第8話
え、は?
ドーナツ?
私を?
売って?
「なんですか、これ!売るって私を?!」
「他に何を売るんだよ〜、ちょっと暴れないで」
いや渾身の力を持ってして暴れるわ!自分を売られるってーのに!はっ!
「ケミさん、ケミさんは?!」
「ケミはあっちで手続きしてる」
ハイロが体を向けた方向にケミさんが居た。
「人族、女、魔法特性はなし、と。あ、お前何歳?」
「だっ騙したな!」
「ちょっと落ち着けって。お淑やかな方が高く売れるから」
「ふざっけんな、悪態の限りを尽くしてやるわ!」
「幼いよな、15歳くらいっと」
「バカか!成人してるわ!」
「20歳以上っと」
「ちきしょーーー!」
なんで、いつから、とりあえず離せ、とどうにか逃げられないかと身を捻る。しかし土魔法の手錠と足枷は全くとれないし、肩から降りられる感じも全くない。
そうこうしているうちに、色黒の小さい男が1.5㎥ほどの檻を台車に乗せてやってきた。
「こちらが異世界から来た奴隷ですね、この檻にいれてださい」
奴隷?!今奴隷って言った?!
「ちょっと!奴隷って何?!」
「いやだって身分欲しいんでしょ」
「奴隷の身分なら要らなかったわ!」
檻の中に入れられまいと抵抗はしてみるが手と足の拘束、更に大男の力とで檻の中に入れられてしまった。
「ハイロ、終わったよ、思ってたより高かったから買い物して帰ろう、新しい靴欲しがってたろ」
「ちょっと待ってケミさん!!!」
書類を書き終え換金が終わったのかケミさんの声も聞こえた。檻の上の部分は板になっているので足の部分しか見えないけど!
ケミさんが覗き込むように顔を見せた。
「なんで?なんで売ったの?昨日も今日も優しくしてくれたのに!」
「なぜ…って、魔素も流れてない、巫女の神託もない、異世界から来たって事は神から見放された存在で我々の世界では異質のものだろう、神が私のところに遣わせてくれたから有り難く日々の糧にさせてもらった。優しく…とはちょっと違うが、意思のある動物は個人の意思が尊重されるべきだろう?」
なに、を、いっているの?
「君の持ち物は取ったりしていないからそれは自分のために使うといい。身分は今は奴隷だが、位の高い者に買われればそれなりの身分になれるさ。冬の支度がまだだったんだ、今年の冬は暖かく過ごせるよ、君のおかげだありがとう」
何、何何何何何何、何で私は今お礼を言われたの、さっきまでと同じ顔で何を言ってるの、意思のある動物?動物って私?え、そんな、本気で言ってるの?私のことを、動物だって?あんな、優しい顔して?
「ケミ、早くドーナツ買いに行こうぜ!靴もそうだけどお前の毛布もボロかったじゃん」
「じゃあ金が余ったらそれも見よう」
2人が仲良く出ていく、扉が閉まり辺りが薄暗く感じた。
檻を持ってきた色黒の小さな男は台車ごと私を奥の部屋へ運んだ。
「お嬢ちゃん、異世界から来たんだって?珍しいけどここじゃたまに聞くんだよ。あとエルフのとこに行ったのも良くなかったな、あいつら神様第一主義者が多いから神様にとって要るか要らないかが重要だから。まあお嬢ちゃん見た目は悪くないし、着てるものも綺麗だからそんな悪いところには行かねえよ。他に何か聞きたいことあるか?」
「……私は、また売られるの?」
「売られるって、言葉が悪いよな。仕事を頼みたい奴がここに来てここから選んで連れて行くのさ、その時に金を支払わなきゃいけないからそう言う奴もいるけど、そんな心配しなくても悪いことにはならねえよ」
じゃあまた違うやつが仕事適性の聞き取りに来るから、というとおじさんはどこかに行ってしまった。
さっき、2人が出て行ってからずっと、耳が痛いくらいに音の圧がある。大きい咆哮なような、頭が直に殴られてるような、静かなのにその静かさが痛かった。
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