第4話 笑顔が一番

 子どもが産まれた。

 可愛い男の子だ。口元は妻に、目元は俺に似ている気がする。

 どうなることかと思っていたが、産まれて来てみれば、あっという間に親バカになっていた。

 子どもに対する事なら、何であっても苦にならない。むしろ、手がかかればかかるほど愛しく感じてしまう。

 子育ては大変だと周りの人は言うけれど、以外と俺の子どもは大人しくて助かっている。

 お腹が空いたり、おむつを替えたり以外ではほとんど泣くことがない。

 ベビーベッドの中で寝ているか、笑っている場合がほとんどだ。

 というか、妙に笑っていることが多い。

 そばに誰もいないし、何も見せていないのに何故だろう。

 変な物でも見えているのだろうか。

 えぇ。いやまさか。

 ちょっと怖くなったので、ベビーベッドの横に立って赤ちゃん目線で見上げてみる。

 う〜ん。

 これといって何もないような、と思ったら、天井に人の顔のようなシミがあった。

 三つの黒い点が、それぞれ両目と口に見える。

 こういうのって確か名前があったような……。

 シミがクラフトとか、あれ、違ったか?

 いや、今はそんなことはどうでもいい。

 子どもはこのシミを見て笑っているのだろうか。

 俺からすると特に面白いとは思えないが、赤ちゃんの目で見ると違うのだろうか。

 わからないが、我が子が笑っているのなら問題ないか。



 数日後、赤ちゃんが急に笑い出したので、例のシミを思い出した俺が天井を見ると、相変わらず何処が面白いのかわからない顔らしきものがあった。

 やはり謎だ。

 ん?

 よくよくシミを見ていると、気のせいか形が以前と違っているように見えた。

 俺から見て右目にあたる部分が、前はもっと丸に近かったと思うのだが、今は半円っぽくなっているような。

 いやいや、まさか。

 見間違いだろう、きっと。




 さらに数日後、なんとなく気になってまた見上げてみると、シミがまた変わっていた。

 口にあたる部分が、まるで笑っているかのように歪んでいたのだ。

 ここまでハッキリと違いがわかってしまうと、認めざるをえないだろう。

 俺の見間違いではなく、本当にシミが動いているのだ。

 まさか、自分が怪奇現象の当事者になるとは。

 さて、どうしよう。

 天井に板なり壁紙なりを張り付けて見えなくするべきか、それとも削ってシミを無くした方が良いのか。

 うーん、困った困った。こま……。

 ん?

 あれ、よくよく考えてみれば悩む必要があるのか、これ?

 今のところなんの問題もないし。

 赤ちゃんはいつも笑顔だし、俺たちはあやす手間が省けてその分他の事に時間を使えるし。

 むしろ無くした方が問題なんじゃ。




 数年後。

 子どもが増えた。

 しかも双子だ、ダブルで倍で可愛い。

 ベビーベッドに並んでいる双子は嬉しそうに笑っている。

 目線の先を追ってみれば、そこには例のシミがあった。

 相変わらず子どもをあやしてくれている。

 双子が産まれてこの部屋に来てから数日後には増えていたから驚きだ。

 しかも、二つになったことでそれぞれが双子をバラバラに相手してくれているらしく、子どもが不機嫌にならずにすんでいるのはありがたい話だ。

 ああ、今日もうちの子の笑顔は素晴らしい。

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