必要だって言って【凛】
「体が冷えちゃうから、中に入ろう」
そう言って、拓夢は私を部屋に入れてくれた。
「靴下脱がなきゃな」
拓夢は、ベランダに出た靴下をすぐに脱いだ。私もストッキングを脱ぐ。
「挑発されてるみたい」
そう言って、拓夢は笑った。
「してない」
私は、ストッキングを丸めてコートのポケットに入れようとした。
「洗濯するよ」
「えっ!ありがとう」
まだ、脱いだばかりの生暖かいストッキングを拓夢に差し出した。
拓夢は、靴下とストッキングを持って、私の手を引いていく。
「何?」
「凛、お願いがある」
そう言って、私はお風呂場に連れて来られた。
「お願い?」
拓夢は、洗濯かごに靴下とストッキングを入れてから私のコートを脱がせる。
「するの?」
「違うよ」
期待する眼差しを送った自分が情けなかった。それと同時に女としての生き方に抱かれる事が含まれている自分に情けなさを感じた。拓夢は、洗面台で手を洗ってから、私の頬にヒヤリとした手を当てた。
「泣かないでいいんだよ」
「抱かれないなら価値がないでしょ?」
口をついてでる本音。
「愛して欲しいから、体を差し出せばいい?」
私の言葉に拓夢は、私を引き寄せて抱き締める。
「誰がそんな事言ったんだよ。愛は、そんな風に得るものじゃないんだよ」
「そんなの嘘。頑張らなきゃ認めてくれないじゃない。私が苦しまなくちゃ、愛してるって言ってくれないじゃない。体を捧げなくちゃ、必要だって言ってくれないじゃない」
「蓮見につけられた傷が癒えてないんだね」
拓夢の言葉に、私は黙って泣いていた。
「龍次郎さんがくれた愛を信じてるんだろ?」
「離して」
私は、拓夢に離れて欲しくて暴れる。
「離さないよ、凛。ちゃんと聞かせてよ!龍次郎さんの愛を信じてるんだろ?」
拓夢は、また同じ事を聞いてくる。
「信じてる。信じたい。だけど、怖いの。龍ちゃんも同じだったらって…。ううん。拓夢もだよ。私が捧げるものがなくなったら、二人ともいなくなっちゃうんじゃないかって…。思うだけで、もう…」
ずっと前から感じていた。それは、子供が出来にくい体だとわかったあの日により強くなった。だけど、私は見ないフリをしていた。そしたら、龍ちゃんの愛や優しさを信じられたから…。でも、さっき龍ちゃんからいらないって言われた気がした。だから、押さえていた気持ちの蓋が開いた。
「信じたいけど、怖い。いつか、この手をすり抜けていく気がして…。いつか、私を捨てていなくなる気がして」
「信じろとか簡単に言えない。だって、凛は…。その愛に苦しめられてきたんだよな。でも、龍次郎さんも俺もいなくなったりしないよ」
私は、拓夢の言葉にしがみついて泣いていた。「う、あー、あー」
大勢に愛されたかったわけじゃない。ただ、捧げるものがなくなっても私を愛していて欲しかったんだと思った。
ただの私を…。
「凛は、赤ちゃんの時みたいに愛されたかったんだよな。産まれたばかりの赤ちゃんは、生きて笑ってるだけで愛されてるもんな」
拓夢の言葉に私は、さらに泣いていた。
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