第3話
役所は混んでいた。入ってすぐ、案内所の横に、大きな広間が存在し、そこには沢山の椅子が並べられている。椅子にはもちろん人が沢山座っていて、満席状況である。その傍には大きなモニターがあって、そこに呼び出し番号が軽快な音楽と共に表示されるのが見えた。
少年が、繋いだ手に少しだけ力を込めてくる。フードをかぶったまま、ちら、と不安げに見上げてくる瞳と目があった。
「大丈夫だよ」
声をかけて、そのまま繋がった手に力を込める。少年はみゃう、と小さく鳴いてからこくりと頷いた。
――本来なら、紙のチケットを発券し、呼ばれるまで待つ必要があるのだが。
私はこそこそ案内所の方へ足を滑らせる。入り口に存在するのは戸籍課だったり、福祉課だったりするような、人の生活に根ざした課が多い。ここで順番待ちの紙を発券したとして、ドラゴンのことについて聞きに来たのだから他部署へ行ってください、と言われて終わるだろう。
異世界生物課は、確か、役所の三階に存在するはずである。まずは、そこまで向かう必要があるだろう。
「人多いねえ」
「えと……、うん。ひと、おおい。いっぱい……」
階段を探しながら、私は少年に声をかける。少年はぱちくりと瞬いた後、小さく笑った。はにかむような、そんな笑い方だ。そうして、通路を歩む人々を楽しげに見つめる。柔らかな感情がその瞳に滲むのが見えた。
「三階まで頑張って階段で行こうか」
「うん。がんばる。かんぺき」
少年がむん、と拳を突き出してくる。それに笑いながら、私たちは階段を上がって、三階の異世界生物課まで向かった。
一階、二階の混雑ぶりとは正反対に、三階はあまり人の姿が無かった。待合室はあるが、ちらほらと人が座っているくらいで、がらんとしている。チケットを発券しようと発券機に近づいた瞬間、「そこの人間」と高らかな声が耳朶を打った。
そこの人間、だなんて大層な呼び方である。凄いなあ、なんて思いながらチケットを発券した、瞬間、軽快な音楽と共に発券したばかりの番号が呼び出される。
慌てて窓口へ向かうと、そこには男性が立っていた。金色の髪、柔らかな新芽のような緑色の瞳に、すらりとした輪郭。おおよそ人間ばなれした、美しい面持ちの人だった。後ろへなでつけられた髪は整っており、着用したスーツは清潔感に溢れている。なんだか西洋に描かれる天使が、そのまま成長したような、本当にこの世に存在しているのかと問いかけたくなるくらい、綺麗な人だった。思わず息がつまる。
男性は私と視線を合わせると、そっと唇の端を綻ばせて見せた。囁くように、「さきほど呼んだのが聞こえなかったのでしょうか?」と静かに言葉を続けた。
「え――」
「そこの人間、と。チケットを発券するまでもなく、がらがらなのは見て分かったでしょう、この愚昧が」
爽やかで、甘さの滲む声が、吐き出した言葉を理解するのに時間がかかった。
え。ぐまい? 愚昧って言ったよね、今。
「ぐ、ぐま……」
「人間にとっては一枚の紙かもしれませんが、チケットを発券するのには経費というものが私どもにかかってくるのです。そこを理解して今後はそのまま窓口に来ていただけますと幸いです。もちろん混雑しているときは別ですが、混雑しているときなんてこの部署にはありませんので」
思わず呆けてしまう。
えっ。何? な、何? あまりにも傲岸不遜な態度に、思わず呆けてしまう。私と同じように、少年がぱちくりと瞬いていた。男性が紡いだ言葉を「けいひ……、ぶしょ……」と口の中で転がすように繰り返している。青色の虹彩が微かに薄くなって、虹彩がきゅうっと鋭くなるのが見えた。
「……ゆ、ゆずは、このひと、おこってる……?」
「かもしれない……」
そっと耳元で囁くように、少年が体を寄せてくる。明らかに傲慢な態度は、確かに外から見ると怒っているようにも見える。二人でびくびくと震えていると、男性は私と少年を交互にちら、と眺めた後、そっと目元を緩めた。
「怒ってはいません」
聞こえていたらしい。相当静かな声だったのだが。少年がびくりと肩をふるわせて、繋いだ手の平にきゅうっと力を込めてくる。慌てて謝罪をすると、男性は首を振った。
