大事にしなさい(拓夢の話)

「拓夢」


母さんは、俺を呼んだ。


「何?」


「拓夢が大切にしたいなら、大事にしなさいよ!その気持ち……」


「母さん」


母さんは、そう言いながら俺を見つめる。


「拓夢、きっと、その気持ちは二度と感じないかもしれないわよ」


「そんなわけないよ」


「あるの!」


そう言って、母さんは真剣な目で俺を見つめる。


「人ってね。本気で人を愛する事って意外と少ないものよ。特に、恋愛に時間をかけれた学生時代とは違ってね。大人になってから、誰かを自分の世界の中心に出来る事って少ないのよ」


「母さん……」


「だから、あんたがあの人に感じた気持ちはきっと……。他の誰かと恋をしても辿り着けないものよ」


「そうなのかな」


「そうよ。そういうもんよ!」


母さんは、そう言いながら俺の頭を撫でてくる。


「母さんね、今まで拓夢を見てきたからわかる。拓夢は、あの人に心底惚れてる。その思いは隠し通せないぐらい本物。あの人がいない世界は生きたくないぐらいにね」


俺は、母さんから目を反らした。


「撫でるのやめろよ」


「フフフ。図星だね」


そう言って母さんは、笑った。


「いつか、好きな人は出来るわよ!あのね、結婚するなら大好きな人より好きぐらいな人にしときなさい」


「何でだよ」


俺の言葉に母さんは、フフフと笑ってこう言った。


「大好き過ぎたら疲れちゃうから。心も体も疲れちゃう……。だから、一緒に生きてくのが窮屈でしんどくなっちゃうものよ」


そう言って、母さんはニコニコと微笑んだ。


「父さんは、好きぐらいだったの?」


「そうねーー。好きぐらいだったわね!この人といたら、毎日苦しくなくて笑っていられそう!それが、結婚を決めた理由よ」


そう言って、母さんはニコニコ笑っていた。


「私もね。拓夢みたいに本気で人を愛したのよ。父さんに出会う前にね。心も体もボロボロになっちゃうぐらいねーー。でもね、あれってすっごくエネルギー使うじゃない。あれを毎日、毎日味わってみなさいよ。1ヶ月ひとつきで私は死んでるわ」


そう言って母さんは、懐かしそうに微笑んでいる。


「あんなのは、もうこりごりよ。年を取ればなおさら……。激しかったら、心臓発作起きるわ」


「何だよ、それ」


俺は、母さんの言葉に笑ってしまった。


「それにね。やっぱり、生活にはしたくなかったんだと思う。家族にもなりたくなかったんだと思う」


「恋愛と結婚は、別ってやつ?」


「そうそう!たまに、同じ人いるけどね。そういう考えの母さんの友達は、皆、離婚しちゃった」


「へーー」


その言葉に俺は、頷いていた。


「星村さん、もうすぐ披露宴始まるって」


かねやんのお母さんが話しかけてきた。


「あら、やだ!帰らなきゃね」


「そうね」


「拓夢、優太君にまたご飯食べようって言っててね」


「わかった」


「じゃあね、拓夢」


「気をつけて」


母さんは、かねやんの母親に連れられてしゅんの母親の所に行った。


生活にはしたくなかったか……。


俺もあのまま凛といたら思ってたのかな?



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