天乃川凛の戯言
よつ
天乃川凛の戯言
「そんなこともあったね。やめてよ恥ずかしい、黒歴史だよ。」
「でも、あの時はあれが凛だったからね。」
「あの瞬間がなければ今の僕は存在しないよ。僕は君がいなかったら、ずっと独りぼっちだった。ありがとう僕を見つけてくれて。」
「最初に見つけたのはそっちでしょ?」
「そうだっけ、まあ順番なんて関係ないよ。」
「運が良かったんだね。」
──凛、それに触れちゃいかんよ。
もう何年も前だろうか、まだ半端者の僕がいる。
「この世界は自分の為に作られている」
この考えに辿り着くのに、生まれてたから15年も費やした。
──おい、凛起きろー。おーい、おい凛。
この俺を呼ぶのは数学教師の忠信だ。
この男は数学が他人より少しばかり出来るからって調子に乗っているような人間だ、ろくな奴ではない。
こんな奴に俺の睡眠の邪魔をされるなんて、
「僕は不幸に違いないな、、。」
「え?ふ、不幸?何言ってるんだ。」
数学しか出来ないから、日常の読解力は乏しいらしい。
「僕は睡眠の邪魔をされた。不幸じゃなかったら、なんなんだよ。」
数学教師の忠信は怖い教師でも校内で有名である。
俺の反抗的な態度に、その他の生徒はいつ怒鳴りだすかという恐怖の感情などが手に取るように伝わってきた。
「確かに睡眠の邪魔をされた凛は不幸かもしれない、だが授業中に寝るのは別だと思うぞ。授業を真面目にやってるのに聞いても貰えないなんて私はなんて可哀想なのだろう。」
うん、我ながら素晴らしい返しができた。さぁどうする凛!
「大丈夫、生徒は俺だけじゃないから。じゃあ寝るぞ。あ、声はちゃんと聴こえてるから安心すればいい!」
「(えーーーーーーー。いや、まぁ、あ、、うん、、。)」
「いや寝るなよ。てか聞こえてたんだ。」
軽く頷いて、俺はまた夢の世界へと飛んで行った。
チャイムの音で起きた、どうやら昼休みのようだ。
俺はいつも決まって屋上で昼食を食べるのである。
屋上に行き、いつものように階段を上り、いつものように屋上のドアを開ける
そして、いつものように誰もいない屋上を楽し、、、。
そこには、見慣れない光景があった。誰もいない屋上に人がいるのである。
そして僕のベストポジションに座っている。
まさか刺客か!それとも新手の嫌がらせに違いない!
そうでなければ、ありえない!
「貴様、俺に何の用だ?」
「はい?別にあなたに用なんて無いですよ。ここでお弁当を食べようと。」
「じゃあ違う所で食べればいい。邪魔だ。」
「いや、先にいたのは私ですし。」
「順番なんかはどうでもいい。俺が邪魔だと言っている。」
「あなた、そんな強い権力持ってるんですか?持ってないでしょ。ただの高校生なんだから。それにその高圧的で昔の貴族みたいな喋り方はキャラなんですか?それともナチュラルにその喋り方なの?」
この絶対的な思考と自信で成り立っていると言っても過言ではない、天乃川凛を否定することは、この世で一番重い罪だと理解してないのか。
この世界は俺の為に作られている。
そして、この世界にいる俺以外の全生物は俺の為に存在する。つまり、この世界の神にあたる俺をモブが否定するというのか。
そんな事あってはならない。ありえないのだ!