「それでは、腰をおかけになってください」
「あ、は、はあ……」
先ほどまでの言葉遣いが無かったかのような、流ちょうで柔らかな言葉だった。言われたとおり、対面式カウンターの傍にある椅子に腰かける。少年も同じように座った。二人して、ずっと呆けたような顔をしてしまう。
――さっきの、愚昧だとか、なんだとかいう発言は聞き間違いだったのかもしれない。いや、きっとそうだろう。だって、まさか、そんな、愚昧だなんて初めて言われた。確か結構悪い意味だったはずだし、そんな言葉を初対面の相手に言うような、そんな人が居るわけないだろう。現に男性は微笑みを浮かべていた。
そう、きっと、聞き間違いだろう。
「ようこそ、愚鈍な人間。異世界生物課にどういったご用件で?」
笑顔と共に吐き出された言葉に、小さく息を呑む。え、とか、は、とか、わけもわからず愚弄されたことに対しての怒りが上手く形にならない。いや、これ、怒っても良いところ、だよね。だ、だって何もしてないし、何も言ってないのに、そんな。何。何が。愚昧とか、愚鈍とか、初めて言われた。いやこれ貶されてる、よね。
言葉が出てこない。私の横で同じく呆けていた少年が、言葉の意味を飲み下すような間を置いてから、怒ったように手を拳にして軽く振った。
「ゆずは、ぐまい、じゃない。ぐどんじゃない! かんぺき! 完璧!」
どうやらかばってくれているようである。や、優しい。突然横合いから殴られたように、息を潜め止まっていた思考が、少年の声によってようやく動き出すような気がした。
「おや――」
男性はちら、と少年を見ると、少しだけ驚いたような顔をした。
「ドラゴンですか?」
「えっ。そ、その、わかるんですか?」
「それはもちろん。私めも、異世界の存在――いわば、異世界の生物ですから」
そう言いながら、男性は首元からするりと何かを取り出した。貝殻のような形のそれは、蛍光灯の光りを帯びて微かに滲む。
「失礼な物言いをしていたら、申し訳ございません。この地球という場所、魔法の力が薄いため、時折翻訳のための魔法道具が暴走を起こすもので」
「魔法道具……?」
「はい。魔法元素の込められた、道具でございます。そうですね、諸々説明するために、自己紹介から失礼しても?」
語尾を持ち上げて、男性はケースを取り出した。硬質な光りを帯び輝くケースは、男性の手よりも少し小さめのサイズのものである。そこから紙を一枚取り出すと、私に手渡してきた。少年から手を離して、テーブル越しにそれを受け取る。
名刺かな、と思ったが、表面には何も書かれていない。白紙である。
「これは……?」
「どうぞ、息を吹きかけてみてください。貴方の手によって、その紙は意味を持つようになります」
男性はそれだけ言うと、ケースをぱちりと閉じた。そうして穏やかな表情を浮かべたまま、じっとこちらを見つめてくる。
吹きかけないと、多分、話が続かないようだ。少し恥ずかしいけれど、言われたとおり、紙にふ、と息を吹きかける。
すると、息を吹きかけた場所からじわ、と文字が滲むように出てきた。青色の文字だ。異世界生物課、ルーティオ、と書かれている。――名刺だ。青色の文字は、まるでそれがそのまま輝いているかのように、きらきらと煌めいている。
「凄い……」
「改めまして、異世界生物課、ルーティオと申します。本名ではございません。あしからず」
「えっ?」
「本名はこちらの世界の人間には発音不可能ですので、ご了承ください」
男性――ルーティオ(偽名)さんはそれだけ言うと、にっこりと微笑んでみせる。発音不可能な、名前。……そういうのもあるのだろうか。異世界って、すごい。もうそれくらいの感想しか出てこない。
「先ほども申し上げました通り、私はこちらの世界にとって、『異世界人』でございます。扉を通って、こちらの世界にやってきました。ですから、お連れのひと……が、ドラゴンであると一目でわかった次第です」
「一目でわかるものなのですか?」
