第3話 ラグナロク編 アリスVSロックー終結
序盤、アリスが優勢に立っていたと思われたこの闘い。しかし、ロックが白象アイラーヴァタをこのフィールドに召喚したことで形勢が大きく変わってしまった。破壊神シヴァの怒りの炎も闘いに拍車を掛け、悪鬼酒呑童子と竜宮主乙姫を窮地に追い込んでいた。
[さすが、上位のプレイヤーは闘い方が半端ねぇ。マジ、ロックさん尊敬するわ]
[アリスちゃんだってスゲェーぜ。初期化されてもあの連携プレイ!鬼のアリスの名も伊達じゃねぇよ]
観戦者たちの声援も二派に分かれ白熱していた。皆が鞍馬大天狗の
【法術】に期待を寄せる中、それは突然起こった。
フィールドの中を好き勝手に暴れ回っていた白象が急に動きを止めて苦しそうに鳴き声を上げた。よく見ると白象の長い鼻と胴体に金色に輝く九本の長い尾が巻き付いている。尾は艶やかな十二単衣を着た女性から伸びていて、女性は悪鬼酒呑童子に瞳を向け技【誘惑】を仕掛け虜にした。
女性の後方からは平安時代の狩衣に烏帽子姿の見目麗しい男性が現れ紙で出来た無数の人形の式神を操り、炎で破壊の限りを尽くすシヴァ神と猿神ハヌマーンの全身に貼り付かせた。そして、技【呪術・縛】を唱え二神をあっと言う間に捕捉した。
白象の動きを止め、シヴァ神を捕捉したことでフィールドの炎は消え去った。その戦場に、その者は足音も立てず静かに姿を現した。
九本の尾を持つ女性と狩衣姿の男性がすんなりと道を開け、その中央を二本の角を生やした和服姿の美しい鬼女が通って行く。そして、悪鬼酒呑童子の技で上手く身動きが取れずにいる雷霆神インドラの前で立ち止まった。鬼女の帯には三本の剣が収められていた。
[ねぇ、アレって九尾狐玉藻前と陰陽師安倍晴明じゃない?]
[あの鬼女は鬼姫鈴鹿御前だ!]
観戦者たちは口々にキャラの名前を言い合っている。中には日頃安倍晴明や玉藻前を愛用しているプレイヤーも居て技の出し方や武器の使い方を議論していた。
「テメェー、『デスクィーン』か?闘いの終盤にお出ましとは、根性腐ってねぇか〜?」
「頭脳戦、と言って欲しい…」
「…さすが、総ランキング一位様の言うことは手厳しいねぇ」
そう言うとロックは一瞬の隙を狙いインドラが金剛杵を鈴鹿御前の喉元に向けて突き刺そうとした…瞬間、インドラの両手足は無惨にも斬り落とされ辺りに血が飛び散った。
ロックは驚いて固まり、観戦者たちからは悲鳴が上がった。
この一撃で雷霆神インドラは戦闘不能となり、サブキャラの破壊神シヴァと猿神ハヌマーンも使用出来なくなった。もちろん、白象も力付き大きな音を立てて倒れ込んだ。この時点で、ロックの敗北が決まった。
残るは上空で座禅を組み法術を唱えている鞍馬大天狗だけとなった。
「この鞍馬様の【神通力】の威力、その身で受けて見なさい!」
『デスクィーン』に向けて啖呵を切ったアリス。
【神通力】はその名の通り神の力を意味し、全てを自由自在に操れる特殊能力だ。神と妖怪、両方の種族である鞍馬大天狗だから使える大技である。
鞍馬大天狗は一気に片を付けるつもりなのか、瞬間移動で『デスクィーン』のメインキャラである鈴鹿御前に近づき予知能力で攻撃の機会を見計らっていた。
今迄順調に相手を倒して来た『デスクィーン』だったが、鞍馬大天狗の【神通力】に苦戦を強いられている様に見えたが、実はそれも『デスクィーン』の戦略の一つに過ぎなかった。
【神通力】で鞍馬大天狗の羽団扇には膨大な威力が宿っていた。その羽団扇で鈴鹿御前の首を討ち取ろうと懐に飛び込んだ矢先、鞍馬大天狗の身体は衝撃音と共に大きく弾き飛ばされた。
一体何が起きたのか?と、騒ぐ観戦者たち。よく見ると鈴鹿御前の胸元には、フィールド高天原編で知らないプレイヤーは居ないと言われる三種の神器の一つ八咫鏡が隠されていた。
[うわぁー、鈴鹿御前が八咫鏡を持ってるぜ!アレって天照大御神の武器だろ?一体どうなってるんだ?]
[八咫鏡は透視・反射・吸収が出来る万能の鏡だから…ってことは鞍馬大天狗は【神通力】を反射されたんだわ!]
[アリスちゃんは大丈夫なのか?]
口々に声を掛け合う観戦者たち。
遥か遠方まで吹き飛ばされた鞍馬大天狗はピクリとも動かない。
天照大御神の八咫鏡は相手の力をそのまま反射してしまう為、鞍馬大天狗の【神通力】の威力は相当な威力が有ったのだろう。
悪鬼酒呑童子と竜宮主乙姫が戦闘不能になったことで鞍馬大天狗の死亡が分かり、アリスの敗北が宣言された。静まり返ったフィールドでは観戦者たちの落胆する声や二人のプレイヤーを惜しむ声だけが響いていた。
ーーこうしてこの闘いの勝者はアリスでもロックでも無く『デスクィーン』と言う結果で終わった。
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