第4話 ラグナロク編 隠されたもう一つの闘い

 何故、鬼姫鈴鹿御前が天照大御神の武器である八咫鏡を持っていたのか?

 参加者であるアリスとロックを始め、多くの観戦者たちが不思議に思っていた疑問。でもそれは、あるプレイヤーたちのオンラインチャットの参加ではっきりした。

[『デスクィーン』はこの為にアマテラスの八咫鏡を僕から奪ったんだね。あと、黄泉津神の技【生命吸収】も奪って行ったけど、何処で使う気なんだろう?]

[俺の炎の巨人スルトの武器の炎剣も持って行ったぞ]

[私の華佗の技【医術】もよ]

[ユウの猫神バステトちゃんの技【全展望監視】も!]

 四人のプレイヤーが口々に『デスクィーン』に奪われた武器や技の話をしていた。

[うわぁー!高天原編二位の韓国人のトッポギさんとヴァルハラ編三位のオーストラリア人のコアラさんだ!]

[九天編三位の中国人のパンダさんとヘリオポリス編二位のタイ人のユウさんもいるわよ!]

 四人の登場に観戦者たちの熱気もヒートアップ。それぞれ自国語で会話しているが、画面上に翻訳が出ているので安心して会話に参加出来る。

[トッポギさんたちはいつ闘ってたんですか?俺達は誰も知りませんでした!]

 観戦者の一人がそう聞くと、[…実は、結界が張られたんだ。僕たちも戦闘が始まって気づいたんだ。全く観戦者の声援がしなかったからね]

[そうそう。何で?って一瞬思ったけど、そんなこと考えてる余裕なんて私達には全く無かったわ]

[だな。俺たちバトル開始直後に『デスクィーン』と出会っちまったからなぁー]

[う〜ん…出会ったと言うか、狙われてたのかも]

 そう答える四人の会話を観戦者たちは呆然と聴いていた。

 ーー実はアリスVSロックの闘いより幾分か早く、遥か北方の地では激戦が繰り広げられていた。

 この対抗戦は団体でも可能なので、トッポギとパンダは事前に手を組むことを約束していた。それはコアラとユウも同じの様で、四人のキャラたちは同時に姿を現した。

 トッポギのメインキャラは天照大御神で、黄泉津神と服部半蔵がサブに。パンダは愛用キャラの華佗に清源妙道真君と神獣朱雀をサブキャラにしていた。

 対するコアラも愛用キャラの雷神トールに炎の巨人スルトと冥界主ヘルをサブに。ユウもメインは愛用キャラ猫神バステトで、邪神アポピスと砂漠神セトをサブに連れていた。

 十二名の錚々たるキャラたちが集まりこれは素晴らしい闘いが観られると思われた矢先、突然目の前に烏帽子を被る狩衣姿の男性が現れて小さな声で言葉を発した。後で気付いたがその言葉で観戦者たちからは見えない様に結界を張ったのだ。

 自分たちだけで闘うと思っていた四人のプレイヤーたちは目の前に現れたキャラに少し狼狽したが、直ぐに四人での団体戦に切り替えなれればと察した。

「どうやら最初に出会いたく無い相手に僕たちは遭遇してしまった様です。ねぇ、『デスクィーン』?」

 トッポギの言葉にコアラ・パンダ・ユウはやっぱりと呟いた。

「さすがの『デスクィーン』でも、初期化されたキャラで俺たち四人のキャラに勝てるか?」

 最初に仕掛けたのはコアラだった。雷神トールがミョルニルと呼ばれる鉄槌を振り上げた。同時に炎の巨人スルトも雄叫びと共に炎剣を狩衣姿の男性に突き刺した。雷神トールの鉄槌も男性の頭上に振り下ろされ地面に衝撃音が響いた。

[殺ったか?]と四人が期待する中、土煙が収まった地面には紙で造られた人形が散り散りになっていた。その一戦が『デスクィーン』に火を着けたのか、素速い速さで三本の剣が飛んで来て一瞬で炎の巨人スルトの両手を切り落としたのだ。何故か地面から足が動かないスルトはその場に崩れ落ちた。しかし、身動きが取れずにいたのはスルトだけでは無かった。雷神トールも先程から全く動けずにいる。

