第9話
頭が割れるように痛い、周りがうるさい、ここは薄暗くて寒いな。あの2人にとって、この世界にとって、私って価値がなかったんだ。
戻りたい、早く、元の世界に。…寝て起きたら会社のデスクに戻ってないかな、コーヒーサーバーがあって飲みながら仕事できるし、部署の中で1番若かったから誰も困ってないかもしれないけど、誰かが出張行ったらお土産買ってきてくれてみんなで食べたり、給湯室のペーパータオル私がやらないと誰も補充しないし、先輩が組んだマクロ便利だけどちょっと重いんだよな数式重ねすぎなんですよ、30分区切りで残業が付くから25分過ぎたあたりで課長が帰れ帰れってうるさくてもう少し早めに言ってくださいよ、あなたがまず帰るべきでしょう、あ、先週の出張の交通費精算してない、今週中には出さないといけないのに…
戻ったらお母さんとお父さんと一緒に温泉旅行いきたい、ゆっくり温泉入って、美味しいご飯食べて、あったかい布団で寝るんだ、ウォーターベットじゃないやつ!!!
ぐるぐると頭の中で考え事をしていたら怒りに到達した。勢いのままにばっと顔を上げると、1人の男の人と目が合った。
「うおっ びびったあ」
「うわっ 誰!」
メガネをかけた白衣の胡散臭いおっさんが目の前にいた。
「えー、こんにちは。僕はここでステータスの数値化と聞き取りしてよりよい職につけるようにお手伝いしてるネムツパです、よろしくー。じゃあまず、はい、この水晶玉に手を乗せて」
檻の外から拘束されている両腕を取られ手のひらサイズの水晶玉に手のひらを乗せられる。途端に水晶玉が黄色く弱弱しく光った。
「はーい、人族、魔素は…めっっっっちゃ微弱、これはもう無しでいいか、あとは、」こちら側からは見えないが、水晶玉が乗ってる台にスイッチがついているらしくカチッと音がした。
次は青緑の光が先程より強く、部屋を明るくするくらいに光った。
「お、やっぱ人族は地頭が良いなー、計算と家事はそれなりに得意そうやな。」
ネムツパさんはたくさん持ってきている紙の一番上に何やら書き込んでいく。
「はーい、じゃああとはどんな職に就きたいか聞き取りしまーす、希望職ある?」
「あ、希望とか聞いてくれるんですね…」
「まあ一応ね。時期によっちゃ募集してない職種もあるけど、その時も希望職種に近しい職に就いてもらったりね。…異世界から来たって聞いたけど、もしかして説明聞いてない?」
「あ、はい、全然知らないです」
まじかー、と天を仰がれてしまった。ごめんね異世界人で。
「じゃあ一応説明するけど、ここは職業斡旋所。ここでは働いてないことが重罪だから。なので、基本的には長いスパンで働けるところを斡旋するの。才能があるとか興味があるとか調べて仕事をしないことがないようにするの。」
「じゃあ、この檻はどうして?」
「たまに仕事が嫌になって逃げるやつとか暴れるやつとかいる、そういう時は檻に入れるよ。知能が低くて危ない種族もたまに居るからそういう奴は基本強制労働に回されるから。逃げない、暴れないんだったら出せるけど」
「逃げないし暴れないです!」
「じゃあ鍵持ってくるからちょっとまってて。一応言っとくけど職員は体術、魔術が得意な奴しかいないから逃げようとしてもすぐ捕まるからね」
そう言うとネムツパさんはふらりと部屋を出ていきすぐに鍵を持って戻ってきた。
ガチャンと重めな音がして檻が開けられた。
外に出ようとしたが土魔法で手と足が拘束されているので芋虫のように少しずつしか出られない。
「あーあー、ちょっとストップストップ」
そういうとネムツパさんは私の手と足を拘束していた石をトントンと指先で叩く。すると石は粉々になり跡形もなく消失した。手と足がいきなり自由になったのでバランスが悪くなり檻から転げ落ちてしまった。
「いったー!出れたー!ありがとうございます!」
手のひらをグーパーし足踏みをして体が自由になったことを喜んだ。
「さて、じゃあ仕事の説明をするよ。あなたは人族の女で魔素はなし、得意なことは計算と家事と出てるけど相違ない?」
「はい、多分…」
一人暮らしをしているので家事もそれなりに出来る方だと思う。
「じゃあ、就きたい仕事や興味がある仕事はある?」
「特にはないです。前職が計算する仕事だったので同じような仕事に就ければいいかなとは思います。家事は一通りできると思いますが仕事となると少し自信がないです」
「なるほど、じゃあ今ある求人の中では、これかな」
持っている紙の束の中から数枚取り出すと私に渡してくれた。
「ロンド家の執事の補佐、これは執事って言ってもメイドじゃなくて、ロンド家の出納帳の記録、管理がメインだね。仕事がなくなった場合は他のことを従事することもありますってあるけど、多分こっちがメイドの仕事じゃないかな。あとはこっちのサロマ商会の記録係、これは経理担当者の募集だね。あとはー、」
「あの、すみません、私文字が読めなくて…」
まじかー、とまた天を仰がせてしまった…。
ごめんね異世界人で。
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