《凛》そんなに簡単に消えない【カクヨム版】

「凛」


「んっ」


拓夢は、私にキスをしてきた。


「ごめん。ヤバイわ!風呂入る」


そう言って、拓夢は私から離れた。


「いいよ!続けて」


「駄目だって!先に風呂入るな」


拓夢は、私の頭を優しく撫でていなくなった。したってよかったのに…。私は、そう思いながらお皿の残りを洗った。


洗い終わると、【お風呂が沸きました】とアナウンスが流れてきた。拓夢が、湯船をいれていたのがわかった。私は、絞ったキッチンペーパーを持ってダイニングテーブルに行って机を拭いた。


ブー、ブー


スマホが鳴った音がして鞄から取り出した。


「通知消すの忘れてた」


雪乃が何かを投稿したらしい通知がやってきていた。開かなくていいのに、気になって開いてしまう。

もしかして、早いけど赤ちゃん産まれたとか?開かなければよかったと後悔した。そこには、雪乃が和紗の投稿を載せましたとなっている。


【満月の効果ですね!予定日より遅れてたけど、無事に出産しました】その言葉と共に、赤ちゃんと映る和紗の写真。


【おめでとう。和紗ちゃんも、同級生だね!私も、もうすぐママだよ!】


【雪乃ちゃん、おめでとう。病院で会った時は、びっくりしたけど…。やっと願いが叶ったね。お先に、ママになったよ】


【産まれたら、会おうね!】


和紗と雪乃が、やり取りをしていた。私の入れない話題で…。


ゴトン…。足元にスマホが落ちる。


あの日、芽生えた気持ちを簡単に消す事は出来なくて…。消えていなかった事に気づいてしまった。

ここで、何かを起こせば拓夢に迷惑がかかる。


私は、ペタペタと泣きながら歩いていた。洗面所の扉を開ける。


私には、これしか思い付かない。絶望を拭える方法がわからない。


「ごめんね、龍ちゃん。許して、拓夢」


スルスルと服を脱ぎ捨てた。私は、裸になってお風呂場の扉を開けた。


カタン…。って音がして、拓夢は驚いた顔で私を見つめる。


「凛、どうした?」


「抱いて!拓夢」


私は、栓を捻ってシャワーを出すと軽く体を流してから湯船にいる拓夢の元に行った。


「駄目だよ。凛」


「どうして?私じゃもうそうならないの?」


私は、そう言って拓夢に近づいた。


「なるから、駄目なんだよ」


拓夢は、そう言って私から離れようとする。


「それなら、いいじゃない。だったら、この絶望を拭ってよ」


私の言葉に、拓夢は私を見つめる。


「何かあったの?凛」


「和紗が生きてた」


そう言って、ボロボロ泣いているのが自分でもわかる。


「嬉しい事じゃないんだな」


拓夢は、そう言って私の頬の涙を拭ってくれる。


「嬉しいの。よかった。和紗が生きてて」


うまく笑えない。大好きだった友人の出産におめでとうも言えない醜い心。


「拓夢の家で死んだら迷惑かかるでしょ?だから、こうして」


私は、頬にある拓夢の手を胸にもっていく。


「死にたいぐらいに嫌な事があったのか?」


私は、首を横に振った。死にたくなったのは、自分の醜さを知ったから…。今までとは違うんだよ。この身体に嫌気がさしたのと違うの。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る