見上げれば、プラスチックの人間たち
佐倉ソラヲ
いろんなオタク
恋愛がわからないオタク
よく飲みに行く友達がいる。
その二人は高校生のときから同じ部活の友人で、社会人になり遠く離れてしまった今でも帰省なんかしたときには一緒にご飯を食べたりする。
私は生粋のオタクで、二人もアニメや男性アイドル、漫画や配信者が好きなタイプだった。
高校時代の私たちは、夏は暑く、冬はクソ寒いぺらっぺらの部室棟の中でだらだら過ごしながら好きなアニメやマンガ、アイドルの話をしていた。
卒業後はそれぞれ別の大学に進み、就職先も違う県になって、やがて私たちは別々の環境で過ごすことになる。
久々に友達と飲みに行ったある日のこと。
例の三人で近くの安めの居酒屋に入って、注文した焼き鳥やら野菜やらを食べていた。
高校を卒業して、二人は変わった。
というのも、彼氏ができていた。
恋人ができることに何らおかしなことはない。
生きていれば人は誰かに惹かれ、その人と恋人になりたいと願うようになる。それはよくある話だ、と、私はそれ自体疑問を抱くようなことはなかった。
橙色の電球が灯る居酒屋の席の中で、友達二人は自分の恋人や元彼のことについて話していた。色恋とは無縁の人生を送る私は、梅酒のソーダ割を飲みながら相槌を返すだけだった。
二人の話を聞いているうちに、私の中で一つの疑問が浮かぶ。
なぜ、人は恋人を作るのだろう、と。
今まで当たり前のことだから、と疑問にすら思っていなかったことが私の中で泡のように浮かび上がった。
それまでの私にとって恋愛とは他人事だった。
自分の見知らぬ誰かが、自分の知らぬ地で誰かに惹かれ、一つになり、幸せを感じ、または決別し、憂う。
そんな、雲の上の出来事だと思っていた。
人が恋人を作るということに納得していたのは、それが他人事で私には関係のないことだったから、深く考えずに理解したつもりでいたのだろう、と今は思っている。
実を言うと、高校生のときに私はとある体験をした。
中学時代の友人に彼氏がいた。
その彼氏は中学時代のクラスメイトで、私もよく知っている男子生徒だった。
どうやら中学三年の冬休み頃には付き合っていたらしく、中学卒業後にそのことを教えてくれた。私以外の友人は皆気付いていたらしいが、気付いていないのは私だけだったらしい。
当然、私はびっくりして「え!? そうだったんだ!」と反応した。
そのときはそれで終わった。驚きはしたが、あまり興味のない話だったから。
その年の夏休み。私の地元では毎年、大きな夏祭りが開催されている。
町内だけではなく、隣りの市から遊びに来る人は結構いる。わりと田舎の学校のグラウンドを借りてやっているのだが、毎年毎年大盛況の夏祭りだ。
私はその友人と夏祭りに行きたかった。が、私が誘う前に「今年は彼氏と一緒に回る」という連絡が来た。
彼女は、中学時代ちょっとした事情があって夏祭りに参加できなかった。
私は、彼女と夏祭りに行きたかった。しかしその年、それは叶わなかった。
なぜだろう。彼女の恋人より、私の方が付き合い長いのに。どうして彼氏を優先したんだろう、と、そのときは疑問に思ったが、夏が終わるころにはそう疑問に思ったことすら私は忘れていた。
何やら暗黙の了解で恋人はその人にとって特別な存在らしい。
どれだけ付き合いの長い友人よりも、付き合って一か月の恋人の方が、優先順位は高い。
恋人の優先順位が高いとして、恋人と友人の違いはなんだろう、と考えた。
よく考えた上で導き出された結論は「性欲の有無」だった。
……何か違うということぐらい私にもよくわかってる。そんなものではっきりと違いが区別できるものではないことくらい、私にも薄々わかっている。
しかしこれ以外で明確に恋人と友人を区別できるものが私にはわからない。
そしてそれに輪をかけるように「性欲を満たしたいのならセフレや風俗で良いのでは?」という論まで出て来て私の頭は大混戦を引き起こしていた。
いよいよ以て何もわからなくなってきた。
人間にとって、恋人とは何?
どうしてそうまでして人間は恋をして、恋人を作ろうとする?
そして、どうしてそれは何よりも優先される?
橙色の電球の灯りが視界を歪ませる。いや、飲んでる梅酒のソーダ割のせいか? それとも、こんがらがった思考のせいか?
いい感じに酔いも回ったとき、私は一つの言葉が口をついて出た。
「なんで付き合うの?」
純粋な疑問であった。
何か嫌味とかがあったわけじゃなく、シンプルに、子供が親に「なんでなんで?」と訊くように、疑問に思ったことが口から出ただけである。
目の前の二人は、私の質問に対して驚きを見せた。その表情を見て、私は「あっ、なんかまずいこと訊いてしまった」と息を飲んだ。
しかし、友人二人は優しい存在で二人がどうして彼氏を作るのかを簡単に教えてくれた。
「相手に求められたいから」
「暇だから」
なるほど、と思った。
前者については可愛いと思い、後者に関しては「暇なら私の薦めたアニメを見ろ」と思った。
これが万人の意見ではないとは思うが、それはそれでなるほど、と思った。
特に参考にしたいと思ったのは前者の友人の言葉。
相手に求められたい、という原理と、その相手が恋人でなくてはならない理由について私は考えた。
考え抜いた結果、人は「ロマン」を求めて恋人を作っているのだろう、という結論に達した。
日常の中の非日常を求めて、いつもの生活の中では得られない何かを得たいがために恋人を作るのだろう。
しかし、それは恋人でなくても良いのでは? という疑問も出てきたが、きっとそこには恋人でなくてはならない理由があるのだろう。
私だって、「ロマン」を求めるオタクだ。
「ロマン」を得たいがためにアニメや映画を観て、ゲームを楽しむ。
それでしか得られない「ロマン」が私は好きなのだ。
きっと、恋人がほしい人にも同じように、それでしか得られない「ロマン」があるのだろう。
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