しかし、全てが上手くいっても面白くない。このようなモブがいた方が楽しいだろう。きっと今回のクエストはこの女に俺が神であるという認識をさせる事だ。
「そうか、そういう事ならば受けてたとう!貴様の名は!」
「ん、なにが?本当に気持ち悪い。」
「我が名は天乃川凛である。この世界の頂点にして神の存在!」
「(ガン無視かよ)まあ、いいか。私は花火。」
この世界は俺の為に作られている。すなわち俺を中心に回っている。
という事は、俺の事が好きでもおかしくない!きっと、この女は照れ屋なのだな。
ツンデレってやつだろ。
「でも俺はお前のことが嫌いだ!」
「私も。」
え
「なんでそうなる?自分に素直になってみたらどうだ。」
「いや普通に無理。喋り方きもいし、よくわかんないし。」
生まれて初めて傷付いた、なんなんだ、この女は。
この女が俺の事が好きである自信は確信になっていた。しかし、この女のナイフによく似た言葉は嘘もない冷たい言葉だった。
「どうすればいいんだ、、、。もう俺はリタイアなのか。」
「なに?リタイア?もしかして傷付けちゃったかな。」
──は!?まさか、、、。
「俺と口でも格闘でもなんでもいい、喧嘩したら勝てる自信は?」
「多分、口喧嘩は余裕。一応、空手ならってたけど女子だからやってみない分からないかな。」
間違いない。俺はなんて勘違いをしていたんだ。
この俺をここまで追い詰めた、この女、いやこのレディーは俺の上に立つ存在。まさに頂点、神の上の存在。
俺の為に作られているのでは無く、彼女の為の世界。
彼女が創ったこの世界のモブに俺は過ぎなかったのか。なんて勘違いを、、、。
俺は今までなんて酷い勘違いをしてきたんだ。ただの役者だ俺は。
今日まで生きてたのは彼女の気まぐれ。ついに本物の怒りに触れてしまったか。
「触らぬ神に祟りなし」とはこのことか!
しかし触れてしまったからには、最後まで責任を持とう!
「俺は貴方の為に生きることを誓います!」
「あーえっと。意味不明だけど、ここでお弁当食べていいって事だよね?あと変な言葉とかいらないから飲み物買ってきてよ、そしたら許すからさ。」
驚いた。やはり神なる存在は人格者でもあるのか。この無礼な行為をパシリで許してくれるなんて。俺なんて問題の枠にも入らないというのか。
俺は立ち上がり、靴紐を結び直した。
「はい!いってきやす!」
人生史上最も速いスタートダッシュであった。
俺は急いで、最寄りの自動販売機へと向かった。
何を買えばいいのか分からなかったので、とりあえずオレンジジュースを買ってみた。
「大当たり!もう一本買えるよ。」
もしかしてオレンジジュースではダメということなのか。
なら、お茶だ!
「あ、おかえり。」
「どっちが好みでしょうか?」
「お茶がいいー。甘いの苦手なんだよねー。」
自動販売機よくやった!
「ねぇ、いちいち言動が狂い出すのはキャラなの?」
「そんな変ですか?昔からなので分からないですね。」
「今は、いい感じだよ。ちょっと違和感あるだけで。私以外にもなんか言われたことないの?絶対に変だって。」
「こんなに言われたのは初めてです。みんな最初はガヤガヤ言うのですが、だいたい俺が押し返してしまうので。」
少しの沈黙が続くと、なにかを閃いたような顔をした。
「きっと凛は運が悪かったんだよ、私に会わなかったから、その気持ち悪い言動が習慣化されたこととか気付かないでいたと思う。ラッキーボーイだね。」
ああ、そうか。
自分が偉いんじゃない、自分以外に他人が見えてない、分かってない。
自分の為の孤独、すなわち自分だけの世界。俺の邪魔は誰もしない
自分に歯向かう奴がいないんじゃない。誰も、もう自分を気にしてない。
でも見つけてくれた、刃向かってくれた。俺がいた
それ以下でもそれ以上でもない、ただ存在してるだけの天乃川凛。
彼女のために存在する天乃川凛。俺の存在
そもそも誰かの為にできた世界じゃない、そんなこと知りたくなかった。
きっと彼女の為だよ。僕が教える
退屈な毎日。誰も俺を越えられない絶対に。
劇的な一日。上には上がいた。俺が負けた