 メインキャラの雷神トールが倒されれば戦闘不能になる為、焦ったコアラはパンダの華佗の技【医術】でこの場を脱しようと考えた。

 後方で事の経緯を考えていたトッポギは[駄目だ!]とパンダに叫んだ。

「これは全て『デスクィーン』の罠だ!先程の狩衣姿の男性は陰陽師安倍晴明の式神だよ。その式神がトールとスルトの足を地面から離れない様にしたんだ。だからコアラの華佗まで近づいたら…」

「…コアラまで共倒れってか?クッソったれ!」

「大丈夫!ユウのバステトちゃんの【全展望監視】の技で『デスクィーン』のメインキャラを探して動けるキャラたちで一気に殺っつけよう」

 ユウは猫神バステトに技を出させゴツゴツしている岩山や涸れかけの沼の様な湖を捜索させた。すると、湖の畔に十二単衣を着た長い髪の女性が佇んでいた。

「やった~。見つけたよ!このまま監視を続け…」

 興奮気味に話していたユウの声が突然途切れた。

「ユウ、どうしたの?何があったの?」

 心配したパンダが声を掛けると、ユウは怯えた声で「ユウのバステトちゃんが技を掛けられちゃった…」

「技って一体誰が…」

 パンダが聞き出そうと華佗を猫神バステトに近づけた瞬間、金色に輝く長い九尾の尾が華佗と猫神バステトの身体に巻き付いた。

 二名のキャラが動けば動くほど尾は縄の様に締まり、完全に身動きが取れない。

 トッポギが何とか尾の力を緩め様と服部半蔵に手裏剣を投げさせた。しかし、手裏剣を察知した三本の剣がそれを防ぎ服部半蔵に向かって来た。トッポギは咄嗟に天照大御神に懐から八咫鏡を取り出させた。でも、それこそが『デスクィーン』の真の狙いだったのだ。

 服部半蔵に向かっていた三本の剣は急に方向を変え天照大御神に向かった。『デスクィーン』の狙いを悟り自分のミスに気付いたトッポギだったが、時既に遅しで天照大御神の背後にはいつの間にか二本の角を持つ美しい女性が立っていた。その女性が鬼姫鈴鹿御前だと分かったのは、天照大御神が羽交い絞めにされ三本の剣で首と胴体を切り離された後のことだ。

 メインキャラの天照大御神が敗北したことで、服部半蔵と黄泉津神も戦闘不能になり、残りは華佗・猫神バステト・雷帝トールだけだと思われたが、実は既に『デスクィーン』のキャラたちの手に落ちていた。

「…僕たちの負けだね。鬼姫鈴鹿御前・金色の尾は九尾狐玉藻前・そして陰陽師安倍晴明。それぞれ個性派揃いのキャラを上手く扱ってるよ」

「トールが動けずにいたのは晴明の技のせいで華佗とバステトは玉藻前の武器と技ってワケか…」

「すごいよね~」

「そうだね。十二名のキャラが勢揃いしてこの有り様だ」

「嗚呼、悔しいわ。初期化されたこのラグナロク編でも勝てないなんて…ホントその名の通り死の女王よねぇ」

 オンラインで話している四人は画面に映る自分たちのキャラが殺られていく様をただ傍観するしか無かった。

「僕的には、この闘いは良い勉強になったよ。人数が多いからって『デスクィーン』に勝てるワケじゃないし、最初に油断して術に掛かったのは僕たちの方なんだ」

「俺もまだまだ未熟なんだなぁ。ヴァルハラ編で三位だからっていい気になってたぜ」

「だね。でも、まだまだ伸び代は有るよね」

「今回は敗けたけど、やっぱりこの『無双天地』はやめられないわ」

 ほんの少し悔しさは残る闘いだったが、四人のプレイヤーたちは次の闘いに目を向けていた。

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