第4話

「聞いたよ〜。今回の期末はアキ君の力を借りずに頑張るんだってね」


 放課後、未来みらいと手を繋ぎ帰っていると今日の昼の話をされた。あいつ未来みらいに話したのか。


「まぁな。クリスマスイヴには未来みらいとデートしたいし、補習に掛からないように頑張るよ」

「うんうん、トモ君は英語以外ならちゃんと出来るんだから。私ぐらいの成績取りに行こうよ」

「俺の数学の点数が平均点の未来みらいの場所には行ける気がしないよ」


 俺が唯一秀でている教科は数学で、平均90点ぐらい取っている。ただ、他教科……主に英語が数学で稼いだ点数をキレイに消し去ってしまうのだ。


 暇な放課後をゲームばかりしている俺に対し、未来みらいは毎日コツコツと勉強しているらしい。


 その結果、同じ帰宅部なのに成績の差が生まれている。毎日勉強なんて俺にはできる気がしない。


「まぁまぁ、アキ君の代わりに私が勉強手伝ってあげるからさ。頑張ろうよ」

「え、マジで!?」


 それはありがたい話だ。言っちゃ悪いが明人あきとの成績は中の上。それに対し未来みらいは何回かトップ10に入ったことがあるほどの成績だ。


 そんな人に見てもらえるなんて心強い。


「あ、でもいいのか? いつも友達の勉強見てるんだろ?」

「そうなんだけどね。今回は『彼氏を優先させてほしい』って言ったらオッケーされちゃった」

「ごめんな、わざわざ俺のために」

「別に謝ることじゃないよ。それに……私もトモ君と一緒にいたかったし」

「そ、そうか」


 頬を掻いてそっぽを向いてしまう。未来みらいも赤くなった頬を隠すように下を向いていた。


「と、とにかく善は急げだ。場所は駅前のカフェでいいか?」

「う、うん。そうだね」


 交差点を曲がり未来みらいの帰路に足を進める。学校が徒歩圏内な俺と違い未来みらいは電車通学なので帰りはいつもここで別れていた。


「えへへ、トモ君がこっちの道歩いてるのって新鮮だなぁ」

「そうだな。デートだと駅や現地で待ち合わせだし、ここを二人で歩くのは付き合い始めて以来か」

「うんうん。毎日浮かれててどこか寄り道してたよね」

「流石に金銭面気にして自重したんだよな」

「ほんと、恋っていうのは恐ろしいよ。気付けばどんどんお金がなくなっちゃう」

未来みらいの家はバイト禁止なんだっけ?」

「高校卒業するまでね。親は遊びで必要な分は出すって言うんだけどさ、流石に申し訳なくて使いづらいよ」

未来みらいは真面目だな」

「ふ、普通だと思うよ」


 俺の家は小遣い制だけど趣味に使うことがなかったし、明人あきとは部活で遊びに行ける機会が少なかったからお金に困ることがなかった。


 確かに未来みらいとのデートで結構なお金を使ったが、まだまだ貯金はあるのでお金を大事にという考えができそうにない。


 駅前のカフェに辿り着く。互いにコーヒーを注文すると二人用の席に座り俺は数学の課題、未来みらいは数学の教科書を取り出した。


未来みらいは課題しなくていいのか?」

「今やってる範囲のは終わったから今はテスト範囲の予習中」

「予習……だと!?」


 予習ってまだ習ってない範囲を勉強してるってことだよな? 本当にしてる奴なんていたんだ……。


「まだ習ってないのに分かるのか?」

「そりゃあ教科書に書かれてるからね」

「すごいな。俺なんて授業聞かないと分からないよ」

「ふっふっふ。だったら分からないところは私に聞きたまえ」

「じゃあお言葉に甘えてこの問題なんだけど」

「…………それ基礎問題だよ。ノート見ればすぐ分かるって」

「実はこの時間寝ててノートの方が……」

「も〜仕方ないなぁ。じゃあ今日はそこを重点的に教えてあげるよ」


 頼られて嬉しいのか、未来みらいが声を弾ませてノートを取り出す。そんな彼女を見ていると俺も嬉しい。


 こうして未来みらい先生の授業が始まった。にしても未来みらい可愛いよなぁ。早くテストなんて終わってデートしに行きたい。


「……だから、こうなるってわけ。分かった?」


 基礎の分野だったからか、気付けば授業が終わっていた。俺は急いで未来みらいのノートに目を通すと先程まで言っていた内容をある程度理解する。


「うん、分かった。じゃあ答えはこうだろ?」


 スラスラと答えを書くが未来みらいの機嫌は悪くなっていた。


「トモ君、私の話聞いてなかったでしょ」

「いや、聞いてた聞いてた。答え合ってるだろ?」

「話し終わった後、必死にノート見てるのバレバレだったよ」


 そんなに気付かれるものなのか。これは言い逃れる余地がなさそうだ。


「ごめん、説明してる未来みらいが可愛くて話聞いてなかった」

「そっか……うん、なるほど。……褒めても何も出ないからね」

「褒めるも何も俺が思ったことなんだけど」

「っ……とにかく! まだまだ基礎だから終わらないよ! もう授業では全部終わってるしこれから集中してね!」

「よろしくお願いします」


 今度こそ集中して未来みらいの説明に耳を傾ける。未来みらいの説明は本当に分かりやすく、疑問に思ったところも丁寧に答えてくれるのですぐ理解できた。


「……と、もうこんな時間だね。そろそろ帰らないと」


 スマホの画面を見て未来みらいが呟く。


 気付けば18時を超えており、窓から見えた外は暗く、駅前は白い街灯に照らされていた。


「そうだな。暗いし改札まで送るよ」

「ありがと」


 広げていた勉強道具をカバンに仕舞い店を出る。夕方に比べ夜は一層寒くなっており体が震えた。未来みらいも同じようブルブルと震わせると白い息を吐いて両手を擦る。


「あはは、寒いね。そろそろ手袋欲しくなったかも」

「そうだな。店内が暖かかったから余計に寒く感じる」

「でも、トモ君の手はいっつも温かいよ」


 未来みらいが空いていた俺の手と繋ぐ。


「ほんと未来みらいの手は冷たいよな」

「手が冷たい人はね、心が温かいんだよ」

「じゃあ俺の心は冷たいのか?」

「トモ君はね〜、心の温かさが肌に伝わって手も温かくなってるの」

「ははは、なんだよそれ」


 おかしくてつい笑ってしまう。もっと一緒にいたいと思うが少し歩くだけで改札前に着いてしまった。


「それじゃあまたな」

「うん」


 返事が来るが一向に手を離されない。


未来みらい?」

「えっとね、これからはテスト勉強とか受験勉強で忙しくなるし、前みたいにいっぱいデートできないからさ」


 そうだな、と言おうとして未来みらいの方へ振り向く。


 ――瞬間、口に柔らかい感触が伝わった。目の前に未来みらいの顔があり、その瞳は閉じられている。もう何度も感じた、何度でも感じたいと思えるほどの優しいキスだ。


 一秒も経たずして顔が離れていく。その数舜でも俺たちが幸せになるには十分過ぎる時間だった。


「あはは、それじゃあまた明日ね!」


 パッと手を外されると小走りで改札を通過していく。


 確か前にキスをしたのはデート帰り、約3週間前か。そう言えばあの時も未来みらいから……いや待て。俺からキスをしたことはあったか?


 お返しで俺からキスすることはあるが毎回初めのキスは未来みらいからじゃないか? というかファーストキスも未来みらいからだった。


 ……もっと俺が男らしくリードできるようにならないとな。


 次回のクリスマスデート。その時は必ず、俺から……

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