第11話「見上げる先」
「そういえば、こういう相談が来るってことは頼られてること多いんじゃないの?」
「まあ、知ってる奴はな」
「なんで魔王とか
引っ張るように組んでいた腕を緩め、ふと、黙っていれば端整な顔立ちを見上げた。
唐突な質問に
いつもの気だるそうな表情にすぐ戻ると、こくり、と頷いた。それを聞いても、疑問は消えることなく、彼女は眉間にシワを寄せる。
人を助けているにも関わらず、変な二つ名をつけられているのか、考えても出ない答えに首を傾げた。
「それは……」
「それは?」
「知るかよ」
「っ!」
もったいぶられ、
思ってもみない返答だったからか、地面に躓いた。
緩められていたとはいえ、腕と腕が離れていたわけでもない。唐突なそれに、本能的に捕まる場所を求めた彼女の手は帝の腕にしがみついていた。
「おっと」
「はあああ……」
グンッ、と下へ落ちる感覚に、反射的に力を入れる。重心が前へと傾きかけている満月を支えるように、もう片方の腕を伸ばして肩を掴んだ。
転ばずに済んだことにホッと胸を撫で下して、深いため息を吐き出す。
「ため息つきたいのはこっちだ」
「ありがとう」
「いいから離せ」
どう見ても、助けてもらった人の態度ではない。謝罪よりもお礼よりも先に出るそのため息に、彼はげんなりした顔をした。
ボソッ、と呟くそれに眉根を寄せるが、助けてもらった恩は感じているらしい。素直にペコッ、と頭を下げた。
ちゃんと自分の足で立っているのを確認すると、帝はいつまでも組まれている腕を乱暴に解く。
ベタベタとくっつくつもりはなかったのだろうが、掴んでいたことを忘れていた、と言わんばかりに満月はパッ、と両手を上げた。
「……帝くんって分かりやすいけど、分かりにくい」
ジーっと見つめる顔は面倒くさそうではあるが、不機嫌ではない。冷たさを感じる割には咄嗟に助けるくらいの優しさは持ち合わせているからこそ、小さく零れ落ちた。
「矛盾してるって自覚あるか?」
「ありありのありだよ」
「……ここだな」
耳に届いたそれに眉を寄せて首をひねると彼女は自信満々に頷く。
はっきりきっぱり言い切る姿に何も言う気はなくなったのか、彼は肺に溜まった息を吐き、目の前にそびえ立つマンションを見上げた。
「随分良いところに住んでらっしゃって……」
「あの人、金持ちのぼんぼんだからな」
「え、そうなの?」
満月も習って視線を上げて、パチパチと瞬きをする。
二人の目の前にあるのは八階建ての見るからに高そうな、明らかに大学生が一人暮らしするために借りられる建物じゃないマンションだ。
まあ、カードキーの家に住んでいることから大体の予想は付いていたかもしれないが、実際に目にすると驚きがあるのだろう。呑気な感想が飛び出てくる。
この場所じゃないにしろ、何度か
「……」
「……もう、何か視えてるの?」
「いや?」
問いかけに反応することなく、またマンションの上層部に目を向け、じっと見つめている。
満月はこういった現場に訪れるのは初めてで、右も左も分からない。
彼の目に何が映っているのか、気になって顔を覗き込んだ。けれど、静かに首を横に振られる。
「じゃあ、なんで見上げて……」
「とにかく行くぞ」
マンションを観察していたにも関わらず、曖昧な返事しかしない。それにムッとした顔をして問い詰めようとするが、帝は最後まで聞くことはない。
スタスタと歩いて、扉を引いて中へと入っていく。カードキーを取り出してセンサーに当てれば、ドアが開いた。
「え、ちょ、ちょっと待って……!」
どんどん進んでいく彼に慌てて、追いかけるようにマンションの中へと駆けていった。
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