何も考えなくていい時間【凛】

私は、いつの間にか拓夢のベッドに来ていた。拓夢が泣いていた。汚い言葉や醜い言葉…。智さんへの気持ちに苦しめられていた。やっぱり、私達は似ている。拓夢と私は、同じなんだ。気づいたら拓夢に、話かけていた。引き寄せられるようにお互いにキスをした。拓夢の気持ちに答えるように愛してるを言った。龍ちゃんへの気持ちとは少し違う。でも、拓夢を愛してるのは事実だった。

目覚めた朝、私と拓夢は互いの一番の理解者になると約束を交わした。他愛ない会話を繰り返して、VIP待遇で買い物をした。楽しいだけの時間。何も考えなくていい時間。帰宅して、拓夢が玄関に行く。


「SNOWROSEのタクムですよね?」


そう言われた言葉が聞こえた。あー、もう駄目なんだ。私達は、本当にこれが最後なんだ。今になって、龍ちゃんに感謝していた。これが、本当に最後だってハッキリ気づいたから…。私は、拓夢の傍に行って段ボールを持った。悲しい顔なんかしない。寂しい言葉なんか話さない。


「段ボール足りる?」


「足りなかったら、追加をお願いするよ」


「うん」


「明日から、纏める」


「うん」


拓夢は、リビングの棚の近くに段ボールを置いた。本当に引っ越すんだねって思った。


「タグ切った?」


「まだ」


「ハサミ渡すよ」


「ありがとう」


私は、拓夢からハサミをもらって服についてるタグを切っていた。


「今日は、何食べる?晩御飯」


タグを切ってる私の隣に拓夢はやってきた。


「ハンバーグにしよう。明日は、鯖の味噌煮にする」


「いいね」


「うん」


他愛ない時間が過ぎていくのを感じる。晩御飯にハンバーグを食べて、今日はお風呂は別々に入った。そして、全部終わって一緒のベッドに眠った。次の日は、朝御飯を食べてから段ボールに荷物を詰めていく。


「それ、学生時代からあるんだよ」


「えー。すごいね」


「それは、捨てるかなー」


何も考えなくていい時間がどんどんどんどん流れていく。そんな日々を過ごしながら、あっという間に別れの日になった。最後の引っ越しの準備を朝からした私達。拓夢の家の物は、段ボールに収まった。


「休み、今日で終わりじゃなかった?」


「そうだよ!明日の朝、業者が来て。俺は仕事に行く」


「残りは、やってもらうの?」


「そうそう」


そう言って、拓夢は笑っていた。


気づくともう夕方の五時だった。


「最終電車で、帰るね」


「寂しいな、凛」


拓夢は、私を引き寄せて抱き締めてきた。


「大丈夫だよ。私達は、また会えるでしょ?」


その言葉に拓夢は、「うん」と頷いた。

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