『……中々に毒舌だな』

 そして精神体は動き出すとゼロの頭に触れた。

『今からデータ改竄を行おう。目を瞑れ』

 言われた通りゼロは目を瞑る。すると若干黒っぽかった視界が突如にして白く光った。

 その衝撃に飛び起こると、そこは能力発動前にいた宿だった。


『これで僕のポテンシャルは強くなったのか?』

 証明するためのものが一つもないからゼロが困惑していたが結局ゼロが導き出した結論は監督官の元へ向かうことだった。

「……またお前か。何か用か?」

『どうせなのでもう一度ポテンシャル調べてくれませんか?』

「何を言ってるんだ?もしかして信じられなかったからもう一回調べたいのか?」

『半分そうですね。それで調べられますか?』

 そう尋ねるとポケットから調べるための紙を取り出した。

「ほいよ。これに前と同じことをすればいい」

 ゼロは黙って紙に魔力を流した。そして文字が浮かんできた。

「変わってなかっただろ。だからもう諦めて——」

『——残念でしたね。これで僕は無能じゃないですよ』

 僕は前、監督官にされたように今調べた結果を投げつけてやった。


「ったく。問題児が今年も来たものだな」

 そう呟きつつ手に取った調査書を覗いてみると

「な、なんだよこれ……。こんなのまるで」

 男の顔は歪みきって、何かに恐れるかのような表情を出した。そして震える体を鞭打って口を開いた。

「まるで、数千年前に存在していた【災厄の魔道士ストライト】じゃないか……」


〈ゼロ・モニカ(ファーシル・オルメシア)のPLP〉

(※PLP=ポテンシャル・レベル・ポイントの略。固有能力の数と空きを示す数値)

[ポテンシャル]

・[理改ノ守護ユートピア

 あらゆる数値的概念を生涯で——回改変できる。

 繧ケ繝医Λ繧、繝医→繧シ繝ュ縺ッ2莠コ縺ァ1莠コ縺ァ縺ゅk


[固有能力許容量]

繧ケ繝医Λ繧、縺ィにより無限である。

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