電車の中【凛】

駅に着くと龍ちゃんは、手を離して切符を買っている。

その姿を見つめていると、私の世界の日常が戻ってきたのを感じていた。


「はい、切符」


「ありがとう」


私は、龍ちゃんから切符を受け取った。改札を抜けて、ホームに降りると電車が止まっていた。


「祝福してるね」


私の言葉に龍ちゃんは、「そうだな」って笑って手を握ってくれた。


電車に乗り込むと暫くして扉が閉まった。


「ついたら、理沙ちゃんに会いに行ってくるね」


「うん」


「龍ちゃんは、待ってる?」


「待ってるよ!その辺で…」


「わかった」


私は、龍ちゃんを見つめながらニコニコしていた。


「何?」


「結婚式に行くと龍ちゃんの事、思い出しちゃって!」


「あー、それって結婚式の恥ずかしい思い出だよな?」


「恥ずかしいって、そんな事ないでしょ?」


私は、そう言いながら龍ちゃんを見つめる。


「結構、ガチガチだったからなー。手なんかこんな震えて」


龍ちゃんは、そう言いながら手を震わせる。


「指輪の交換で、指輪がねー」


私がそうやって言って笑うと龍ちゃんは、「神父さんの足元に転がってんだよな。あれは、恥ずかしかったな」って笑ってる。


「よかったよ!龍ちゃんらしくて…」


私がそう言って笑ったら、龍ちゃんは私を見つめながら…。


「俺らしいって!凛、それって駄目な奴って意味だったりする?」


龍ちゃんは、そう言って私を覗き込んだ。


「駄目なんかじゃないよ。龍ちゃんらしい。素敵な結婚式だったんだよ!みんなを笑顔にしてたじゃない」


私は、そう言って、龍ちゃんの手を握りしめる。


「そんな龍ちゃんだから、私。許されてるんだね…」


小さな声で、ポツリと言った私の言葉を龍ちゃんは聞き逃さなかった。


「何言ってんだよ。俺が、凛といたいんだよ!結婚式あげてから、ずっと俺に付き合ってもらってるだけだよ」


そう言って、龍ちゃんはくしゃくしゃって笑った。


「龍ちゃんって、やっぱり神様かな?」


私は、そう言って龍ちゃんを見つめた。


「神様って!人間だから…」


そう言って、龍ちゃんは笑ってる。


「龍ちゃん、お義母さんに何か言われたんだよね?私の事…」


「うん?言われてないよ」


「本当かなー?」


「凛には、両親の話してたもんな…」


「うん」


私は、龍ちゃんを見つめる。


「もっと、怒りの感情とかあったら違ったかな?」


龍ちゃんは、私を見つめてそう言った。


「龍ちゃんは、もっと喜怒哀楽出すべきじゃない?出したっていいんじゃない?」


私の言葉に龍ちゃんは、私を覗き込む。


「難しいよな。喜怒哀楽を表現するのってさ…。自分じゃわからないんだよ。人とポイントがずれてるのかな?俺は、あの日の凛の事怒りたいって思わなかったから…」


龍ちゃんは、どこまでいっても龍ちゃんだ。結婚式で、指輪を落としちゃった龍ちゃんから何一つ変わってない。


「私だけ変わっちゃったんだね……」


私は、流れる景色を見つめながら小さな声でそう言っていた。



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