「人間は猫を見て、猫だとわかるものでしょう。そういう感じです」
男性は言いながら、何かしらの紙を取り出した。異世界生物を拾ったあなたへ、と上部に大きな文字の躍る、チラシのような類いの紙片だ。
「こちら、異世界生物について書かれた紙です。ご一読ください」
「ご、ご丁寧にどうも」
差し出された紙を受け取り、そのまま手に持つ。横から少年がひょっこりと覗き込んできた。青い瞳が微かに動いて、すぐに眉根に皺が寄る。
「えと、もじ……たくさん」
「そう。読める?」
少年は首を振る。気になるのか、文面と私をちらちらと交互に見つめる少年に小さく笑って、私は文字へ視線を落とした。書かれた文字をゆっくりと読み始める。
「異世界生物を保護されたあなたへ――」
――この度は、保護してくださり、および役所までご来訪頂き、誠にありがとうございます。
異世界生物とは、空にあいた穴、通称『扉』と呼ばれるところを通って、異世界からこちらの世界、地球へ落ちてきてしまった生物のことを指します。
異世界生物の種類は様々で、多くは地球で言う所の動物の形を取っています。稀に人が落ちてくることもありますが、基本的構造は地球の人類と同じですので、食事につきましては、人類が食べるものをそのまま口にすることが出来ます。変なものを食べさせてしまったかもしれない、と不安を抱かれている場合、大抵は問題ありません。異世界人はまあまあ胃が強いのでお気になさらず。
異世界生物は、地球に存在する生物とは違う理を持っています。いわゆる魔法というものを使用することが出来る違いです。また、生物によってはそもそも感情のようなものが無かったり、生涯を一匹で何千年も過ごすというような違いもあります。
魔法を使える、だから異世界生物は怖い、と思われましたでしょうか。大丈夫です。異世界でならば確かに脅威となりますが、地球は魔法の火種となる部分――魔法元素が少ないため、異世界生物もめったなことでは魔法が使えません。暖炉の火を付けるのに役立つくらいでしょうか。地球で言うところのマッチレベルの存在でございます。
マッチも使いようで人を脅かすものにも、人を暖めるものともなりえます。異世界生物の使用する魔法も、ほとんどそのようなものと同じでしょう。
長くなりましたが、異世界生物を恐怖せず、保護し、役所までご来訪頂いたこと、重ね重ねありがとうございます。
異世界生物について、何かお助け出来ることがあれば、是非、私どもにご用命ください。――
ふんふんと私の言葉を聞いていた少年は、口を閉ざすと同時に微かに瞬いた。海の水面に似た色あいの虹彩を私に向けて、「おしまい?」とだけ聞いてくる。頷いて返すと、彼は考えこむようにきゅうっと眉根を寄せた。何か思うところがあったのだろうか。少年の言葉を待つ、よりも先に、ルーティオさんが「ドラゴンを拾った時は驚いたのではないですか?」と声をかけてきた。雑談めいた、軽い口調の言葉だ。
「それは、……本当に。調べても全然ドラゴンのことについて載ってるページも無くて。異世界生物課のよくある質問にも書かれていなかったので……」
「まあ、ドラゴンが落ちてくるだなんてことはあまり無いですからね。私もここに勤めてから、初めて見ました。申し訳ございません、よくある質問ページの拡充に努めますね」
ルーティオさんはにこやかに表情を崩す。情報が少ないのには、きちんとした理由があったようだ。そうなんですね、と小さく頷きながら、ふいに浮かんだ疑問をそのまま口に出す。
「そういえば、彼は私の言っている言葉がわかるようなのですが、ルーティオさんは魔法……の、道具で翻訳しないと私の言っている言葉がわからないのはどうしてなんですか?」
「それはドラゴンという種族の特殊性によるものかと」
静かに答え、ルーティオさんは胸元のネックレスを指先で持つ。宝石のような光の綾が、ちらちらと、滲むように机の上へ落ちる。見せつけるように私の方へ軽くかざしながら、「こちらの世界には『砂の耳』という言葉があるようですが、ドラゴンの耳はまさしくそれです」と続ける。
