7話 入学式
三人が足を進める先。
シェリルが昨日訪れた修練場とは逆方向に直進していくと見えるのが、入学式の会場である集会場だ。
入学式以外にも、生徒たちが集まる行事の際にはこの場所が利用されるのだとか。
各学年で一六〇人、それぞれ一クラス三二人ずつ。つまり五〇〇人近い生徒が一箇所に集まるのだ。
教師も含めれば、さらに人数は増える。
集会場は広大で、学生寮からでも問題なく確認することができた。
そしてこの入学式には、新入生と教師だけではなく、上級生も参加する。
その証拠に、シェリルたち新入生の巻いた青いものとは違う色のネクタイを着用した生徒たちを道中で見かけた。
ちなみに二年生は緑の、三年生は赤のネクタイとなっている。
「あれ、そういえば昨日探検したときは見かけなかったよね?」
アリサが上級生の存在に気がつき、首を傾げる。
昨日、三人と同じ考えのもと学園内を探検している新入生たちの姿はちらほらと見かけたものの、上級生たちの姿を見ることはなかった。
「地図に書いてたんだけど、先輩たちは昨日まで長期休暇で、実家に帰ってる人が大半だったみてえだな。だから、昨日は俺らと会わなかったんだと思うぜ 」
「そういえば、そんなことも書いてたっけ」
クレインの言葉にアリサがなるほど、と思い出したように頷く。
先輩、という言葉を聞いてシェリルは昨日の出来事を思い出す。
目を奪われてしまうほど整った容姿に、所作。それに落ち着いた態度に淡々とした口調。
その全てが大人っぽくて、年齢が上だと勝手に判断してしまった銀髪の少年。
シェリルは部屋を出発する前にも、また少年のことを考えていた。
だが、少年とはなんとなく会うような予感がしていたのもまた事実だった。
修練場でまた会えるかもしれない。
クラスが同じかもしれない。
あらゆる可能性が考えられるが、そのどれにも当てはまらない、もっと漠然としたものだった。
本当に、なんとなく。
根拠などない、いわゆる直感というやつだ。
(って、私、昨日からずっとあの人のこと考えてる……)
意識すればするほど恥ずかしい。
朱に染まる顔をふたりに見られまいと歩くうちに、集会場へと辿りついた。
全校生徒が入るとはいえ、シェリルが昨日訪れた修練場を丸ごと複数個入れたとしても、問題なく収まるであろう大きさを誇っていた。
なかへ入ると、既に相当な人数が集まっており、集会場の中はガヤガヤと話し声が聞こえる。
スペースはじゅうぶん過ぎるほどに空いているため、この集会場の広さをものがたっていた。
「よっ。お前ら、遅れずによく来たな」
その規模にシェリルたちが驚いていると、気の抜けた声が聞こえてくる。
「あ、おはようございます!」
シェリルがぺこりと頭を下げる先には、昨日挨拶をした担任教師のレイフがいた。
起きてすぐなのか欠伸を噛み殺して眠そうにしていたが、アリサとクレインが続けて頭を下げる姿を見て、レイフは教師らしくうんうんと頷いている。
「よし、席まで案内すっからついてきてくれ」
レイフに続いて、三人は足を進めた。
三人のクラスは一年A組ということで、一番前の席だった。
そこには既に人数分の椅子が用意されており、特に席順は決まっているというわけではなかった。着いた者から、順に席を詰めて座っていくようだ。
三人を案内し終えると、レイフはのんびりと入口へと戻ってゆく。
三人が談笑し始めて間もなく入学式が開始された。
まずは学園長の挨拶から始まる。
「──新入生のみんな、入学おめでとう。俺はサリーレ魔法学園、学園長のレナート=ミュラーだ」
壇上へ風とともに現れたのは、非常に若い男性だった。
外見だけならば、レイフと大差なさそうだ。
細身で身長も高く、スタイルの良さが窺え、かっちりと着込んだスーツがよく映える。
長めに伸ばされた金髪は、額が見えるよう中央でわけられていたため、すっきりとした印象を与える。
茶色の瞳が輝く切れ長の目には銀縁の眼鏡がかけられており、知性も感じられた。
上に立つ者特有の雰囲気があるが威圧的というわけではなく、親しみやすさも併せ持っていた。
この入学式は上級生も全員参加しているため、新入生以外の始業式も同時に行なわれることとなった。
新入生への挨拶の後、上級生への言葉が述べられた。話は簡潔に纏められていたため、そこまで時間はかからずに終了した。
その後は生徒会長たちによる、固い挨拶が始まる。
そろそろアリサが飽きてきたため欠伸を連発しだしたところで、最後の締めくくりである新入生代表挨拶の順番が回ってきた。
その代表生徒に覚えがなかったシェリルはキョロキョロと見渡していると、すぐ近くの生徒が立ち上がる気配を感じた。
自分のふたつ隣、クレイン=カイザーが壇上へと向かっていったのだ。
(クレインって本当に何者なの!?)
シェリルは、なるべく表情に出さないよう努めた。
彼女がひとり慌てている間に新入生代表挨拶は終了し、それと同時に入学式は締めくくられることとなった。
◇ ◇ ◇
「クレイン、挨拶するなんて言ってたっけ?」
「そういや言ってなかったっけか。実はな、結構前から依頼が来てたんだよ」
クレインの言葉になるほど、と頷くアリサ。
しかしシェリルの中では疑問が残っており、それをぶつけてみることにした。
「もしかして、クレインってどこかいいところの生まれなの?」
その言葉は予想外だったようで今度は目を丸くする。
「あれ。もう気づいてるもんだと思ってたわ。俺は──」
言いかけたところで、クレインは言葉を止めてしまう。
しかしもう三人は話をしているうちに、昨日探検で訪れていた一年A組の扉の前まで辿り着いていた。
そしてクレインは、まるでアリサのように悪戯っぽく笑う。
「悪い。教室着いちまったから、またあとでな」
「ええ!?」
話の途中。しかも、肝心な部分を抜かす形で終わってしまった。
当然と言えば当然だが、シェリルは思わず声をあげてしまう。
クレインは既に扉に手をかけており、あくまでもこの話を中断する気満々のようだった。
不満そうにクレインの背中を見つめるシェリルの肩をアリサがぽんぽんと叩く。
「あとでって言ってるんだし、今は行くしかないって。ほらほら」
すっかり機嫌を損ねてしまったシェリルを宥めつつ扉へと誘い、三人は無事に教室へと足を踏み入れる。
教室にはまだ担任教師であるレイフの姿はまだなかった。
とはいえ、生徒が何人か到着しておりそれぞれいくつかのグループに分かれて談笑をしていた。
どうやら、この教室でも席順には特に決まりがないようでどこに座っても問題はないらしい。
それにならって、三人も空いている席に左からクレイン、アリサ、シェリルの順で座ることにした。
席についてすぐ、シェリル本人にも自覚もないままに視線を右に向ける。
そこには、少し距離を置いた席にあの銀髪の少年がいた。
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