第94話 (4)決勝戦直前

「ねえ、花岡。本当に大丈夫なの」

 控室へ戻る途中、高瀬が心配そうな表情で聞いてきた。


「なにが」

「何も覚えていないんでしょ?」

「そうだな、覚えてない。でも、おれが戦って、勝ったんだ。それがわかれば大丈夫」


「腕は?」

「何とかなるよ」

 これは強がりだった。本当は筋肉がパンパンに張っていて、少し感覚もおかしい。


「包帯巻いて圧迫しておいた方がいいんじゃないかな」

「大丈夫。圧迫をしてしまうと自由に動かせなくなっちゃうから」

「そう……」

 やっぱり高瀬は心配そうな顔をする。


「決勝まで来たんだ。神崎がいなくても、おれは優勝するよ。優勝したら、去年の約束を――」

 そこまで言った時、場内アナウンスが流れて、おれは呼び出された。


「え、なに?」

 おれのいった言葉が聞こえなかったらしく、高瀬は聞き返して来た。


「いや、何でもない。優勝するって言ったんだ」

「頑張ってね」

 おれは高瀬の言葉に背中を押されるように、試合会場へと向かった。


 試合会場の反対側、相手陣営には東京M学園が詰めかけていた。

 やはり、どこにも神崎の姿はない。


 そして、防具を着けている男は、さきほどおれに声を掛けてきた坊主頭の男だった。


 たしか、神崎よりも強いとか言っていたな。

 奇遇にも、おれも神崎より強いんだ。

 だったら、この場でどっちの方が強いのか決めようじゃないか。


 おれは心の中でそう声を掛けると、面を装着した。

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