帰り道【拓夢】
「運転は、私がしますから……」
「よろしく」
相沢さんは、スタッフの人に鍵を渡している。
「星村君、乗って」
「はい」
俺は、車に乗り込んだ。
「相沢さん、後部座席に乗りますか?」
「いや、いい。助手席で」
「わかりました」
相沢さんは、俺に気遣って助手席に座ってくれた。俺は、いつものように後部座席に座る。
「じゃあ、出発しますね」
車が発進して、景色が流れていく。
もう、二度と凛に会えない悲しみが沸き上がってくるのを感じる。
「PVの撮影の日ですが、どうしますか?」
「その日、SNOWROSE は別の撮影が入ってるからね。SNOWROSE は、別撮りになるだろうな」
「そうですね。では、来月の頭の撮影は時間を調整しておきますね」
「そうだね、よろしく。来月の新曲に合わせたPV、楽しみだな」
「そうですね」
相沢さんは、楽しそうに話している。
その声が、凄く遠くに聞こえていた。
ポッカリ空いた穴を埋めるものは、もう音楽しかないんだよな……。
「星村君……星村君……」
「う、うーん」
「疲れていたから、寝てたよ。ついたよ」
「あっ、すみません」
「いいの、いいの。気をつけてね」
「お疲れさまでした」
俺は、いつの間にか寝てたようだった。
相沢さんに別れを告げて家に入る。
「さてと……書くかな」
俺は、リビングに向かって棚からノートを取り出す。
これから先の俺を救ってくれるのは歌しかない。
この穴を埋める方法も、歌しかないんだ。
俺は、ノートに殴り書きしていく。
今の感じてる気持ちをただひたすらに……。
「疲れたーー」
時計を見ると帰宅してから二時間は経っていた。
ノートに書いた文字は、まるで呪いの呪文のようだ。
「さてと、これをパズルみたいに繋げてくしかないよな」
俺は、スマホを見つめた。
【今日は、本当にありがとう。いい式になった。拓夢には、本当に感謝してる】
まっつんからのメッセージを見つめる。
「まっつんは、幸せになって、俺は不幸か……」
何となく口に出した言葉に涙が流れていく。
凛は、振り返らなかった。
もう、俺との事なんかいらないんだな……。
俺は、立ち上がって冷蔵庫からビールを取り出す。
僅かな時間だったけど……。俺は、凛を本気で愛していた。
最後に凛に触れた唇を指先でなぞる。
「俺が、皆月龍次郎さんだったら……よかった」
そしたら、凛の傍にずっといれたのに……。
頬をつたって流れていく涙を止められはしなかった。
「凛……。凛……。愛してるよ」
届くはずのない声は、キッチンのシンクに虚しく消えていく。
苦しくて……。
痛くて……。
切なくて……。
もう、後戻りは出来ない。
俺は、前に進むしかない。
これから先の俺を救ってくれるのは、SNOWROSEだ。
俺は、シンクにビールの缶を入れてダイニングに戻る。
さっき書いた文字をパズルのようにはめていく。
さよなら、凛。
さよなら、凛。
さよなら、凛。
凛への想いをこの歌詞にのせる。
完成したら、聞いてくれる。
音楽が、凛と俺を繋いでくれるんだ。
だから、俺はSNOWROSEで居続けなきゃいけないんだ。
どんな未来が待ち受けていても、受け入れて歩き続ける。
それしか方法が、俺にはないんだから……。
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