第9話

「あー酷い目に遭った」

「あはは、賑やかな晩ご飯だったね」


 夕食の時間、俺と未来みらいは母からの質問攻めで心が一気に疲れた。


 部屋に戻ると先程のようにベッドに座る。


「あ、未来みらいっていつ風呂入る? 客人だし先に入るか?」

「いいの? それじゃあ……いや、一緒に入る?」

「いや、それは流石に……」


 付き合ってるとはいえ俺たちはまだキス以降進んでいない。なのに一緒に風呂に入っていいのだろうか。


「そう? 私は一緒に入ってもいいんだけどな~」

「え! マジ?」

「あはは~、けどまたの機会にね」


 そう言って未来みらいが部屋を出ていった。


「マジかよ……」


 思わずベッドに沈み込む。俺も男なだけに誘惑には反応してしまうのだ。


 今の思考を払拭するべく数学課題に手を付ける。未来みらいが風呂に入ってるうちに例の問題まで終わらせないと。


 静かだったこともあり集中して課題が進んでいく。この調子ならもうすぐ『予知夢』の問題まで辿り着きそうだ。


 まるでテスト前夜に課題を終わらせるようにただひたすら手を動かし続ける。


 そうして例の問題に辿り着いたのだが……


「あれ、これどう解くんだっけ……」


 ほんと、つい数秒前までは覚えていたはずなんだ。しかも夢で見た内容なんだから完全に記憶していた。なのに思い出せない。


 何かおかしい。これじゃあまるで……


「私が帰ってきたぞ~」


 そこで寝間着姿の未来みらいが帰ってきた。風呂上りだからか頬が赤く肌も艶が出ていて色っぽい。


「おう、おかえり。その服どうしたんだ?」

「トモ君のお母さんに借りたんだ。今洗濯機回してもらってて、夜はこれで過ごすの」

「そうなんだ。なんか夜に未来みらいと話すの新鮮だな」

「確かに。最近は夜に通話もしなくなったしね」

「付き合い始めはやってたけど自然になくなっちまったな」

「……そうだね。って結構数学進んだね」


 未来みらいに数学の問題を指摘されて心臓が跳ねた。おいおいこの流れって……。


「あ~これ難しかったけど先週末に授業で解説されてなかった?」


 やっぱりだ。どこか『予知夢』に誘導されてる気がしてならない。

            

「あー確かに。けど答え見れば分かると思うから」


 周囲にあるはずの解答本を探す……が見つからない。その様子を察したのか未来みらいがニヤニヤと俺を見ていた。


「あっれ~もしかして解答ない? 未来みらいちゃん必要?」

「うっせ、いらねえよ」

「またまたぁ。仕方ないから教えてあげる」

「いや、本当に……」

「はいはい。答え教えてもらう立場なんだから黙ってなさい」


 これ以上は無駄だと感じ抵抗をやめる。すると『予知夢』に従うように時間が過ぎていく。


 その後は特に何もなく、別々の部屋で寝て次の日の昼頃に未来みらいは帰っていった。


 しかし人生初の彼女とのお泊り会は『予知夢』を意識してしまい楽しめなかった。

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