3

 探さなければ。

 見つけなければ。

 あの方の、求めるものを。


 必死で屋敷を駆け巡り、何か収納出来そうな場所は全て探した。何故か開けることが出来なかった場所を除いて、ほとんどの部屋を確認した。

 それでも、見つからない。主人の探す太刀が、何処にも見当たらない。

 夜目は利くつもりだ。蝋燭の灯りだけを頼りにしてはいるが、見落としているなんてあり得なかった。

 外に出た。月明かりが冴え渡る、佳い夜であった。

 しかし月を愛でている暇はない。探さなければならない。見つけなければならない。主人を救世主たらしめるための太刀を。

 卑怯な行いはいけないと、そのような下衆になり下がってはいけないと、何度も己に言い聞かせてきた。そのような人間が、あの清らかで美しい主人に仕えてはならないのだ、と自分を律してきた。

 嗚呼、然れど──主人が求めるもののためならば、何処まで墜ちても構わない。主人が喜んでくれるのなら、自分はどうなったって良い。この身が落ちぶれるくらい、どうということはないのだ。

 走る。

 もう頼りになるものは限られている。

 走る。

 たとえ誰に恨まれようと、憎まれようと、主人のためなら構わない。

 走る。

 確証はない。だが、例のものがあるとするならば絶対にあの場所だろう。

 辿り着いた場所は、日中に見たよりも酷く広く見えた。実際に広いのだ。此処から、見つけなくてはならないのだ。

 熾野宮邸から拝借してきたすきを、地面に勢い良く差し込む。迷ってなどいられない。

 掘る。掘る。掘る。

 汗が流れる。口の中がからからに乾く。

 それでも、手は止めない。止めてなどいられない。地中に眠るであろうモノを確かめるまで、この手を止めることなど出来ない──!


「無礼者」


 冷たく、凍てついた声。侮蔑と、冷罵れいばと、そして憤怒が入り交じったそれは、背後から聞こえてきた。

 何者だ、と。唇を動かす前に、視界は大きく揺れている。

 何が、起こったのか。わからない。わからないが、痛い。手の感覚が──いや、体の感覚が、一瞬にして消えた。

 どう、なっている。俺の、身体は。いや、違う。俺の身体はすぐ其処にある。しかし、何故、こんなにも離れて────。



 愚直で哀れな従者の意識は、其処でぷつりと途切れた。

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