第7話

朝ごはんを食べ終え、今待ってるものを机の上に並べていく。


ボールペン、のど飴、ハンカチ、社員証、ICカード、リップ、腕時計、それとやっと返してもらったスマホ。

あとは今身につけているスーツ一式とパンプス。


「時計!時計かっこいいな!しかもこんなに小さい!」

「この、ICカード?というのはどう使うんだ?」

一通りアイテムの説明をした。最後までハイロさんはスマホを狙ってたけどお断りをした。充電が切れないし、昭和あたりで科学が止まってるなら検索し放題の携帯ってめちゃくちゃ使えるのでは?使いようによっては自分の店が持てたりするのでは?それにお互い言葉はわかるけど文字はわからない。こちらの文字はなんとなくギリシャ文字に似ているが読めるはずもなく、試しに日本語を見せてももちろん読めないし見た事もないらしい。


「よし、じゃあ行こうか。」

放牧している牛やヤギの他に、馬が2頭いた。手綱が付いているだけの馬に2人ともヒラリと乗る。ケミさんが手招きしてくれてはいるけど、馬に直接…?鞍とかないの?


足のかけ方もわからないので立ち止まっていると、後ろからハイロさんに抱っこされそのまま馬に乗った。

「ハイロ、お前馬の扱い雑だからダメだ、傷がついたらどうする」

「大丈夫だって、抱えてるから多少の枝があっても、なー?あ、傷がつくかもしれないから腕時計は外した方がいいかも」

何だこの状況、もしやモテ期が来てる…?!

…なんてな。多分これ子供扱いされてるな。


乗り換えるのも面倒なので、ハイロさんと馬に乗り街へ向かった。腕時計を外してジャケットのポケットにしまった。馬に乗るのは初めてで、意外と目線が高くなるのが怖くもあった。馬の掛ける音や風の音でうまく会話は出来なかったが得難い経験をしたと思う。山の中の道を行き小さな集落を通って、馬に乗って30分くらい経ったろうか、お尻が痛くなってきたときようやく城が見えた。

マルド地区という日本でいうと都道府県になるのかな?その地区を治めている人が住んでいるのが城らしく、基本的にはその周りに住宅があるらしい。

ケミさんとハイロさんはマルド地区の住人であるが、職業が畜産なので城下町ではなく少し離れた山で2人で住んでいるとの事だった。近くには街まで来る時に通ったパル村があり、他に畜産や羊を使った製糸業、林業の方が住んでいる集落がある。

もっと遠くには採石場なんかもあるらしい。ちなみに、今は森を抜けてきたが、魔物の類はいなく野生の動物がいるだけだそうだ。話を聞いていると日本で見るより大きそうだが。


城下町の入り口に馬を繋いでおける馬専用宿舎があり、そこに馬を預ける。城下町の中では馬に乗れないそうだ。

「ドーナツ楽しみー!ケミ早く行こうぜ!」

「ドーナツは後!とりあえず、身分証明書がないから、あーー、職業斡旋所、に行って登録しないとな」

こっち、と手招きされて城下町に入る。

特に大きな門などもなく徐々に家や店が大きくなっていき賑わいを見せる。

すごい、中世のヨーロッパみたいな街並み、2人の容姿が気にならないくらいの美形揃い、髪の毛が金や銀、赤、緑、たまに黒、カラフル〜〜!2人のように背が大きい人もいれば、猫耳がついてる男の子、小さい髭の立派なおじさん、もしかしてドワーフ?犬の尻尾が付いてる女の子、獣人ってやつかな?すごいすごい!本当に異世界だ!


周りをキョロキョロと見ながらも歩いていたのだが、ハイロさんに手を掴まれ一緒に歩かれる。ちょっと興奮してずいぶん離れていたようだ。

「もう少しだから、ほら」

指を刺された方を見ると、立派な閂と大きな鉄の扉の石造りの建物が目に入った。

2人には悪いが、文字通り風通しが良いツリーハウスから見たらこんな強固で立派な建物、やっぱり街の方は泥棒とかいるのかな…と見ていると。


「はい、気をつけー」

いきなりの号令にびっくりしつつ、足を揃え体の横に手をつける。

「ちょっと手ぇ貸して」

ハイロさんに両手を掴まれる。

「んで、こう手首同士付けてー」

見よう見まねでハイロさんと同じ動作をする。あらかじめ腕時計はポケットに入れてあるので、両手首から肘の内側を付ける。

「ほいー」

手首をちょんちょんと指でつつかれる。すると昨日見た土魔法で手首から肘まで石で覆われてしまった。


え、なにこれ。


次に足首を指でつつかれる。

足首が石で覆われる。


ひょいと抱え上げられる。

「ん、じゃあ売ってドーナツ食おうぜ!」



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