第4話 初仕事
「ゼクス。明日には陛下に処刑人の移行を報告するつもりだから準備しておくように。」
「分かりました。」
「では私は失礼する。あとはお前に任せよう。」
父上がいなくなったところで組織のメンバーと会話する。
「まずは現状における緊急の問題はあるか?」
「ああ、ありますぜ、ボス。違法に奴隷を売買している組織の尻尾を掴みやした。今は諜報員が潜り込んでやすぜ。」
「そうか。見逃せるか?」
「さすがに度を越えてるでさぁ。」
どの場所にも必要悪は存在する。いったん排除しても需要があればまたワラワラと芽生えてくる。それならこちらが管理した方がいい事もある。
「そうか。では機を見て捕縛、もしくは殺害する。だが、その前に、その組織の情報を確認したい。資料をくれ。あとコードネーム持ちのもな。」
「こちらです。ボス。」
赤髪の色気を漂わせる妙齢の女。屋敷では一度も顔を合わせたことがない。
「助かる。ええと・・・。」
「ベガです。」
「ああ、ありがとう。ベガ」
「パラパラ・・・」
ものすごいスピードで資料を読み込んでいく。
「…なるほどな、情報は頭に叩き込んだ。」
「それはいいけどねぇ。何人、コードネーム持ちを動かす気だい?」
コードネームを持つものは12人いるが、全員が動けるわけではない。
そして現在活動してない者を頭でピックアップしていく。
「プロキオン、ベガ、俺、それと他の諜報員30名、それで組織を潰す。」
「そうかい。」
「他の皆は現在受け持っている任務をこなしてくれ。プロキオン、ベガ以外は解散。」
「「「「御意」」」」
それぞれが任務へ散らばっていく。
明日は陛下への挨拶か。いいな。忙しい方がつまらないことを考えずに済むから。
「プロキオン、諜報員が潜入していることはまだバレてないんだな?」
「ええ、バレてやせん。」
茶髪にたくましい筋肉。そしていかつい顔。隠密行動に向いているか疑問だが、裏に居てもおかしくない。
「それならいい。絶対に組織を潰すぞ。」
未来を生きる命を救う。それが俺の処刑人としての贖罪法。ただ生きるのではない、何かを背負って生きる、それが人を殺す俺の責務。
「「御意」」
「それでは時期を決めようか。」
「分かりました。」
「次に取引が行われるのはいつだ?」
「一週間後の午前零時ですね。場所はサウザー港。取引相手はバンデリア帝国の貴族で違法奴隷が生き渡される予定です。」
「バンデリア帝国か。それは厄介だな。」
「そうですね。下手をすれば国際問題になってもおかしくありません。」
「どうしやす?、いっそ表にリークしやすか?」
顎に手を当てて考える。これをするといつもよりも頭が働く、冷徹な方に。
「…なるべく我らの存在は気取られたくない。違法奴隷を入手した瞬間を抑えることは可能か?」
「それは場所によります。我らの手が完全に行き渡っていないところでは潜入工作員の命を保証できません。」
それは駄目だ。死ねと命じる以上、俺にはなるべく命が散らない方法を考える義務がある。決して口には出せないが。
「なら大筋は違法奴隷を入手した瞬間に定める。しかし我らが動きづらいならサウザー港で踏み込む。さすがにバンデリア帝国の貴族が現地まではやってくることはあるまい。」
「そうですね。ではそのように。」
「ああ、抜かりなくな。ベガはサウザー港にも人員を仕込んでおけ。」
「御意。懇意にしている商会に潜らせときます。」
「プロキオンは念のため船も用意しておいてくれ。」
「分かりやした。」
「あとは潜入工作員にもこの情報を伝えたいのだが、担当者は誰だ?」
「あっしです。」
「む、プロキオンなのか。なら船は俺が用意しておく。お前は悟られんように接触してくれ。」
「分かりやした。」
「今のところはそれくらいか。では解散とする。」
「「御意」」
二人が去っていったあと、静かになった部屋で佇む。こういうときにセバスはいつも来てくれる。
「初のお仕事ですな。」
「…セバスか。」
「…覚悟が揺らいでいるようですな。」
「分かるか。…正直に言うと怖い、俺はまだいい。だが俺が公爵家を継いだら俺の子供も処刑人になるという事だろ?」
「そうですな。それがフォルナ家の使命ですから。」
使命、か。ご先祖様もさぞかし悩んできたことだろうな。
「軽んじられることも?」
我が家は裏の仕事のため、代々表の仕事には就いてこれなかった。その弊害が随所に現れている。
「…闇にある以上、光を浴びることは出来ません。選ぶというのはそういう事です。フォルナ家の初代はこの国のために闇に生きることを選択しました。良し悪しは置いといて選んだことには責任が伴います。なぜなら選ばないこともできたのですから。」
「…選べたのは初代だけだろ。」
「ゼクス様。あなたも選択されたのは覚えておられますか?、弟たちの代わりを務めると。」
「…」
「それにゼクス様の代はこれからです。変えたいのなら変えればよろしい。もし変えるご意思がお有りなら、微力ながら私もお手伝いさせていただきます。」
「…」
ゼクスの眉間に寄った皺がその道を選んだ場合の困難さを示唆している。
「まぁ、思考の片隅にでも置いておいてもらえればいいと思います。」
「…分かった。」
「では戻りましょうか。明日は陛下と顔合わせですから。」
顔合わせか。賢ならばよいが、愚ならば…。
知らず知らずのうちに白い仮面を握る力が強くなる。
しかし、今はそれを考えても詮無き事。
俺はそう考えて、自室へ戻るのだった。
処刑人の一族 @sasuraibito
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