ベストなタイミングで出会ったオタク

 何かのジャンルにハマると、「もっと早くにハマればよかった~!!」と思うことがある。

 早くにハマっていれば、リアルタイムでしか経験できないイベントや出来事をより多く味わうことができるというのもあるが、ただシンプルに「もっと早く知りたかった」と悔いるのが感情のほとんどだ。

 別に、長くハマっていればいるほど偉い、というわけでもないのに、なぜかそれを長く応援していたくなるのはオタクの性なのか。


 しかし、「ハマったその時が一番ベストなタイミングだ」とよく言われるのもまた事実。

 それを実感したのが、この三か月のことだ。


 私はもうかれこれ十四年ほどオタクをやっている。

 初めて深夜アニメを見て、インターネットの掲示板やら動画サイトやらを歩き回る人生が始まって、気付けばそれだけの年月が経っていた。

 私がオタクになったのは、深夜アニメのブームが来ていた時期だったと思う。まだオタクと言うと悪い印象がやや残っている時代ではあったが、それなりに世間に浸透しつつあった世の中だった。

 当初は、まだあまり触れたことのない世界ということもあってあらゆる作品が新鮮に思えた。

 自分の知らないところにこんな名作があっただなんて、といろんなアニメを見た。


 ここ十年程で、アニメというものを取り巻く世間の認識は大きく変わっていった。

 オタクだけではなく、一般層にもアニメというものが広がりを見せていた。

 だからだろうか、私があの日見ていたアニメとは、また違った作品がたくさん放映されていた。

 たくさんの人がアニメを見て、それらのグッズを買い、誰それが好きと語り合う。

 アニメは、人と繋がるツールとなっていた。

 だけど、私にとってアニメは違った。

 暗い部屋で一人液晶を見つめ、そこに流れる映像と音声を聞き、見終わったと同時に一息吐き、作中のシーンに思いを馳せる。

 それを誰かと共有することなく(Twitterを始めた頃は感想をツイートしたり他の人の反応を見たりすることはあったが)ただ自分の中に思い出としてしまっておくのが普通だった。

 だけど、アニメが人と繋がるツールとしての側面を大きくし始めた頃から、どこか私は窮屈さを感じていた。


 流行りにも皆が称賛するやり方にも乗れなくなっていた。

 時代が変わったのではなく、少数派だった自分の好きなものが多数派のやり方にとって変わったのだろう、とか、いろいろ考えていた。


 もうオタクとして余生かな、と、一年前までは輝いて見えていた作品たちに思いを馳せながら、そんなことを考えていた。

 十年以上オタクやって、いろんなアニメや映画を観た。

 もう十分オタクやったんだし、たまに「これ面白いなー」と思える作品に出合えたらラッキーくらいの感覚で生きている方が楽かもしれんなぁ、なんて考えながら日々生きていた。


 が、今から三か月前、何の気なしにTwitterで話題になっていたとある映画を観に行った。

 結果、面白かった。

 長い歴史を持つシリーズ物であったため、過去作も大量にあった。

 その日観た映画の内容だけでは飽き足らず、私は登録しているサブスクを駆使して過去作を見漁った。

 気付けはドはまりしていた。

 この作品が面白いと思うたびに、「もっと早くにハマっていればよかった」「見るきっかけは思えばたくさんあったのにどうして」と後悔した。

 しかし、私がこの作品にハマれたのは、オタクとしての余生を覚悟した今だったからだろう。

 無論、リアルタイムで追う世界線の存在を願わずにはいられなかったが、今私が生きているこの現実において、このジャンルにハマるタイミングはまさに今だったのだろう。

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