砂の耳。聞いたことのない単語だった。疑問がそのまま表情に出ていたのだろう、ルーティオさんは言い含めるように言葉を続ける。
「失礼。『砂の耳』というものは、一度聞くとどの言語体系であっても『何を言っているのかわかる』耳をさすのです。砂が水を飲むように、ドラゴンの耳も同じく、一度聞けばどの言語体系であっても理解し、発語することが出来ます」
「それは……凄いですね」
「凄いでしょう。異世界であっても、この魔法は卓越した技術の持ち主にのみしか許されません。そう言うと、ええっならそんなことが出来る魔法道具を持っているルーティオさんももしかして素晴らしい技術の持ち主なの? すごいすごーいさすが異世界人、などと思われると存知ますが、私はそういった卓越した技術の持ち主が、卓越した技術の粋を注ぎ込んで作った道具を使用してズルをしているので、平凡な異世界人でございます」
平坦な、どちらかというとあまり感情を込めない、そんな声音でつらつらと言葉を吐き出し、ルーティオさんは首を振った。……なんというか、所作の一つ一つが優雅で、けれどなんともいえないわざとらしさを感じる人である。
「卓越した技術の持ち主にのみたどり着ける域。それをドラゴンはいともたやすくこなします。それは他の部門においてももちろん。ドラゴンに出来ないことなど存在しない、とも――。頑丈かつ屈強、慈悲のない性格、存在自体が伝説に近い生き物でございますね。異世界生物というより、魔法元素生物、といったほうが正しいくらいかと」
「そうなんですね。凄いんだなあ」
「えへ。すごいんだよ」
吐息と共に言葉を零すと、隣に座る少年が胸を張って見せる。慈悲の無い、という形容が一切似合わない、なんとも可愛らしい行動だ。凄いねえ、と言葉を続けると、少年は楽しげにくふくふと笑みを零す。その拍子にずれかけていたフードがぱさり、と落ちて、彼の角があらわになる。象牙のような、曲線を描く美しい角だ。
――ルーティオさんが微かに息を飲む音がした。微かな驚愕が一瞬瞳に滲んで、瞬きの間に消え去る。彼は微かな間を置いてから、「ぱちぱち」と言いながら手を小さく叩いた。静かな室内に、乾いた音が響く。
「これはこれは。素晴らしいですね」
「えと、うん。すばらしいでしょう」
少年が続ける。ルーティオさんは小さく頷くと、体を軽く屈め、紙を一枚取り出した。上部に異世界生物保護申請書、と記載がある。
「さて。この素晴らしいドラゴン様のこれからについてお話いたしましょうか。まずは異世界へ戻す時期についてですが、異世界からはそれこそ急にわいわいと異世界生物がやってくるのですが、なんとこちらの世界から異世界へ帰すとなると、そう簡単にはいきません」
「そうなんですか?」
「はい。――異世界に繋がる『扉』が空中にあることが一番の問題でして。落ちてきた異世界生物を元の世界へ戻すための手続きが大変煩雑、いえ、まあ予算といいますか、そういった地球上の面倒臭い諸々が存在するのです」
滔々と紡がれる言葉は、まるでどこかに台本があるかのように、よどみない。――確かに、空にある以上、帰すとなると大変なのだろう。飛行機で例えば送っていったりするのだろうか。私には想像もつかないようなやり方で、異世界生物は元の世界へ戻っていたのかもしれない。
「次に異世界生物を元の世界へ戻す日程についてですが、おおよそ三ヶ月後です」
「三ヶ月後……ですか」
「ただ、これは予定であり、日にちが近づいた時にまた変更がある可能性もございます。その間の期間について、なのですが」
ルーティオさんはちら、と私と少年を交互に眺めた。一拍、呼吸する間を置いて、彼は続ける。
「役所でドラゴンを保護することが可能です。ですが、役所というものは、まあ、ドラゴンのための保護室……を用意するのも難しいので、政府と提携している異世界生物保護ボランティアの方へ保護をお願いする形になるかと」
そんなボランティアがいるのか。でも確かに、役所だけで異世界生物の保護を一手に引き受ける、というのは難しいのだろう。へえ、と小さく相づちを打つと、ルーティオさんは軽く咳を零した。