絶対的な思考と自信、習慣化された俺。
もう大丈夫だよ。俺をみつけた
「ひどいな、お前。俺はお前を守ってたんだぞ。」
悪魔にみえたのは俺だった。あくまで俺は俺だった。
「ありがとうう。もういいよ。」
「おいおい都合が良すぎないか?結局お前は俺なんだ。逃げれない逃がさない。」
「ああ、そうだ俺はお前だ、受け入れるよ。」
「お前はずっと不幸なんだ。これからも今までも。お前のせいで両親は不幸になって死んだ。お前がいたから俺が存在した。」
「そうだな。今思い出したよ、お前は俺じゃない。」
「あーあ退屈だよ凛。それじゃつまらない。」
「昔、じいちゃんに言われたよ、触らぬ神に祟りなしってな。」
「お前が俺を見つけれくれて嬉しかったよ。お前が全部欲しかったなぁ。」
「運が悪かったな。」
「ホントだよ。やっぱ不幸の神なんだな俺ってのは。」
俺と僕の間に、一丁の銃があった。
「あーあ。お前はずっと気付かないと思ってたよ。」
「お前を撃てば消えるのか?」
「さあ?俺には分からないなぁ。」
「じゃあ撃つのは一択だな。」
こいつの存在は僕が否定する。
あいつが僕だというなら、僕の認識が正しのなら。
僕は自分の頭に銃を突き付けた。
「おいおい、俺を撃つんじゃなかったなのか?」
僕は無言を貫いた。何も言わずに、ただ俺をずっと見つめて。
「お前、分かっているのか。この世界の全ての不幸は俺が受け皿になってるからこそ成り立ってるんだ。知らないぞ、世界が混沌になっても。」
「大丈夫だよ、お前は不幸だけど、俺はラッキーボーイだから。」
やっぱお前は僕じゃなかったんだな。
「さよなら俺。」
――凛、それに触れちゃいかんよ。
なんで?
知らない方がいい、知っていても意味が無い。
おじいちゃんは何か知ってるの?
知ってるとも。ろくな奴じゃない。
人なの?
人じゃあない。
よくわかんなーい。
それでいいんだ。
凛、お前何をしている。
この鏡に触れながら願い事をすると叶うんだって言ってた。
誰が。
分からない、でもママとパパに会えるなら。
戻れっ凛!
「あ、アぁ、リンァ、ク、ボグリン。オレハリン。」
やっぱ、お前かぁ。いつまでたっても諦めが悪いな。
「オマ、ミタル、ミテイルコト、ジジィ」
「持っていけても半分だけだ。後はなんとかしろ。」
私の人生最大の過ちを許してくれ、凛。
――「凛。」
目を覚ますと僕はベットで寝ていた。
「起きたんだね。よかった急に倒れるから焦ったよ。」
花火がほっとして表情で僕に言った。
「迷惑かけてすみませんですた。」
「──おかえり、凛。」
そう花火に言われた。おかえりと
「ただいま花火。」
きっと深い意味なんて無い。
─数ヶ月後
「え、テストまで1週間しかない。花火、知ってた?」
「今気づいたの。もしかして凛って勉強苦手な感じ?」
おちょくられるように花火に言われた。
「苦手というか、あんま出来ない。」
「それ同じ事じゃない?」
「花火は逆にできるの?」
「できるもなにも、首席入学ですから、私。」
驚いた。頭は良さそうに見えたがそこまでとは。
「知らなかったの?クラス違うけど、かなり有名なはずだよ?」
「初耳でした。」
「明日、土曜日じゃん?暇だったら勉強教えてあげるよ?」
花火が僕に問う。
「よろしくお願いします。」
即答に決まっている。
─土曜日
「ここでやるの?」
「そう!気になってなの、最近できたらしくて先輩もオススメしてた。」
そこは大きなネットカフェだった。話を聞くと部屋も広く防音設備がちゃんとしていて勉強や読書にも集中出来る環境が整ってるらしい。
「2人用ですね、3の05室をお使いください。」
ホテルみたいな廊下を歩き部屋へ向かった。
「うわっ、高そうな部屋。」
「だね。でも値段もそこまで高くないよ、学生割りもあったし。」
ハチマキを花火に巻かされた。意味は無いらしい。
「さて、勉強はじめますかっ。」
─数時間後
「さすがだね。教えるの上手い。」
「そう?凛が理解するのが上手なんだよ。」
ふと思ったことを口にしてみた。
「先生にでもなれば?花火向いてると思うよ。」
