番外編
番外編 1-1「黒猫の願い」
――どうして。……どうして?
そう聞くように鳴いても返ってくる声はなかった。
あのにんげんが、こんなところにぼくたちを置いていく意味も、どう思ってるのかもわからなかった。
もどってくるかもしれない、と鳴いてみても戻ってこなくて。おひさまが2回登った時に捨てられたことを知った。
それでも、寂しくはなかったんだ。
ダンボールの中できょうだいたちと温め合いながら生きてたから。
にんげんはね、みんな最初ぼくたちを見つけると覗き込んで笑顔になるんだ。
かわいい、かわいいって撫でてくれて。ごはんもくれてうれしかった。
でも、勝手だった。ぼくのきょうだいをね、ひとり――またひとりと連れて行ってしまう。
――連れていかないで。
そう叫んでも伝わることはなくて、ただ置いて行かれた。
最初はくれたごはんも今はなくなって、ごはんを探さなくちゃいけなくなって。
まだこどもだからとぼくを狙うカラスから逃げた。
いっぱい走って、息をひそめるように物陰に隠れた。
夜を温めあうきょうだいもどんどん、どんどんいなくなって、最後まで残ったぼくは一人ぼっちで。
にんげんの身勝手さに嫌気がさしてた。
さむくて、さみしくて、かなしくて。力が湧いてこない。
生きるために食べ物を探さないといけないのに、動けない――そんな時に、きみと出会った。
もうにんげんに裏切られるのが嫌で、やさしく話しかけられてもいかくしたね。
触れようとしてきた手が怖くて、力をふりしぼって暴れた。爪を出して拒絶したし、かみついちゃったね。
でも、きみは「だいじょうぶ、だいじょうぶだよ」って笑ってた。その笑顔がまっすぐで、キラキラしてたから連れて行かれてもいいかも、と思えたんだ。
ぼくをかぞくに、きょうだいに、ともだちにしてくれたきみが学校に行っている間はつまらないけど、帰って来たら一緒にいたね。
あそんだり、昼寝もしたね。……おふろは嫌いだったけど、きみが入れてくれるからがまんできたよ。
爪が伸びたら、怖がりながらも切ってくれたね。ぼくも怖かったけど、頑張ってたんだよ。
きみが拾ってくれた日からさいごの最期まで幸せだった。
さみしくて、さみしくて仕方なかったぼくをあたためてくれたきみ。
ふれられなくなってから、ぼくを探すきみが心配で。
本当はね、ずっとそばにいたんだよ。
そばにいることは知らないでほしくて、バレそうになるたびに隠れてたんだ。
だから、あのこぞうに会う時は離れてた。
もし、会っちゃったら、余計なことをきみに言いそうだったから、徹底的に逃げてた。
家に帰ってこなかった日。
あの日はこぞうとどっかに泊まったって、知った。
その日から悪夢にうなされて、寝れない日が続いて。顔色が悪くなっていく。
それなのに、誰かを思って辛そうにしているきみがほっとけなくて、ソファで本を読んでる時はいつも隣にいたんだよ。
でも、ぼくの心配をよそにきみはどんどん危ないことに飛び込んでいく。
いやなにんげんの匂いがする男について行っちゃダメな気がするのについて行くきみをひとりにしておけなくて、追いかけた。
なんか変なのを当てられて、倒れるきみを眺める男にゾッと毛が立つ。
きみにもらった幸せの分、恩返ししたい。守っていきたいって思ってるのに、ぼくは何もできることはない。
いきていたら、鳴くことも威嚇することも噛みつくこともできるのに、何もできない。
悔しくて助けたいって、強く思った時にふと、あのこぞうの顔が浮かんだ。
きみが心を許したこぞうになんて、頼りたくない。でも、アイツしか、ぼくを分かってくれるにんげんはいない。
どうか、どうか――ぼくがアイツを連れてくるから。
それまでは無事でいてほしい、と強く願いながら、走った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます