第10話
「えー、じゃ、文字が読めないということで」
檻から出してもらった私はネムツパさんに連れられて事務所のようなところに移動し、案内された椅子に腰をかけた。
机を挟んで向かいの椅子にネムツパさんが冊子、本を数冊置き話始める。
「子供が読む絵本なんだけど、ちょっと見てみなよ、読めるのある?」
5冊ある絵本をペラペラとめくってみる。
ギリシャ語みたいな文字が並んでいて、子供向けの絵と内容なのか、なんとなく話の流れがわかる程度で全く読めなかった。
「いや、読めませんね…」
パタンと本を閉じ、本を揃えてネムツパさんに返す、と、背表紙に数字のようなものが見えた。数字?なんか形が少し歪んでるけどこれが数字なら読めるかも!
「ネムツパさぁん!これ!いち?!」
「1」によく似た数字と思しきものを指差して言うと、
「正解!数字は読めるのか?」
これは?と指差された。
「ご?」
「正解!じゃあ、これは?」
「ろっぴゃくにじゅうはち?!」
「正解!ちょっと1から書いて?」
ペンと紙を受け取ると1、2、3、と書いていく。隣でネムツパさんが、うんうんと頷くのが見える。
10まで書き終えて紙を渡すと
「なんていうか、子供が書いた字みたいだけど読めるからよし!光明が見えた!」
「よかった…!」
その後、一応10進法なのかの確認をした。いきなりA出てきたら詰むから…
「でも数字だけだとなー、うーん、」
色々と書類と睨めっこしながらネムツパさんが職業選んでくれてる…!
「今募集されてる中では2つかなー、ひとつは孤児院で算数を教えてくれる先生を募集しているけどこれは子供たちの雑用を含むもの。もうひとつは、貴族の家なんだけどアンバー家の経理担当の補佐、これも多少のメイド業務は含まれる。
どちらも数字だけでできる業務ではないが、比較的に数字だけで良いのはこの辺かな。あとは俺から文字はおいおい覚えていくって口添えして、かな。ちなみに君、家もお金も無いでしょ、2つとも住み込み可のとこだから」
家問題、忘れてた〜、ありがとうネムツパさん!優秀な方なんだな〜。
んー、孤児院の先生の仕事は魅力的だが、多分1日よくて1時間くらいの話じゃない?そう考えたら貴族の家の方が良さそうな気がする。子供相手にして全体的に目を配りつつ日常生活の仕事…いや、大変そう。メイドなら大人相手だし専門職の人がいるだろうから雑用メインだろうし、初めから文字読めないって言ってくれるなら貴族の家の方が良さそう。
「じゃあ、アンバー家の方で」
「ん、オッケー。質問ある?」
「経理担当がいるってことは結構なお金持ちの家なんですか?あとはメイド業務ってのは家の掃除とか炊事ってことですか?」
「アンバー家は国の内外問わず貿易してる家なんだよね、だから商会じゃなくても資産の移動が多いんだと思う。炊事はコックがいるし、メイド業務は主人の身の回りの世話がメインじゃないかな、洗濯とかはあるかもね」
ほー、結構大きい家なんだな、主人の身の回りの世話、秘書みたいな感じなのかな?お茶入れたり?まてよ、主人の、身の、世話?
「あの、主人の世話って、あの、夜の世話とかもですか?」
「あ、そういうの好きなら言っとくよ?」
「いえいえいえ!全く!滅相もございません!」
首と手をこれでもかと振って拒絶。ふふっと笑いが起きた。
「無理矢理そういう事をする輩も中にはいるって聞くけど、そうそういないんじゃないかな。相手が嫌がってたらしないよ、神様が見てるだろ?」
神様が見てる。
そうか、この世界では神様がいるのが普通の価値観なんだ。なんだかんだ言ってケミもハイロも私の意見を尊重はしていた、スマホを無理矢理取らなかったり。
なるほど、自分の意見をしっかり持っていたらそれが尊重される世界なのか。
神様、私、元の世界に帰りたい。時空のおじさんって神様なのかな?
それから、アンバー家に連絡して明日行くことになった。なので今日は少し遅い昼ごはんを食べて、午後はゆっくり過ごさせてもらった。なんと簡易な宿泊施設が併設されており家がなく仕事が決まらない人は最長1ヶ月無料で寝泊まり出来るらしい。それくらい仕事をしない事は罪とされている。
シャワーを浴び、入院着のような服を借りた。質素な夕食を食べ、少し早いがベッドに潜り込みスマホをいじる。ここだけ日本みたいだ。
スマホの充電はやっぱり86%から減らない。動画見放題じゃん!と思ったら全然繋がらなかった。ツイッターやインスタもエラーが出る。しょうがないのでカクヨムで小説読んで寝ようっと。
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