第3話 名探偵(元)への取材

 あ。どうも、こんにちは。凸凹出版のサトウと言います。今日はよろしくお願いします。

 いや〜、まさか本当に取材を受けてくれるなんて思いもしませんでしたよ。

 なんせ、数々の難事件を解決した高校生名探偵として、雑誌やテレビ、ネットで有名だったじゃないですか。

 それが、卒業したらいつの間にか姿を見せなくなって、世間の話題に出ることもなくなって。

 すわ、事件に巻き込まれて死んでしまったのか。それとも海外にでも移住したのか。

 なんて裏でいろいろと言われてましたが、まさかこのような一軒家にずっと引きこもっているだなんて、誰も想像しなかったんじゃないですかね?

 あ、すみません。引きこもりは失言でした。

 え、大丈夫? ありがとうございます。

 では、取材の仕方としては、レコーダーをまわしながら、いくつか質問をさせていただきます。

 もちろん答えられない時はNGを出してもらって構いませんので。

 写真? そうですね、出来れば全身を捉えた物を撮らせていただきたいとは思っているんですが……ダメ?

 ふむ、それじゃあ首から下だけで顔は写さないようにすれば……良かった、助かります。

 では、始めさせていただきますね。

 最初の質問ですが、何故名探偵を辞められたのか、ですね。

 ほうほう、事件に遭遇するのに耐えられなくなった、と。

 確か、ネットか何かで、外に出ると三回に一回は事件が起きるとか言われてましたよね。

 そうでした。事件を起こすのは犯人なのに、まるだあなたが原因で犯罪が発生しているような雰囲気になってしまって……。

 それで、出掛けるたびに事件や事故が起きるから、友人とも疎遠になってしまった、と。

 あれ、でも確かあなた恋人がいませんでしたか? よく隣に同級生でしたっけか、女性の方がいたと思うんですが。

 ただの幼馴染、と。そうは見えなかったんですけどねぇ。

 え? 告白したら振られた? 命がいくつあっても足りない、私は巻き添えを食いたくない、ですか。

 けっこう言いますね、幼馴染さん。

 はあ、平穏が一番。確かにそうかもしれませんが。

 それでは次の質問ですね。探偵として世に出なくなり、高校を卒業してからこれまでどうしていたか、教えてください。

 大学は? 行ってないんですか。

 オープンキャンパスに行ったら、行きたかった学部の教授が捕まってしまった、と。

 別の大学の試験を受けに行ったら、大学全体に絡んだカンニング事件が起きてしまって、受験どころじゃなくなったんですか。うわぁ。

 それじゃあ就職はどうです? あなたなら、高卒でもけっこう良い所に就けるのでは?

 え? 電車に乗ったら痴漢事件に遭って、犯人が面接予定の会社の役員だったから採用どころじゃなくなった。

 別の会社は、初出勤の日に屋上からの転落事件が起きてしまい、犯人も被害者も会社の重役で、会社自体が回らなくなってしまった、と。

 最終的に就職を諦めた理由が、あなたを採用すると、社内で事件が起きるので無理です、と泣きながら辞退を懇願されたって、えぇ……。

 あ、今はネットで出来る仕事で稼げているんですね、良かったです。

 そう言えば、この家って何だか何処かで見た気がするんですけど?

 事故物件? ああ、殺人事件があった所ですよね!

 でもどうしてそんな所に住んでるんですか。

 以前住んでた所を追い出された? どうして。

 あなたがいると、住人が死ぬか出て行くかでいなくなるから勘弁してくれ、と。

 まあオーナーに言われたら仕方ないですよね。

 新しい物件探しも、いつ事故物件にさせられるかわかったもんじゃないから断られたんですか。

 この家はもともと事故物件で、今さらだったから購入出来た、と。

 それにしても、何処にも出掛けずに仕事も家だと、買い物くらいしか出歩かないんじゃないですか?

 買い物も行かない? ネットでまとめ買いですか。

 以前に宅配で来てもらったら、配達員が事件に遭ったから、出来るだけ回数を減らすために日持ちのする保存食をまとめ買いするようにしてるって、そこまでする必要があるんですね。

 おっと、そろそろ時間です。

 いや〜今日はありがとうございました。

 おかげさまで、良い記事が書けそうですよ。

 それにしても、本当どうして取材を受けてくれたんですか?

 ああ、確かに今の状況だとネットを介してのやり取りしか出来ませんものね。直接人と話すのは……年単位でないんですか。それはキツかったでしょう。

 いえいえ、こちらこそ助かりましたし。

 雑誌が出来たらお贈りします。それとも直接こちらに持って行った方が良いですかね。

 はい。はい。わかりました。

 え、この後ですか? 会社に戻りますけど。

 嘘? 急に何を言い出すんですか。

 だから、僕の名前はサトウですよ。最初に言ったじゃないですか、凸凹出版のサトウだって。

 違う、最初からわかってた? そんなバカな。嘘だって言うなら証明してみせてください!

 ぐ……。そう、ですね。否定できません。ええ、あなたの言う通りです。アリバイ作りに利用させてもらいました。本物のサトウさんはもう……。

 はあ、なんでバレちゃうかな。せっかく上手い事いったと思ったのに。

 いやいや、何であなたが泣きそうな顔してるんですか。

 泣きたいのは私ですよ。

 だって、私は犯人で、あなたは事件を解決した名探偵なんですから。

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