第17話「NOULA」
「
「ああ、そうらしい」
ある店の前で、立ち止まった。上の方に飾られている看板を見上げて、
「
高級なマンションを借りる人はまた品の良い不動産会社を利用するらしい。
敷居の高さゆえか、感心する隣で、
「でも、幽霊が出ます、なんて信じるの? 営業妨害って言われない?」
「言われるかもな」
これから乗り込んで聞き込みするにしても、相手にされるか怪しいものだ。追い出された可能性も捨てられない。
不安げに顔を覗き込むけれど、彼は変わらない。むしろ、鼻で笑っていた。
「え、ちょ、それはまずいんじゃ……!?」
ことなさげに答えられたそれに顔が強張る。動揺からか、声がひっくり返る。
「まあ、なんとかなるだろ」
「み、帝くん! ~~~っ!」
止めようと彼の服を引っ張っている彼女に、気にすることもない。帝はためらいもなく、その手を振り払うと店へと続く扉をに手にかけた。
心の準備をする間もなく、さっさと入って行く姿に叫ぶが、応答がない。
今、ここでタイミングを逃したら、入りづらいのは間違いなし、だ。扉が閉まる前に中へと身を滑り込ませた。
「いらっしゃいませ」
入店する客にすぐさま気が付いて、声をかけるのは、清潔感漂うスーツを着こなした若い男性。
にこり、と朗らかな笑みを浮かべると軽く会釈する姿は好印象を与えた。
(っ、この人……)
ひょこっと顔を出してみるが、満月はギョッとして、顔を引っ込ませた。
「どういったお部屋をお探しでしょうか?」
「僕は
首を傾げる店員に、実に爽やかな笑顔を張り付けている。
「あ、ああ、は、はい……では、こちらへどうぞ」
「ありがとうございます」
まさか質問に質問で返されるとは思っていなかったのだろう。戸惑った表情を浮かべる店員だが、現状、目の前にいる二人は客だ。
無下にするわけにもいかない。
奥のスペースへと手を向けて案内する店員に、彼は笑みをたやすくことなく、礼を述べた。
(ぼ、僕!? ありがとうございます!? み、帝くんってそういうことする人!?)
普段ぶっきらぼうで低い声、ではなく、人に困れそうな聞き取りやすい少し高めの声。
彼女が見たことのある張り付いた笑顔とは別の種類の薄っぺらい好青年、といえる表情。
帝と知り合ってまだ日も浅いにしても、それらに狼狽えて、異物を見るような眼になってしまう。
「何してんだよ、行くぞ」
「あ、う、うん」
背後から付いてこない気配に振り返ると、驚きで足を止めてポカンとした顔が目に入る。
間抜けヅラに軽く息を吐き出して顎をクイッと上げた。
それは満月の知る彼そのものだ。キョトンとしたまま、こくりと頷いて彼の元へ駆け寄った。
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