第6話

朝である。


頭を撫でられるような感覚がしてゆっくりと意識が覚醒してくる。まさかケミさんあんなビジュアルでそんなサービスしてくれるのか、ここは天国か?

目を開けると大きめのオウムが私の顔を覗き込んでいた。

「おおっ、オウム?」

頭や鼻に嘴を擦り付けられる。こいつか。ときめきを返せ。


「オハヨウオハヨウ ホウボクニイッテクル イエノナカデマッテテ」


いきなりオウムが喋ってびっくりしたが、オウムだしな、知能も3歳くらいはあるんだっけ?つついたりしないし、2人のペットだろうか。躾がされてて頭が良い。


昨日のベットで使った油紙とシーツをたたみ、服を着替える。

顔を洗って歯も磨きたいけど、どうやって水を出すのかわからない…昨日の感じだと普段はケミさんが水魔法で水を出してるっぽいんだよな、多分ハイロさんも水を出すくらいならできるっぽい。なので、水道なんてものはここにはなく、キッチンや洗面台もただ水を貯める桶と排水のための筒があるだけなのだ。

魔法の適性がないと不便な世界なんだなあ。


「ミコノシンタクハナシ ミコノシンタクハナシ」

毛繕いをしていたオウムがプギュルプギュル言い出したと思ったら、「巫女の神託は無し」?

もしかしてこのオウムは伝書鳩なんだろうか。神殿に確認した方がいいとケミさんが言っていたが確認してくれてたの?優しい、と同時にどうしよう、神託もないのだったら本当に何しにこの世界に来たのかがわからない。神様の気まぐれ?黒づくめのおじさんに会えば元に戻れる?こんな知り合いもいない世界に1人で放り込まれてこれからどうしよう。運良く優しい人には巡り会えたけど魔法も使えない、ろくな持ち物はない、平凡に生きてきて特に何のスキルもない、こんなんでこの世界で生きていけるの?

昨日はなかった不安が一気に押し寄せてきた。涙が溢れて落ちていく。


「だから今日街に行くんだろー?俺も行く、久しぶりに油で揚げたドーナツ食べたい、ケミが作ると焼きドーナツになっちゃうじゃん」

「しょうがないだろ、油なんてそんなにあるわけじゃないし熱すぎて苦手なんだよ」


こっちがシリアスしてると思いきや何て平和な会話なんだ…


「おかえりなさい…」

涙を袖で拭きながら出迎えた。

「え、どうした?お腹すいた?」

「ヨーキーにつつかれたか?」

いや、もっと重要な事があるでしょ、こちとら異世界に飛ばされたんやで…そんでこのオウムはヨーキーって名前なのね…

「いや、大丈夫です…、ちょっと不安になっただけなんで…」

「すぐ朝ごはん作るからな」


そういうとケミさんはキッチンに、ハイロさんは私のウォーターベットに座ると腕にヨーキーを止まらせた。

「ヨーキーからなんか聞いた?」

「あー、、、巫女の神託は無しって、、」

「一応な、神殿に聞いてみたんだよ、昨日の夜のうちにヨーキー戻ってきてさ、まあそういうこった。」

「私いよいよ何者なんですかね…」

「まあ、、普通の人族の女だよな…」

「しかも魔法の適性はなし、と」

自分で言ってて悲しくなってきた。せめて魔法が使えれば良かったのに。じわあ、とまた涙が出そうになる。


「そんな悲観する事もないだろ、人族女でしかも魔法使えないってなると仕事は困らないし」

大きいお皿に朝ごはんを用意してくれたケミさんが後ろに立っていた。

「魔法が使えるってことは裏切られたら寝首をかかれるって事だからな、お偉いさんは魔法使えない奴を自分の近くに置くのは多いよ」

なるほど、そんな需要が。

「それに人族は力はないけど頭がいいのが多いしな」

頭は飛び抜けて良いわけではないが、経理の仕事をしていたので数字には強い自信がある。こちらでは使えないけど電卓検定もそろばん検定も持ってるし、そういう仕事に就けたらいいな…!

ケミさんの言葉にちょっと希望が見えてきた。

「ほら、冷めちまうから食べよう。街に行く前に今ある持ち物も全部見せてくれると嬉しい。」

昨日と色が違う薄いピンクのハーブティー、やっぱりドイツ系のパンに、レタスみたいな葉っぱと色が反転してる目玉焼き、そしてホカホカと湯気をたてるボイルしたソーセージ!そうか、巫女じゃないからお肉解禁だ!

漫画のようにお腹がグーとなってしまい、恥ずかしい。日本じゃ見ない太いソーセージにテンションがあがってしまった。


気を取り直して朝ごはんを食べた。

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