第33話「狙われていた」
「まず、一件目ですね」
案内されたマンションは外観もエントランスの中も綺麗に整えられている。キョロキョロと見渡しながら、歩けば、案内された部屋は五階のエレベーター前の部屋だ。
否、このフロアには部屋と呼べるもの扉は一つしかない。ワンフロアが広い部屋なのが、扉の前から伺える。
(わ~……高そう。破魔先輩の知り合いだから、当たり前に借りられるとでも思ってるのかしら)
井上はポケットから鍵を取り出して差し込めば、カチャッという音が聞こえる。
笑顔を貼り付けて開くのを待つが、気が気じゃないようだ。冷や汗が背筋を流れていく。
「こちらの部屋になります」
どう考えても、大学生の同棲で案内することがなさそうな賃貸なのだから、当然の反応と言っていい。
扉が開ければ、エスコートするよに
「わぁ……ず、随分と広いですね」
「二人で暮らすならこれくらいの部屋の方がいいですよ」
井上と二人きり、という状況に警戒しているのか、肩に余計な力が入っている。気を配りながらも、玄関から見える広さに驚きの声を出して、足を踏み入れた。
破魔の家ほど、とは言わないが、二人で住むには如何せん、広すぎる。パチパチと瞬きをして、感心している彼女にニコニコと笑みを浮かべた。
「ち、ちなみに……この部屋の家賃って」
「十五万ですね」
「あ~……やっぱりなかなかしますね」
別に借りる訳でもないが、同棲を始めるという設定を続けなければならないのだから、それらしいことを聞かねばならない。恐る恐る、彼を見上げると爽やかな笑顔がはっきりと告げた。
大学生にとって大金と言ってもいい。それが折半するとしても、だ。
満月は残念そうに肩を落とす。
「それでも二人で住まわれるなら、折半したとしても平均的ですよ」
「私たちはまだ学生なので……ちょっと、予算オーバーですね」
「そうですか……それは残念です」
井上はぐいぐいと営業を続けて、その気にさせようとしているのか、言葉巧みだ。それに簡単に乗るつもりがない満月は渋ってる素振りを見せ、申し訳なさそうに遠回しに断る。
予算オーバー、と聞いて押し売りするのは、良い営業人とは言えない。
そこは弁えているらしい。井上は眉を下げて、引き下がった。
「せっかく、探してくださったのにすみません」
「いいえ! ……どうせ、ここにいてもらいますから」
ペコッ、と頭を下げるが、井上の後ろにいる彼の心が怪しい笑みを浮かべている。それが、とても気になるようだ。
嫌な予感がするのか、さっさとここを去ろうと玄関の方へと踵を返す。その背中を見て、井上は柔らかな表情を崩さず、低い声で意味深長に零した。
「え――っ!!」
ゾワッ、とする声に目を見開いて、振り返ろうとした瞬間。
ピリピリという外部から与えられた衝撃に、身体が硬直する。与えられたショックにそのまま、意識を手放した。
「ごめんね。佐藤の好みでさぁ……遊ばせてもらうけど、悪く思わないでね?」
床に無造作に身を投げ出す満月を見下ろす彼が手に持つものはスタンガン。まだスイッチが入ったままなのか、ピリピリと光を放っている。
彼は被っていた化けの皮を剥がして、口角を上げて厭らしい目つきで彼女の身体を上から下まで舐めるように見ていた。
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