「――もしくは。もしご希望があればの話になるのですが、保護いただいた人間に保護を続けていただくことも、申請さえすれば、可能です」
保護した人間――つまりは私だろう。小さく息を吐く。私が望めば、少年が帰るまでの間、共に過ごしても良いのだと、そう言ってくれているのだ。
少年が微かに声を詰まらせた。砂の耳という、どのような言語であっても聞けば理解できるらしい耳を持つ彼は、私とルーティオさんの会話をきちんと聞いていて、理解しているはずだ。
少年と視線が合う。青色の虹彩がぐっと広がる。彼は一瞬だけ視線を揺らして、それからぐっと眉根に力を入れると、私から目をそらさず、こちらをじっと見つめてきた。
不安なのだろう。けれど多分、私が――昨日、一昨日と、帰るまで一緒に居ようと口にしたことを、信じてくれているであろうことが、強い視線から感じられた。
信頼されているのだ。共に過ごすことを、選択してくれるという、信頼を。
まだ二日しか共に過ごしていない。いや――まだ、ではないな、と私は心中で首を振った。
もう、二日も一緒に過ごしたのだ。それに、私としても、言葉を違えるつもりはない。
「なら、私、この子と一緒に過ごしたいです」
「ユズハ」
少年が小さく息を詰めるようにして私の名前を呼ぶ。そうしてから、花がほころぶように相好を崩し、私の肩あたりに額をくっつけてきた。ぐりぐりとこすりつけられる。少年が横を向く度に、ごつごつとした角が微かに当たって、少しだけ痛い。――けれど、甘んじてそれを受け入れながら、私は少年の肩を叩いた。すぐ、至近距離で視線が上がる。
「君はそれでも良い?」
「うん。えと、――だって、ずっと、一緒、だよ。ね」
いとけなく言葉を紡ぎ、少年は大きく頷いた。ルーティオさんが「それでは、そのようにさせていただきますね」と続け、机の上にあった書類の上にペンを置いた。
「ちなみにですが、補助費も出ます。ドラゴンと共に生活するにあたって、必要経費が出た場合は申請してください。レシートは捨てずに残し、領収書を発行することをオススメします」
「わ、わかりました」
「それでは、こちらに記入してください」
机の上に置いてあるペンを手に取って、ルーティオさんが指さす場所に少しずつ文字を記載していく。保護したドラゴンの状態を記載する部分もあった。幼体か、成体か。どちらかに丸をつけるらしい。つまりは子どもか大人か、というような問いかけなのだろう。迷わず子どもに丸をつけると、ルーティオさんが「おや」と声を上げた。
「人間は子猫と親猫を見抜けないのでしょうか?」
「えっ?」
何を言っているのだろうか。疑問をそのままにルーティオさんを見る。彼は少年をじっと見つめた後、まるで台本を読み上げるように言葉を続ける。
「このドラゴン様は成体でございます」
「……え?」
「恐らく地球に落ちてきたこともあり、魔法元素が薄いこともあって、今は幼体のように見えますが、ドラゴンは角で年齢を判断出来ます」
「は……」
「今は難しいですが、このまま異世界に順応をすれば、おそらく元の姿に近い容貌へなっていくかと」
言われた言葉の一割も理解出来なかった。ルーティオさんは顎に手を当てて、「共に過ごすことを決めたあなたにとっては些末なことかと思われますが」と、相好を微かに崩した。
「そちらにおわすドラゴン様は、およそ私たちの何十倍の年齢かと思われます」
「え……」
「ドラゴンは角で年齢を見るんです」
は、と変な声が喉から零れる。
見た目が子どものように見えるのは、異世界に来たばかりで。これから過ごすにつれて、元の姿に近い容貌へ変わっていくと。
……つまり、大人になるということなのだろうか。こ、こんなに可愛い子が?
ルーティオさんが緑の瞳を柔らかく細め、微笑む。綺麗な、――本当に綺麗な、どこか陶酔めいた感情の滲む笑みだった。
「見てください、立派な角でございましょう」
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