「実はなりたかったんだ先生。まさか凛に言われるとは。」
街の18時のチャイムが聞こえた。
「おつかれ。めっちゃ進んだね。」
「お陰様で、点数が20いや30点あがりました。」
「いや、さすがにそこまで上がってないかな。でも頑張ってね。」
―テスト終了
「お疲れ様、どうだった?」
余裕そうな顔をしてこたえてあげた。
「べりーぐっと。」
「ないすっ。」
花火とグータッチをした。
「なあ、あれって篠崎さんだよな。なんで凛とグータッチなんか。」
同じクラスの男子が話し始めた。
「もしかして付き合ってるのか。」
「いや、まさかだろ。」
「あ、もしかして篠崎に勉強教えてもらったんじゃね。」
「首席パワーを借りたのか!?凛のやつ。」
「だから一人だけテスト後のオーラが違ったのか。」
「これは問い詰めるしかねぇな。色々と。」
クラスの男子が一致団結した最初で最後の瞬間であった。
「なぁなぁ凛さんよぉ?」
「(ガラわるっ)なに?」
「お前、篠崎さんとどんな関係だぁよ?」
「どんな関係って、そりゃ、、」
「りーんっ!ちょいヘルプッ!」
花火のナイスヘルプがきた。
「あ、行ってくるわ。」
「て、おい!」
「そうだ、勉強教えてもらったお礼がしたいんだ。」
「別にいらないのに。」
「まぁまぁ、そんなこと言わずに。」
次の日、僕は花火を水族館に連れていった。
「水族館好きなの?なんか以外。」
花火に不思議そうに言われた。
「好きな訳じゃ無いけど。花火と来てみたかった。」
「ふーん。」
「凛といる時間、私好きだよ。」
「そう。」
─長いようで一瞬の時間が過ぎた。
「あーもう3年生か。」
「そうだね。さっきまで2年生だったみたいだよ。」
「僕も先生になる。」
「え?!急だね。大丈夫?」
かなり驚かれた。でも秘策が僕にはある。
「うん、任せんしゃい、花火がいるから大丈夫。」
「そう、じゃあ頑張ろ。って、おい。」
それからは、花火と勉強する時間も一緒にいる時間も一段と増えた。
僕は大学に合格した。もちろん言うまでもないが花火も。
「合格おめでとう花火。」
「ありがとう。合格おめでとう凛。」
「グータッチでもしとく?」
いつの間にか、グータッチが僕たちの間に定着していた。
―卒業式
「卒業しちゃったね、ついに。」
「だな。」
カチカチと秒を刻むその時計はいつもより、うるさかった。
「卒業おめでとう凛。」
「花火も卒業おめでとう。」
今日は花火と寄り道した、いい所を知っているらしい。
僕の街には、街を見渡せるほどの高い場所に公園がある。
「なんか、久しぶりに来たなー、この公園。」
ここが花火が好きな公園らしい。
「ずっと勉強してたからね。こんなとこ知らなかったよ。」
「花火。」
「なに?凛。」
僕は言わなければならない
「花火と出会えて良かったよ、僕は花火とこれからも一緒にいたい。」
「天乃川凛は篠崎花火が好きです。」
私はズルい女だ
「うーん。そっかぁ、まあ、なんだろ、分かってたけど、なんと言いますか、実際に直で言われると照れますな。」
恥ずかしそうに花火は言った。
「私も凛と出会えて嬉しかった。毎日が楽しかったよ。」
「篠崎花火も天乃川凛が好きです。」
――おい、竹本起きろ。
「うぇ。ああ、すんません。」
いつの時代も僕みたいなやつはいるんだな。当然か。
「僕も学生時代は居眠り魔だったんだよ。」
「えー居眠りしてても先生になれるんですか?」
僕は今、高校の数学の教師をやっている。
「ああ勿論。」
―「おかえり、凛。」
僕は、あれから色々とあって花火と結婚した。
花火は大学の先生をやっている。
「あれ?これって。」
そこにはダンボールに入った懐かしいものが見えた。
「あーそれね。実家から届いたんだ。自分で持ってろだって。」
「懐かしいな。」
これは僕が俺だった頃の、天乃川凛が自分を見つけるまでの
思い出の高校時代。
でも今は、ただの天乃川凛の戯言に過ぎない。
天乃川凛の戯言 よつ @Yotsubarhythm
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