第8話
「ただいま」「失礼します」
玄関のドアを開けると奥から近付いてくる音が聞こえてきた。
「おかえり。
「はい。ありがとうございます。あと急に押しかけてしまいすみません」
「いいのいいの。
「いえ、大丈夫です」
「じゃあご飯ができた時に呼ぶから
母さんが急ぎ足でリビングに戻っていく。その様子を二人で眺め、俺は靴を脱いだ。
「それじゃあ俺はお茶取りに行ってから部屋に向かうよ。
「うん」
「よかった。それじゃあ」
リビングに向かいお茶と二つコップを出してから自分の部屋の扉を開ける。すると部屋の隅で
「ははは、そんな緊張しなくても。何回か来てるだろ? 普通にどこか座っていいよ」
「緊張ぐらいするもん。彼氏の家だし」
「そういうもんか?」
「そういうものだから! トモ君だって私の家に来たときは全然落ち着いてなかったし、緊張してた!」
確かに緊張してた気がする。というか座れる場所が勉強用机のイスかベッドしかないな。
前に家へ呼んだ時は座布団を用意してたけど、今回はここにないし……。
俺はできるだけ普通に、平静に、ベッドへ腰掛けると横を軽く叩いた。
「こ、ココに座っタラどうダ?」
思い切り声が上がってしまった。
「あはは! なんでトモ君の方が緊張してるの」
「案外平静を保つのってムズいんだな」
滅茶苦茶恥ずかしい。代わりに
そこで無言が続く。隣に置いてある手に触れると
互いに顔を見つめ合う。
きょ、今日こそ……俺が!
手を離し
揺れが小さくなったのを合図に俺は自分の顔を
「ご飯でき……」
俺たちを呼びに来たであろう母が音を出さないようにドアを閉める。しかし部屋が静寂だったこともあり、
その頬は最近では見ないほど紅潮していた。多分俺もめちゃくちゃ赤くなってる。
「あ、あはは……見られちゃったね」
「そう……だな」
「「…………」」
またしても無言になる。先ほどとはまた異なる種類の無言。とてもキスをするような雰囲気にはならない。
「飯でも食べに行こうか」
「うん。そうだね」
母と顔を合わせるのは気まずいが、どうせいつかはしないといけないんだ。
だったら早めに済ませた方がいい。
俺は重い腰を上げると
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます